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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第五章 幕間

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とある休日の話(9)

『モッキンバード』とは『モノマネドリ』のこと。

 モノマネドリとは、他の鳥の鳴き声を真似る性質を持った鳥だ。昔調べた時には、鳥の鳴き声どころか機械音まで真似ている動画を見たことがある。

 カクテルの名前になった由来や発祥などはあまりはっきりとしていないが、『テキーラ』の原産地であるメキシコの森に住むことから取ったのだとか。

 美しいミントの緑色が、どことなく森や自然を感じさせたのだろう。


 また、このカクテルは大体のカクテルブックに名前が乗っていたりする。

 にも関わらず【ジン・トニック】や【ギムレット】【ダイキリ】のような超有名カクテルに比べると、知名度が低い。

 そもそも、テキーラベースのカクテル自体が、他の三種類のカクテルと比べて数が少ないことが原因なのだろう。

 それくらいテキーラの個性は強く、カクテルのベースに使い辛いところはある。


 だが、その中でも【モッキンバード】は、特に飲みやすいカクテルだと思う。

 ミント特有の爽やかな甘さは、テキーラの印象を上手く覆う。見た目も美しく、味自体も尖ったところがない。

 テキーラが苦手な人間にも、できれば一度は飲んで欲しい一杯である。




「【モッキンバード】自体はそういう意味がありますね」


 軽くカクテルの説明をしてやれば、コルシカは楽しそうに聞いてくれる。

 バーテンダーはなんだかんだお酒のうんちくを持っている。が、お客様が興味なければそれを無理に語ることはしない。

 自分の知識を語るのは楽しいが、自分が楽しむことが目的ではなく。最終的にはお客さんに楽しんで貰うのが目的だからだ。

 とはいえ、聞いて貰えると嬉しいことは嬉しいのである。


「モノマネドリですか……ソウさんの世界にも、面白い動物が居るんですね」

「この世界にも居るみたいですね。図書館の図鑑で見ましたよ。まあ、魔物とかに比べればただの鳥ですけど」


 俺の持つ情報は、その大部分を街の図書館に依存している。そんな俺が特に気をつけて調べているのはカクテルの名前に関することだ。


 意外と、生き物系は地球と共通する名前を見ることが多い。

 この辺りは、地球との差異が少なければそのまま翻訳されているのだろう。あまり詳しくないので、この世界の動物の名前が、地球とどう違うのかまでは分からない。

 流石にガラパゴスなんとか、みたいな生き物の名前を見たことはないが、その辺りはかなり融通の利く翻訳がなされているようだ。


 同様に、色とか自然とかといったものも、英語や日本語などを問わず、俺の認識がしっかりしていれば通じるようだ。

 青と蒼がニュアンスの違う『アオ』に翻訳されているらしいことも、なんとなくは分かっている。それを自由に書き分けられるほど、俺はこの世界の文字に堪能ではないが。



 結局は自分が認識している単語であれば、問題無く意味が通じる。



 が、地名系に関しては、一筋縄ではいかないことが多い。

 アメリカの知識は俺にはあっても、それと置き換わる何かがこの世界には無いのだ。

 だから、地名の付いたカクテルは説明が大変だし、メキシコに住んでいる鳥と言っても通じはしない。


「南のほうの森に住んでいる、ちょっと面白い鳥ってところですね」


 結局は、汎用的な表現で収めることになる。

 そういうカクテルは名前を改めるべきかと悩みもしたが、こればっかりは、どうしようもない。いや、心情的にどうにかしたくない、といったところか。

 本当は【ジン・トニック】だって、『ジーニ』で作っているのだから『ジーニ・トニック』と名称を改めるべきなのだろう。

 だが、それは俺の世界で積み上げてきた『カクテル』の歴史そのものを無視する行為のような気がしてしまうのだ。

 名前には、それを付けた本人の意思はもちろん。それを代々扱ってきた人達の思いも込められている。ような気がする。


 ……はて。こんな話を俺に向かってしたのは、誰だったろうか。

 …………。


「とにかく、気に入ってもらえたのなら何よりです」

「はい。本当にとても気に入りました。私、結構ミント、好きなんですよね」


 俺は頭にふっと浮かんできた疑問を振り払ってから、コルシカの笑顔に応える。彼女は気持ちよくカクテルを飲んでくれてとても嬉しい。

 ミントが好き、というのは良い情報だ。今後カクテルを作る上での参考になる。

 俺がそんなことを考えていると、その話を横で聞いていたサリーが、ここぞとばかりに話に入ってきた。


「コルシカ、ミントの香り嗅いでるときすごい心地よさそうな顔していたものね」

「そ、そうですか?」


 コルシカとサリーも、年がそれなりに近いせいか仲は悪くない。

 しかし、仲が悪くないとなると、サリーはあまり遠慮がなくなる。そして、フワフワとしたコルシカに対しては、結構、悪い顔をしたりもするのだ。

 今みたいに。


「ええ。あれはそう、親に抱き締められた子供のような」

「なっ違います! そんな風では無かったはずです!」

「では、赤ちゃんかしら?」

「もっと酷いです!」


 サリーがコルシカを子供っぽいとからかうと、コルシカは少しムキになって反論していた。

 その反応を見て、ニシシと笑うサリー。こいつ、バーテンダーやってるときはともかく、根はやっぱり結構ないじめっ子だな。

 俺はそんな話を聞きながら、ちょっと懲らしめてやろうかとサリーに指差した。


「はいサリー。ミントを使ったカクテル。すぐ挙げろ」

「はっ、え!?」


 自分がいきなり指されるなど、まるで考えていなかったようだ。

 サリーはピンと背筋を伸ばすが、あーとかえーとか唸って、すぐには名前が出てこない。それでも十秒ほど待つと、ようやく一つ口にした。


「あっ! 【グラスホッパー】!」

「……うん。まぁ、一ポイント進呈しよう」

「やったわ!」


 お情けでポイントを加算してやれば、サリーは勝ち誇ったようにガッツポーズを取った。

 ちなみに【グラスホッパー】は『ミントリキュール』『ホワイトカカオリキュール』『生クリーム』を材料とする、チョコミントのような味わいのショートカクテルだ。

 あまり度数が高すぎない、デザートカクテルとして、結構人気のある一杯である。

 恐らくだが、サリーは自身が好きな一杯だから咄嗟に答えられたのだと思う。

 俺はそんなサリーに生暖かい視線を送ったあと、次はフィルに視線を向けた。


「で、フィル。ミントを使ったカクテルは?」

「えっと──ミントの葉を使った物なら【モヒート】【ミントジュレップ】など。リキュールを使った物なら【スティンガー】【ホワイトスパイダー】【青い珊瑚礁】などです」

「良く出来ました。三百ポイントあげよう」


 俺は優秀な弟子の解答にうんうんと満足してポイントを大量に加算した。

 フィルはそれに少し照れくさそうにしつつ、素直にありがとうと言う。

 納得いかなそうに声をあげたのはサリーだった。


「ちょ、ちょっと待って下さい! どうしてフィルは三百ポイントなんですの!? 五ポイントではなくて!?」

「……言わないとダメか?」

「ダメです!」


 ふん、と鼻息荒く食って掛かるサリー。

 その意気は認めよう。俺は淡々とフィルとサリーの思考の違いを語った。


「サリー。お前は確かに、自分の好きなカクテルとか勧めるのすごい上手いと思う。そこは素直に誇って良いぞ。【グラスホッパー】なら、多分フィルより出せると思う」

「え、あ、はい。ありがとうございます」

「だけどな、フィルはお前と同じ時間で、もっと色々とカクテルを考えてるんだ。お前はさっき咄嗟に出せたのが【グラスホッパー】だけだったろ? けどフィルは違った。それは考える時間が長かったからだ」


 サリーは話に共感できるタイプだ。相手の話を聞いて、合わせて、自分も楽しめる才能を持っている。

 だが、フィルはそうではない。ちょっと考え込むところがあるから、自分も楽しむという方向には持って行けない。

 会話を盛り上げるという面では、確かに少し不利かもしれない。だがそれは、人の話をしっかり考える癖がついているということでもある。


「コルシカが『ミントが好き』って言った時、お前は会話のネタになると考えた。でもフィルは『ミント系のカクテルを提案すれば良いのかな』と考えた。その違いだな。カクテルを出す上ではそれが大きな差になる。だからフィルは三百点な」

「……そう、ですの」


 俺が指摘してやると、サリーはほんのちょっと、落ち込んだような顔をした。言い過ぎたとは思わない。サリーの悩みの助けになるのは、こういうことだと思うから。

 が、コルシカとフィルが、俺に何かを訴えるような顔をしてくるので、苦笑いをしつつ一つ頷く。そして、ちょっと俯き気味のサリーの頭をワシャワシャと撫でた。


「な、何をするんですの!?」

「落ち込むな! さっきのはあくまで『カクテルだけ』の話だ!」

「は、はぁ?」


 ちょっと不機嫌そうな声のサリーに、ビシッと言う。


「良く会話に入ってきたな。それがお前の魅力なんだ。カクテルは焦らず、伸ばせば良い」

「……そ、そう、ですか」


 カクテルのことは、サリーなりにじっくりと考えて進んでくれれば良い。

 なにせ、彼女には俺の何倍もの時間が残されているのだから。

 少しだけ機嫌を良くしたサリーを認めてから、俺はちょっとした悪戯心で付け加えた。



「というわけで、見事三百ポイント溜まったフィルと、特別なお客さんのコルシカには昼飯を奢ってやろう。何が食べたい?」



 それを言ってみたときの反応は、これまた面白かった。具体的には、さっき以上に不満たらたらになったサリーとかが。

 紆余曲折の末に、全員に昼ご飯を奢ることになったのだけが誤算だったが……まあ良いさ。

 たまには後輩に奢るのも先輩の役目だ。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


更新遅くなり大変申し訳ありませんでした。

次話更新は明日の予定です。その後の更新はまた、改めてご連絡致します。


※1229 誤字修正しました。諸々の返信などは明日に改めてさせて頂きます。遅くなってすみません。

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