表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第六章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

411/505

バーテンダーの初戦


 戦争は、計画通りに順調に進んでいた。


「次! ウォッタ部隊、前へ!」


 俺達が取った戦法は、かつて織田信長が用いたという三段撃ちに似たものだ。

 これは、魔砲使いであるバーテンダーが複数存在するから取れた戦術である。


 俺達バーテンダー部隊は、得意属性毎に四つの部隊に別れている。

 そして、バーテンダーに限らず基本的に魔法を放つには『詠唱』が必要であり、バーテンダーには『詠唱』に対応する『宣言』が要る。

 その間は隙になるということだ。

 そのため、部隊毎に次々と入れ替わり魔法を放つ戦法が有効だと考えられた。

 一部隊は攻撃、一部隊は詠唱、一部隊は装填、一部隊はクールタイムという名の、ほんの少し息を吐く時間。

 魔術師と違う『バーテンダー』の利点は、『詠唱』を終えた後に放つだけでなく、動く自由があるということだ。

 四つの属性の部隊が代わる代わる魔法を放っていく姿は、これまで個人的な戦闘しか無かった俺の目にはとても壮観だった。


 今もまた、ウォッタ部隊が揃って【スクリュー・ドライバー】を放つ。

 完成度は俺や双子に劣るが、十名近くの同時魔法だ。

 水球の爆発の範囲を調節してやれば、有象無象という言葉がピッタリのスケルトンたちをまとめて吹き飛ばすことができる。

 もちろん、味方の陣形の隙間を縫うような形での攻撃なので穴はある。となれば、その魔法を逃れて接近してくるスケルトン達も出てくるが、


「後ろに通すな! 俺達は優勢だぞ!」


 剣や盾、それに槍を構えた騎士団や自警団の面々が、洩れ出てくるスケルトン達の突進を必死に押しとどめ、討ち倒していた。

 スケルトンの行軍を殲滅しきる火力はバーテンダー部隊には無かった。それでも少なくない数を削ることができている。

 殲滅漏れは物理で押しとどめ、破壊することで、俺達は前線を維持しながら優勢に戦うことができていた。


 俺達とスケルトンの衝突に一切の興味を示さず、マイペースに歩を進めているドラゴンの骸が、不気味ではあったが。




「総さん! そろそろ」


 フィルの声がかかったのは、四巡目の砲撃が終わるかといった頃合いだった。

 その声は、即席の三段撃ちの流れが崩れかけていることを示していた。

 最初は整然としていたバーテンダー部隊であっても、少しずつ、少しずつ隊列に乱れが生まれる。

 敵側が統一された動きで無い以上、それに対応しようとすれば、こちらの攻撃も少しずつ引きずられて崩れていく。

 そして、攻撃にずれが生まれれば、相手の動きに自由を与えて、結果さらに敵の行動に差が出る。

 もし相手が生きている人間であるならともかく、恐怖を知らないスケルトンが行進を止めてくれることもなく。

 結果として、敵に相当近づかれている箇所と、そうでない箇所がはっきりと生まれていた。

 だが、そうなることは想定していたし、それまでどれだけ敵を削れるかの話でもあった。

 そして、ほとんど被害ゼロのまま、相手の全戦力をおよそ二割削れていた。

 このあたりで、次の作戦に移行する。


「各自! 事前の取り決め通り、属性毎に部隊を編成して遊撃を開始しろ!」

「了解!」


 ここから、バーテンダー部隊は移動砲台へと変化する。

 部隊を細かく分け、敵が大量に接近している箇所や、苦戦している箇所に出向いて援護を繰り返すのだ。

 ついでにスイを含めた街の魔法使いは、始めからこちらの作戦にのみ参加する予定だ。


 俺の声に合わせて、四つに別れていた部隊が更に分かれて行く。だいたい四人セットの十組ほどに分かれたところで、動き出した。

 俺もまた、俺に付いた三人の見習いと共に走り出す。このグループの面々は、ジーニが得意な子たちだ。俺の装備も、ジーニに偏らせてある。


「援護する!」

「助かる!」


 そうして俺達は、自分たちよりも数の多いスケルトンをなんとか抑え込んでいる自警団の面々の元に向かった。

 自警団は、騎士のように専門的な訓練を課されたわけではない、街の力自慢や正義漢などが集って相互協力で作り上げた組織だ。それ故に、装備も技量も騎士に劣るところがあり、果敢に戦ってはいても劣勢になる箇所が多かった。

 俺は戦場の専門家ではないが、場の雰囲気を俯瞰するのは得意だ。なんとなくどこに『カクテル』が必要かは分かる。

 だから、俺達は真っ先に彼らの元に駆けつけたのだ。

 返事もそこそこに、俺達バーテンダー部隊は『宣言』を開始する。


「【ジン・トニック】でいくぞ!」

「はい!」


 ジーニ属性の中でも基本的な、特に見習い達に練習させたカクテルの指示を出す。

 踏みしめた草原の柔らかさを感じながら、しっかりと足を付け、銃口を自警団と押し合っているスケルトン達に向ける。

 見習い達が装填を終えるのを見届けて、始めた。


基本属性ベース『ジーニ45ml』、付加属性エンチャント『ライム1/6』、系統パターン『ビルド』、マテリアル『トニック』アップ」


 これは、一人だけ『弾薬化』したカクテルそのものから魔法を打ち出せる俺の宣言。

 純粋なカクテルの材料の素性そせいを唱えるだけの、レシピブックのような宣言。


基本属性ベース『ジーニ45ml』、付加属性エンチャント『ライム1/6』『アイス』、系統パターン『ビルド』、マテリアル『トニック』アップ」


 そしてこれが、新たに銃を手に入れた見習い達の宣言。

 単に材料に『アイス』が加わっただけだが、それだけで違う。

 この宣言は、今からこの材料を使って『カクテル』を作り上げるためのもの。

 俺以外の、全てのバーテンダーが使う事のできる、世界で新たに生まれた『魔法』のための宣言だ。


 俺の指先から、弾薬へと微量の魔力が流れて行く。

 それにより、弾薬と化したカクテルが、魔法へと変化していくのを感じる。

 俺は呼吸を一つ置き、見習い達がカクテルを完成させる前に、自警団の皆へ告げる。


「もうすぐ魔法が飛ぶぞ! 合図したら下がってくれ!」

「了解!」


 それから見習い達の完成を待った。

 彼らの銃は、今回の戦いのために急製造された量産型。

 だが、機人達の工夫により、一つ試作品から大きな変更がされている。

 それが『マテリアルスロット』と呼ばれる、追加弾倉接続機構だ。


 それがどういう機能かといえば、専用の『カートリッジ』を用意することで、試作段階では『180ml』などで指定していたオレンジジュースやトニックウォーターなどの割り材を、カクテル作成時に自動で適量を引き出してくれる機構である。

 飲み物のカクテルを作る際のイメージにより近くなったとでも言えば良いか。

 オレンジジュースやトニックでアップする際に、わざわざ計り入れずにグラスを満たすイメージに近づいたわけだ。

 こうすることで、カクテルのイメージのしやすさと、手順が効率化され、より魔法の精度が高まった。

 また、マテリアルスロットに入れておく『カートリッジ』は、1000mlなど大量の割り材を弾薬にしたものを利用しているので、弾薬数の節約にも繋がる優れものだ。

 俺も即座にお願いして自身の銃に組み入れてもらったものだ。


「行けます!」


 見習い達は俺に少し遅れたものの、揃ってカクテルを完成させた。

 ブゥンと鈍い音を立てて震える銃を強く握り、自警団とやり合っているスケルトンの軍団に向ける。


「撃つぞ! 下がれ!」

「おう!」


 合図をすれば、彼らは力強く答え、やや強引にスケルトンへと武器を振るう。

 大振りの一撃は当然防がれるが、それで双方の距離が空く。その隙に彼らは大きく後ろに下がった。

 射線上から、味方が居なくなる。


「【ジン・トニック】!」

「「【ジン・トニック】!!」」


 俺を含めて四人の銃から同一の魔法が放たれる。

 それらは少しずつ合わさり、強大な風の渦と化して群れているスケルトン達をまとめて打ち散らした。

 後に残るのは、繋がりを失ったバラバラの骨の破片である。


「ひゅー! 助かった! また頼む!」


 先程の隊列を組んでの攻撃とはまた違う、合同魔法の威力に自警団は盛り上がりつつ、まだまだ迫ってくるスケルトンへと向けて態勢を整える。


「魔法が必要になったら、任せてくれ!」


 俺は彼らの背中に声をかけつつ、額の汗を拭った。

 訓練されている騎士ならともかく、自警団とスケルトンの実力はほぼ互角だ。

 いや、ややスケルトンに分があるように思える。

 恐怖を知らぬというのは、こういうぶつかり合いにおいては、やはり有利だ。

 となれば、どう気をつけても犠牲は出るだろう。

 先程だって、俺達が援護に入らなければ彼らがどうなっていたかは分からない。

 であれば、その犠牲をどれだけ防げるかは俺達の働きにかかっている。


「次に行こう」

「「はい!」」


 俺に付いている騎士見習いの三人は、俺の言葉に気丈に答えた。

 いずれにせよ、今はまだこちらの優勢だ。疲労がない今の内に攻められるだけ攻めておかねばならない。

 混戦になればなるほど、範囲攻撃である魔法はその有効性を無くしていく。

 攻撃の範囲が広ければ広いほど、味方を巻き込む危険性が上がるからだ。

 俺は心に喝を入れつつ、少しだけ目線を上げる。

 周りの戦いがあっても、未だに自身のペースを崩すことなくゆっくりと歩いているドラゴンゾンビが、やはりどうにも不気味であった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ