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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第五章 幕間

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選択の自由(5)


 カクテルの『試し撃ち』もできるようにと作った訓練場だった。

 その隅にはちょこんとしたバーカウンターがしつらえてあって、パッと見はこぢんまりとしたクラブのようなこの建物。

 カウンターの席には、イベリス、スイ、ノイネの三人が座っていて、これから起こることに期待と不安の目を向けていた。

 俺はそのカウンターから少し離れたところに立ち、台に乗った試作品を眺める。


 この『試作銃』の形状は、俺が普段使っているリボルバーをベースにしている。実際に手に取ればグリップの握り心地は、俺の手にしっくり来るいつもの感じだ。

 だが、その砲身というか、中心というか。銃に詳しくないのでなんと言えば分からないがボディの辺りが、独特だ。


 そこはまるで、シェイカーを模したようなやや太めの形状をしていた。


 スウィングアウトすると、シリンダーがその膨らみの部分から現れる。詳しくはないが、リボルバーとして不自然なほど太くはない気がする。

 だが、銃というより、銃とシェイカーを足して二で割ったような形には見える。

 なんだろうか。拳銃だけど拳銃じゃないというか。近未来的な光線銃を、もっと物理的な大砲っぽくしたみたいな。

 そんなイメージになるのは、撃鉄が叩くものが弾薬の雷管ではないからかもしれない。

 シリンダー自体を一発の砲と見なすように、その中心へと魔力の衝撃を叩き込むようにできている。


 銃のグリップを少し握り変える。ボディの膨らみに合わせて、シェイカーを押さえるときのように右手を添えた。

 グリップの余分がある筈なのに、適度な滑り止めがあるせいか、こちらもまたピタリとイメージ通りに当てはまる。

 持ち方一つで、銃にもシェイカーにもなる。そんな新しい『銃』というのが、まさしくな言い方であった。


「弾薬は、それを全部使って」


 声をかけられ、イベリスが事前に用意していた弾薬に目をやる。

 今から作ろうとしている『カクテル』は【スクリュードライバー】だ。

 材料は、シンプル。『ウォッカ』──『ウォッタポーション』と『オレンジジュース』の二つ。その筈だ。

 だが、イベリスが用意した弾薬は、全部で三つあった。


「これは?」

「カクテルを作る時に、大事なもの。なんだと思う?」


 謎掛け、のように思ったが思い当たるものは二つしかない。


「氷か、グラス?」

「正解かも。その弾薬は『氷』だよ」


 氷。

 通常、カクテルのレシピを表す際には、材料として記述されることはないものだ。

 だがしかし、実際にカクテルを作るときにはこれ以上無いほどに重要なものだ。

 一般的なカクテルに使うカク氷(と呼んでいるが、正式名称はクラックドアイスというらしい)。それをもっと細かく砕いたクラッシュアイス。ウィスキーロックの代名詞のような丸氷。良く使われるのはその三つ。

 とかく、氷の選択はカクテルの完成形を左右する重要な要素である。


 その説明を受けたときに、俺はこれまでの『試作銃』に明らかに欠けていたものが『氷』であったのだと、納得した。

 カクテルを冷やすことは、魔力の活性化に繋がる。そこのところを、これまでの『試作銃』は内部機構に組み込んでいた。それを外に出したのだ。

 イメージはその方がしっくりくる。氷の入ってないグラスに、材料を入れて混ぜ、それを冷蔵庫で急速に冷やしたものと、グラスの中に氷を入れて冷やしたものは、別物だ。

 そんな俺の納得が伝わったのか、イベリスは少し補足するように、俺を促す。


「他にも、もっと余分なものをこそぎ落としてシンプルな設計になってるけど、とりあえず一回試して欲しいかも」

「分かった」


 他にも余分なものを省いたというのも、以前俺が言った『もっとシンプルに』という意見を、反映させたのかもしれない。

 確かに、これまでの『試作銃』よりもこの『銃』は、俺に色々なものを委ねてくれているような気がした。


 俺は一度、大きく息を吸う。

 これまでもそうしてきたつもりだが、一層強く意識を変換する。

 ただの『夕霧総』から、バーテンダーの『夕霧総』にスイッチを切り換える。


 目の前にお客さんは三人。彼女達に出す『カクテル』は【スクリュードライバー】だ。

 何も心配する必要はない。いつも通りに作れば良い。


 俺はイベリスが用意していた弾薬に手を伸ばした。

 弾薬と化した材料から仄かな冷気が漂ってくるようだ。いや、実際に俺の作業をいつも見ているイベリスだ、材料をちゃんと冷やしておくくらいはするだろう。

 それを弾薬から感じるというのは、気持ちの問題かもしれないが。


 三つの弾薬を、スウィングアウトしたシリンダーに丁寧に込めた。

 確か『ウォッタ45ml』に『オレンジジュース160ml』(適量を数字にするのは難しいのであくまで目安だ)。そして『カク氷』が三、四個。

 確かにそれがシリンダーに収まった。銃は六連装なのでシリンダーには三発分の空きがあるが、無理に埋める必要はない。


 事前に説明された材料達を、頭の中で確固としたイメージに変換する。

 たとえ現物がなかったとしても、頭で材料を用意し、味を再現するくらいはいつも行っていることだ。

 弾薬の形とはいえ、材料が実際にあるのなら、イメージは更に容易い。


 シリンダーは、グラスだ。

 そのグラスの中へ、材料を順番に入れてやったのだ。

 氷を入れて、冷凍庫でキンキンに冷やしたウォッカを流し込む。そして最後にオレンジジュースでグラスを満たす。

 そうやってできた材料の海に、バースプーンを差し込む。不均一に混ざった材料を、素早く丁寧に『カクテル』へと作り替えて行く。


 その過程をイメージすると同時に、俺は丁寧にその作業を宣言する。


基本属性ベース『ウォッタ45ml』、付加属性エンチャント『アイス』、系統パターン『ビルド』、マテリアル『オレンジジュース』アップ」


 普段カウンターの中では行わない宣言だが、その宣言が、この『カクテル』が魔法であるのだという認識を俺に与えてくれる。

【スクリュードライバー】の存在が、魔法の効果に変換されていく。

 その作業は、今までは俺にしか扱えない特殊な『弾薬化』の魔法で行われていたことなのだろう。弾薬を作る段階で、すでに組み込まれていた未知の術式だ。

 それが今まさに、俺の手の中で。この無骨な黒い金属の中で行われている。

 俺のイメージを材料に魔法を練り、指先から活性化の魔力を吸い上げ、一つの『カクテル』が銃というグラスの中で作られている。


 やがて、完成したカクテルに満足気な笑みを浮かべる、バーテンダーのように。

 手の中の黒い銃は、鈍い唸りを上げた。


 どこを目指すでもない。

 ただ目の前に広がるだだっ広い空間へ銃口を向ける。

 そこから放たれるのは、弾丸ではない。


 魔法カクテルだ。



「【スクリュードライバー】」



 俺は言葉と共に、引き金を引く。

 言葉自体が一種の呪文のように、俺の指先から、更に起爆のための魔力が迸る。

 それは引き金へと伝わり、撃鉄に流れ、魔力の衝撃をシリンダーの──グラスの中の『カクテル』へと叩き込んだ。

 お客様に提供されるのを今か今かと待っていたカクテルは、その瞬間を迎えて、勢い良く銃口からその姿を表した。



 これまでの『試作銃』のときとはまるで違う、強烈な水の砲弾が、何も無い空間にめがけて飛び出していった。



 それはある程度の距離まで達すると、目的地をついにその場と定めたかのように、動きを止める。

 否、前に進むために使っていたエネルギーを、別の力に変換したのだ。

 すなわち、水球の大爆発を起こし、水の爆弾と化した力が空間に炸裂した。


 その爆発の余波は、カクテルを放った俺の所にまで届いて、僅かに頬を濡らす。

 今までのヒョロヒョロとした何かとはまるで違う。


 俺の知っている、ほとんど完璧な形の魔法カクテルであった。



「……できた、の?」



 茫然と呟いたのは、恐らくスイだっただろう。彼女の声が呼び水となる。

 俺がそちらに振り向くのとほぼ同じタイミングだった。


「……成功! 成功かも!」

「かもじゃありません! 完璧な成功です!」


 それまで不安そうにこちらを見ていた面々の声が、さきほどのカクテルのように爆発していた。

 イベリスとノイネの弾む声は、目的云々の話ではなさそうだ。自分の描いた理論が証明されたこと、技術としてそれを成し遂げたことによる純粋な喜びだと思えた。

 スイは、そんな二人を少し遠巻きに見つつも、満足気な微笑を浮かべている。

 三人が三人とも、この実験の成功を喜んでいることが切に伝わってきていた。



 かくいう俺は、そんな三人を見て微笑ましい気持ちになりつつ、もう一度、自分の握っている銃に目を落とす。

 完成した。その実感が、何故か俺の胸の奥を奇妙に締めつけるのだった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


昨日は更新できずにすみません。やはり、今日中に二話はちょっと難しそうです。

申し訳ありません。今日からもう少し頑張ります。

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