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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第六章

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久しぶりの四人


「ギヌラ、久しぶり。元気にしてたかい?」

「ふん、久しぶりだな、アルバオ。そちらこそ元気そうで何よりだ」


 時は変わって、夕暮れがすっかり闇に染まるころ。俺とアルバオは、スイ達と別れて行動していた。

 とある飲食店の中で、アルバオとギヌラは、互いに再会を喜び、握手を交わす。

 ここは、残念ながらイージーズではない。ギヌラはイージーズ出禁なので、アルバオとの再会をウチの店で行うことはできない。。

 それゆえ、ふらりと立ち寄るには少々値の張るお店を、ギヌラ名義で予約していた。

 内装は、清潔感のある白を基調としたもの。テーブルの数に比べて、やや空間の取り方も広い。客の服装も比較的フォーマル寄りで、大衆酒場的な趣のあるウチと比べると、ランクが一つ二つ上だろうか。

 とはいえ、料理の味や飲み物の美味さで言えば、ウチも負けていまい。というか勝ってる。カクテルないし、ここ。


「それで、なぜお前がここに居る、ユウギリ」


 アルバオには、一応友好的な目を向けていたのに、俺に対してはこの態度である。


「なぜって……お前自分で予約しといて……」

「僕はアルバオと会う為に店を予約したんだ。アルバオがどうしても友人を連れて行きたいというから仕方なく、人数を確保したに過ぎない。お前を呼んだわけではない。勘違いするんじゃない」


 ギヌラは相変わらず、俺に対してこんな感じである。

 ギヌラと飲んだあの夜の一件以来、打ち解けたかに見えて、まるで変わらない。

 せいぜい、一緒に仕事をするようになった位で、むしろ、以前にも増して態度が悪くなっている気すらする。


「うわぁ。本当は久しぶりにあの時のメンバーで集まってウキウキなのに、それを隠そうとしてるギヌラ、気持ち悪いかも」

「なんだとイベリス」


 そして、この場にいる最後の一人、イベリスがやや引き気味に言い、ギヌラが睨む。

 説明するまでもなく、この場にいるのは以前『ホワイトオーク』で研修していた際のメンバーだ。

 俺とイベリスが隣り合っていて、俺の対面にはアルバオ、俺の斜め前にギヌラの構成だ。


 横から見た場合、ギヌラとイベリスの側から魔物が来れば良いが、俺とアルバオの側に現れると全滅必須の陣形である。

 そんな前衛二人組の会話であるが、ギヌラはイベリスに対してやや頭の痛そうな顔をしている。


「……イベリス。そもそも君はなぜ、レストランに来ているにも関わらず、作業着なんだい?」

「えー、だって機人にとってはこれが正装だし。心配しなくてもちゃんと洗ったってば」

「そういう問題じゃ……はぁ、まあ良いさ」


 ギヌラはイベリスの服装に突っ込むのは諦めたようだ。

 その代わり、イベリスを作業着のまま連れてきた俺を睨む。俺だって、少し位は指摘したっての。

 ギヌラはそれから、テーブルに置かれていたメニューを広げ、手慣れた様子でめくっていく。

 彼と食卓を囲むのは二度目だが、なかなかどうして、フォーマルな場所でも様になっている。どうやら最初はドリンクを頼む様子だ。


「何を飲む? アルバオ」

「ワインはあんまり詳しくないから、オススメを頼むよ」


 尋ねられたアルバオは、そのままギヌラに選択を委ねる。


「分かった。イベリスもワインで構わないかい?」

「問題無いかも」


 イベリスもアルバオに倣う。

 それからギヌラは俺をちらりと見て、同じように言った。


「それじゃユウギリ、水で構わないか?」

「構うわ」

「……ちっ。仕方ない、ワインのボトルで良いな」

「お前ほんと、どんだけ俺のこと嫌いなんだよおい」


 ナチュラルに水を勧めてくるとかなんだこいつ。

 明らかに酔っぱらったお客さんを前にしたバーテンダーかよ。

 いや、バーテンダーは無言でさっと水を出すことも多いけど。

 ……そう考えたら、無言で水を出されなかった分だけ良かったわ。うん。


「それじゃ、料理も適当に頼む、それで良いね?」

「おまかせで」


 飲み物に続いて、料理についてもギヌラに任せる。こういうところを、率先してやってくれるのはなんだかんだで頼りになる。


「アルバオは、何か食べたいものはあるかい?」

「んー、メインは食べ応えのあるものが良いかな」


 アルバオの返答に頷きを返すギヌラ。


「では、メインは豚肉で何か頼もう。イベリスは、好き嫌いは?」

「子供扱い禁止。でも、あんまり脂っこいものは苦手かも」


 不服そうに頬を膨らませつつ、イベリスも答える。

 ギヌラはそんなイベリスの態度に薄く微笑んだあと、最後に俺を見る。


「ではユウギリ、嫌いなものと、すごく嫌いなものはなんだい?」

「その二択になんの意味があるんですかね」

「知れたことさ。メインをすごく嫌いなものにして、その周りを嫌いなものであわせる」

「すごく気の利いた嫌がらせだなおい」


 俺の返答に対し、ギヌラはニコリともせず、冗談だ、と言った。

 そんなわけあるかと、俺の怒りゲージが若干上がり、アルバオに宥められる。

 とはいえ、こんなやり取りをしていると、ホワイトオークでの日々を思い出すのも確かだ。

 俺とギヌラがやり合い、イベリスが適度にギヌラを煽り、それをアルバオが宥める。

 そう思うと、昔に返ってきたみたいな気がして、少し笑ってしまった。

 その途端、俺がボロを出すのを待っていたとばかりに、ギヌラが皮肉っぽく、無表情で言った。


「なんだユウギリ、突然笑い出して気持ち悪い奴だな」


 無表情でありながら、その実、決まったと目だけが変に輝いているギヌラ。

 そんなギヌラに、イベリスがぼそり。


「そういうギヌラも、ちょっとにやけてるかも」

「なっ」


 イベリスに指摘されて、ギヌラははっと自分の頬に手を当てた。

 だが、さっきまでギヌラはしっかりと無表情であった、頬に手を当ててもその事実に気づくだけだろう。

 だが、慌てたということは、さっきの無表情は作った顔で、イベリスの指摘に思い当たるふしがあったということ。


「あはは、嘘かも」


 いつものごとく、イタズラ好きのイベリスが、にんまりと馬鹿にするようにギヌラを見ていた。

 ギヌラも、先程までの化けの皮が剥がれたように、悔しそうに歯を食いしばる。


「く、この、イベリス……」

「ああもう。喧嘩は良いからまずは注文しようよ。まったく」


 そんなギヌラを宥めるアルバオ。

 さっき頭に描いた光景が、僅か数秒で目の前に広がってしまった。

 そうなると、俺もまた、笑うつもりもないのに笑ってしまって。


「ユウギリ、何が可笑しい」

「いや、すまん。変わったようで全然変わらないお前が、滑稽で」


 最後の言葉のチョイスは、軽い意趣返しである。

 プチンと、ギヌラの何かが切れた音がした。


「おいイベリス! ユウギリの苦手なものを教えろ! 僕の奢りでフルコースを味わわせてやる!」


 イベリスにメニューを投げ渡すギヌラ、その言葉を聞いてイベリスは目を輝かせ、コースのページを熱心に眺める。


「んーと、ちょっと待って、たぶんこれ」

「なるほど…………イベリス、単純に一番高いコースを選ばなかったか?」

「だって奢りだし?」


 と、まるでギヌラの要望を無視した、イベリスらしい注文であった。

 ギヌラは再度拳を握りしめ、店員を呼びつける。


「店員! 脂っこいもの、とにかく脂っこいものを頼む!」

「わわ、ギヌラの馬鹿!」

「ふはは、思い知ったか!」


 と、イベリスが若干涙目になり、ギヌラが勝ち誇ったように高笑いを上げる。

 その段階で、先程呼びつけた店員が、苦笑いを浮かべてひと言。


「あのお客様。店内には他のお客様もいらっしゃいますので、お静かにお願いいたします」

「「「「すみませんでした」」」」



 俺達は四人揃って、綺麗に頭を下げたのであった。


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