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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第五章 幕間

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テーブルカクテルキャンペーン実験(2)


「正直に言って良い?」


 それからゆったりと食事の時間を過ごし、食卓の皿もそこそこ綺麗になったころ。

 自分で作った【キティ】──赤ワインのジンジャーエール割り──を飲み干したライが、少し赤くなった顔で言う。


「自分でカクテル作るのね。なんか、めんどくさい」

「……めんどくさい」


 歯に衣着せぬ物言いは、少し酔っているからかもしれない。俺は噛みしめるように復唱した。

 ポーションではなく、純粋にお酒に酔ったライは、赤ワインのボトルを手に取る。


「だって、ワインだったら注ぐだけ。でも、カクテルは違うもん」

「違うって言っても、注ぐのが二回になるだけだろ?」

「二回って言うけど、作業倍だよ、倍。めんどくさいよ」


 ライの感想に、むぅ、と唸る。確かに彼女の言っていることにも一理はある。

 俺が普段のカクテルを作るのに比べれば、氷だとかステアだとかの作業は簡略化してある。しかし、それを差し引いても、ただ注ぐのに比べれば考えることは多い。

 ライも最初は、馴れない作業なりに楽しんでいたようなのだが、食事が進んでくるとどうもその工程が煩わしくなったようだ。


「スイも、そう思う?」

「うーん」


 ライの意見はひとまず置いてスイに尋ねると、スイもまた困ったように俯く。

 あからさまな肯定ではないが、ライよりの意見と言った感じか。


「多分だけど。自分で作ってるって感覚は、料理を食べにきた人達は、別に要らないのかなって」

「……要らない、か」

「もちろん、絶対に嫌ってわけじゃない、と思うけど。せっかく食べに来たんだったら、そういうところもお店の人にやってもらいたい、って人が多いかもね」


 スイは言葉を選んで控えめに言ってはいるが、やはりやや否定的な様子だ。

 確かに、安さというのを売りにしたといえ、自分で作業することを良しとしない人は多いかもしれない。

 店にサービスを求めにきたのに、急にセルフサービスと言われても戸惑うか。

 更にスイは重ねるように、もう一つ苦言を呈する。


「あとは単純に、カクテルを頼む人って、やっぱり総のカクテルを知っているわけで」

「俺?」

「うん。どうしても、自分で作るより、総に作ってもらった方が、美味しいんじゃないかって、考えちゃうと思う。作業を減らすために、材料を簡略化してるのもあるし。それだったら、美味しいカクテル、飲みたいかなって」


 気軽に楽しんでもらうために、レシピを簡単にしたのは、却って仇になるというわけか。

 スイの意見は、ライよりもカクテルに親しんだ人の意見。となれば、実際のお客さんでカクテルを楽しむ人もまた、似た様に考えるかもしれない。


「ノイネさんは、どうですか?」

「私は、そうですね。悪くないと思いますよ」

「えっと?」


 立て続けに反対意見が続いていたので、ノイネの意見に少々戸惑ってしまった。

 そんな俺の顔を見て苦笑いをしてから、ノイネは落ち着いた声で続けた。


「私は、二人よりもカクテルを作る、というのがいくらか自然ですから。自分で色々と組み合わせてみる、という作業に二人よりも楽しみがあります」


 言いつつ、彼女は優雅にグラスを傾ける。その中にあるのは、確か白ワインのソーダとジンジャーエール割だ。

 言葉通り、ノイネはこの中で一番カクテル作りの経験がある。

 彼女のように多少カクテル作りに馴れた人だと、自分で調整できるというのはプラスに働くか。ついでに、ノイネは【オペレーター】を作ったは良いが、少し甘過ぎるといってソーダを足していた。

 そのくらいのさっぱりした甘さのほうが、木の実のケーキなんかとは相性が良いみたいだ。そのあたりの、料理との相性を探るというのも、彼女が一番やってくれていた。


「ただし、あくまでも私は、ですね。あなたも知っているでしょうが、一般的なお客さんはそこまで自分の好みも知らないですし、味の調整も上手くはありません」

「ですよね……」

「しかし、もう一つ、この形式に利点はあると思います」


 すっと、手ぬぐいで唇を拭い、自然な所作でノイネは白ワインのボトルを手に取った。

 それから、反省会の様相を呈する雰囲気の中で黙っていたライへとそれを向けた。


「ライ。自分で作るのが面倒でしたら、私が作ってあげますよ」

「え? 良いの?」

「はい。甘めにしましょうか」


 言って、ノイネはライにカクテルを作る。初めに白ワインを注ぎ、そこに続いてジンジャーエールを。どうやら、ライが気に入ったらしい【オペレーター】だ。

 その一連の動作を見守っている俺に、彼女は分かったかという視線を向けてきた。


「グループ内で作ってあげたりできる、っていうのは利点にもなると?」

「カクテルを知っている人が、知らない人に。作るのが上手い人が、下手な人に。そういう一種のコミュニケーションとしても、利用はできるでしょう」


 彼女の指摘によって、頭の中でひとつの塊が溶けた。

 俺はどうにも、カクテルは『自分』が作るもの、という意識が強かった。だからこの実験も、自分の分を自分で作るイメージになっていた。

 だけど思い返せば、テーブル内で自分の分を作るだけでなく、他者に作ってあげる、というのもまた当たり前にあることだろう。

 それをしたい人が(まあいればだが)それをできるのは、利点になる。


「というわけで、私としては面白い試みだと思いますが」


 ノイネはそう言って言葉を締める。となると残るはオヤジさんである。


「…………」


 店で最終的な物事の決定権を握っている彼は、最初から一貫してカクテルではなくワインを飲んでいた。

 実は、以前オヤジさんと企画を練っていたとき、オヤジさんはあまりこの企画に乗り気ではなかったのだ。

 数ある企画の一つなので、じっくりと練ったわけではない。だが、オヤジさんはぽろりと『それなら、ワインだけ飲む人もいるだろうな』と感想を漏らしていた。

 そういうお客さんもあり得るというのは分かるが、その意図はどうだったのか。

 オヤジさんは、少し考え込むようにグラスを見つめてから、言った。


「なあ小僧。おまえ、こんな企画を思いついたからには、宛てがあるんだろ?」


 なんの宛てか、というのは分かる。この企画で使うための『ワイン』の宛てだ。

 お酒の仕入れ先は、ポーションとは違う。イージーズで使う『エール』は、オヤジさんの知り合いの店から仕入れているし、それ以外のお酒は、基本的には取引というより、その都度、必要な分を買いに行っている。

 今まで、俺はワインを前に出さなかったし、それを注文する人もあまり居ないから、それで成り立っていた。

 だが、今回のように大々的にワインを出すのであれば、安定供給できる取引先が必要になる。それについてをオヤジさんは言っているのだ。

 その問題は、すでにこちらの気持ち次第でもあった。


「……それはまあ。サフィーナ商会から、安くてそこそこ美味しいワインを仕入れることができそうで」

「じゃあ、ワインの問題はない。それはいい。しかしそうなると、わざわざそれをカクテルにする必要はあるのかって問題があるな? ワインのまま、テーブルに出しちゃいけないのか?」

「…………それは」


 ライも言っていたし、オヤジさんも実践していた。ワインを、わざわざカクテルにする必要があるのかと。

 今のテーブル席での飲み物の問題だって、ワインのボトルをテーブルに出せば済む話ではある。無理やりカクテルにしたって、お客さんの飲める量が増えるわけじゃない。

 このキャンペーンを、はじめからカクテルありきで考えていたから、こうなっただけ。

 カクテルを抜いても問題がないのなら、最初からそうしても、良い。


「……そのまま出しちゃいけない、ってことは、ないと思う」

「だよな。それでもカクテルにしたいってお前は思うわけだ」


 そうだ。それを分かっていても、俺はカクテルをメインにしたかった。

 理由がいくらかあるのは、最初に述べた通りだ。

 料理とお酒の相性について、お客さん自身の口からフィードバックが欲しいのと、カクテルに心理的な親しみを持ってもらうこと。

 その二つを考えると、飲み物の主力がカクテルであるイージーズでは、カクテルを絡めるべきだと、俺は思った。

 しかし、オヤジさんはあまり、はかばかしい顔をしていない。


「別にイベントを企画するのは止めねえよ。お前はカクテルが好きだってのも分かる。だけど、それを無理に絡める必要は本当にあるか? お前のやりたいことでお客さんが喜んでくれて、売り上げも伸びるんなら存分にやれば良い。だが、お前のやりたい事を押し付けても、お客さんは喜んじゃくれない。分かるだろ?」

「……はい」

「今回のは、他にも色々目的はあるし、却下するつもりはねえけどよ。……だけど、もう少し練り直しても良いかもしんねえな」

「……分かった」


 オヤジさんの煮え切らない態度に、俺は素直に頷いた。

 確かに、何かあと一つ足りない、そんな気がしたのだ。

 お客さんが『ワイン』ではなく『カクテル』を選ぶ。それを楽しんでもらう最後の一押しがないと、この企画は失敗する。


「とりあえず、今日のところは良いだろ。せっかくのライの料理だ、最後まで楽しもう」

「……そうだね。協力してくれてありがとうみんな」


 オヤジさんが話を切り上げる。俺は素直に頷き、表面上は吹っ切った顔をする。

 俺の礼を受けて、女性陣はそれとなく反応する。

 ライはんーん、と遠慮しつつ嬉しそうに。ノイネはいえ、と本当に気にしてなさそうに。

 そしてスイは、何か思う所がありそうに、心配そうに俺を見つめていた。



 だが、その話が食卓でそれ以上蒸し返されることはなかった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


更新、大変遅れてしまい申し訳ありませんでした……

一応、気持ちとしては今日からまた定期的な更新に戻れればと思います。


それと、お知らせが大分遅くなってしまいましたが、本日、書籍の方の三巻が発売致しました。

二巻に引き続いて、web上とは構成などが結構変わっておりますので、

少しでも多くの人に楽しんで頂けると幸いです。よろしくお願いします。

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