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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第五章 幕間

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とある休日の話(3)

 イージーズの定休は、変わらずに週一である。

 バー部門に限って言えば、ローテーションを組めば休まずに開けていることはできる。が、料理の方が問題だ。

 オヤジさんがメインで、ベルガモがサブ。この方式でそんなに余裕があるわけでもない。オヤジさんの休みの日にベルガモだけで、というのは冒険のしすぎだろう。

 バー部門だけでも、という要望も無いではないが、あくまで店の主人はオヤジさん。そこは俺の権限の及ぶところではない。

 ポーションを緊急で求める人間が来た時のために昼間にスイが詰めていたり、誰も居ない時にも連絡先は分かるようにしていたりするので、それが今できる精一杯だ。


 というわけで、定休日はスタッフ皆がお休み。

 各々の休日の過ごし方というのも、まちまちだ。




「さて、今日はどう過ごすか」


 揃っての朝食を食べた後に、俺は自室に戻って軽く伸びながら考えた。

 どう過ごすかと言ったが、一つ大きな予定はある。先日の約束通りに、ヴェルムット家に遊びにいくこと。

 ただ、いつ行くかという話が残る。

 ライはどうにも、俺を料理の実験台にしたいみたいなので、そうなると夕食を一緒に取ることになるだろうか。その辺りを含めて考えれば、昼過ぎくらいに顔を出せば良さそうだ。


 すると、今から昼過ぎくらいまでの時間は空いたことになる。

 普段であれば、軽く練習をするか、図書館に行って勉強するか、もしくは誰かと約束をして出掛けるか。

 しかし、後の予定が詰まっているとすれば、時間を気にしなくてはいけない。

 頭の中に浮かんだそれらを思いつつ、少しだけ寮内をブラブラと歩いてみることにした。


 イージーズ寮は、廊下が内側に備えられたアパートのような感じ。もしくは、マンションの方がイメージは近いのかもしれない。

 一階のスペースは主に共用の洗い場や食堂、台所にトイレ風呂場などが備え付けられている。

 で、二階が生活用の部屋の集まり。現在では、俺、ベルガモ、コルシカにイベリスが二階で生活している。まぁ、イベリスに限れば、工場内の工房で寝ている事も多いが。

 そして地下には、練習用のバー設備と、吸血鬼の双子が寝泊まりする地下室がある。基本的にそこにある材料は自由に使って良いことになっているが、使用した場合には届け出を出すルールだ。


 大雑把に説明すると、これがイージーズ寮の内容だ。

 二階にはまだいくらか空き部屋が存在するが、これ以上従業員が増える予定があるというわけではない。

 あと特筆するべき点と言えば、カクテルの音があまり漏れないように壁がやや厚いことくらいだろうか。


 頭の中で寮の地図をぼんやりと描く。

 俺が自室から廊下に出ると、たまたまタイミングを同じくして、ベルガモが顔を見せたところだった。

 彼も、髪の毛から覗く獣耳をピンと立てて俺の存在を認識した。


「お、総。どっか出掛けるのか?」


 ベルガモは俺の顔を見て、気持ちの良い声で尋ねてくる。

 俺は彼の問いに、ゆるく首を振った。


「いや。予定はあるけど午後だ。ちょっとブラブラしようかなと思ってさ」

「ブラブラって、寮を?」

「そう。みんな何やってるかなと」


 ベルガモは俺の返答に、ふーんと分かったような分からないような声を出した。

 今度は反対に、俺がベルガモに尋ねる番だ。


「それで、ベルガモは……山にでも行くのか?」


 なぜそんなことを尋ねたかと言えば、ベルガモの装備が気になったからである。

 俺の中のイメージでは、ベルガモはエプロンを付けているか、そうでなければ動きやすい軽装かの二択。

 だが、今のベルガモはいつもよりも服装がしっかりしている。肌の露出が控えめで落ち着いた色の服を着ているし、籠を背負って、小さな鎌やナイフを腰に下げている。

 頭の中のイメージとしては、山菜採りといった風情だ。

 果たして、俺のイメージ通りといったようにベルガモは頷いた。


「そうそう。これからいつも農場を手伝ってくれてる子供達と、山の幸を頂きにいく約束なんだよ」

「子供達と?」


 農場、というのはそのまま、イージーズが管理している畑や畜舎のことだ。

 基本的な野菜を育てている畑に、魔草ポーションの栽培を試している実験畑。それに『アドヴォ鳥』という比較的大人しい魔物を飼育している畜舎など。

 それらをひっくるめて、農場と呼んでいる。


 農場の管理は主に、ベルガモの妹であり寮の管理人でもあるコルシカに任せている。彼女は、植物や動物に関しての造詣が深く、俺の想像以上に良く管理してくれている。

 イージーズでは基本的に食材はお金で仕入れているのだが、もう少ししたら自給自足が可能になるかもしれない。

 というところで、彼女一人では手が回らない作業をこなすのに、お手伝いの子供を何人か雇っているわけだ。

 ベルガモもまた、休日など暇があったらコルシカの手伝いをしているので、特に子供達とは仲が良いらしい。


「この時期になると、山は色々と食べ物が増えるからな。あいつらはあんまり山には入らないみたいだし、良い機会だと思ってよ」

「確かに、街の子達はそういう所では遊ばないかもな」

「それに、最近は何かと物騒だって言うしな」


 物騒というのは、騎士団が頭を悩ませている魔物の活発化のことだろうか。

 一時期に比べると落ち着きはしたらしいが、依然として平時よりも魔物の活動が広いらしい。街に住んでいるとあまり認識しないが、実際に戦っている騎士団の人々は少し大変みたいだ。


「ま、物騒ってんなら、そこは俺の出番よ。今日は頼りになる、大人のお兄さんが付いてるからってことでな」


 ぐっと腕に力こぶを作り、ぽんと腕を叩いたベルガモ。

 元々は肉体労働をしていたし、今でも調理場で重労働をしているベルガモの身体は、確かにカッシリとしている。

 俺なんかよりもよっぽど力強いことだろう。


「しょぼい魔物くらいだったら、俺がなんとかしてやるさ」


 自信ありげにベルガモは続けた。

 彼の言葉にどれくらいの信頼を置いたものかは分からない。だが、ここで見栄を張る理由も無いし、本当にそう思ってはいるのだろう。

 自身に満ちたベルガモの表情は魅力的に輝いていた。

 だけど、本人が思っていても何か不測の事態は起こるものだ。一応、注意はしておいた方が良いだろう。


「でも気をつけてな。お前はもう、ウチに無くてはならない存在なんだから。無茶して居なくなったりしたら、困るからな」


 俺が言うと、ベルガモは虚を突かれたように、口をぽーっと開けた。

 せっかく心配したというのに、そういう反応をされるのは心外である。


「……なんだよ。俺が心配するのは、そんなに似合わなかったか?」

「いやいや、そうじゃなくてだな。あー、いきなりそういう暖かい感じの言葉? かけてこられると反応に困るんだよ」


 ベルガモは焦って訂正してから、やや恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻いた。

 それから、仕返しとばかりにまっすぐ俺を見て言ってきた。


「そういう総も、ウチにはなくてはならない存在だ。だから気を付けろよ。色々と」


 ベルガモは真顔で言ってくる。なんの変哲も無い廊下で、なんだか異様に優しい声音で言ってくる。

 まっすぐに、俺を心配しているのだと、伝えてくる。

 なるほど、これは確かに、あれだ。


「……面と向かってそういうこと言われると、なんか、変に恥ずかしいな」

「だろ? いや、別に嫌なわけじゃないけどさ」

「嫌じゃないけど、逃げ出したい感じ?」

「そうそれ」


 俺とベルガモは、二人で感情の正体に辿り着き、うむうむと頷き合う。

 だがしかし、やっぱりちょっとだけ恥ずかしくて、そわそわしてしまう。

 そんな俺達の変な空気の中に、ドアを開く音が割って入った。


「……二人とも、男同士でなにそわそわしてるんですか?」


 ベルガモの向かいの部屋から、コルシカが姿を見せていた。ふわりと柔らかい印象の、笑顔が似合う少女である。

 だが今の彼女は、俺とベルガモを怪しい人物だと言うかのように、見ている。

 ちょっとシスコンの気があるベルガモは、慌てて弁明をした。


「違うんだコルシカ。俺達はなんというか、男同士の的確な距離を計っていただけというか」

「男同士で、お前が必要だ、とかお互いに言い合う距離ですか?」

「違うんだ。それはちょっと、男同士では近過ぎるとかそういう話なんだ」


 白けた表情で兄を見るコルシカに、ベルガモは必死で言葉を重ねる。

 そして、傍観の態勢に入っていた俺にも、すっと視線を寄越してきた。


「総! お前もなんとか言ってくれよ」


 なんとか言えと言われても。

 多分、コルシカは俺達のやり取りを分かった上で、ベルガモを弄っているに過ぎない。

 本気で見下すつもりなら、そもそも割って入ってきたりはしない。

 とすれば、必要なのは弁明とは思えなかった。


「あー、コルシカ。一つ良いか」

「はい。なんでしょうか?」


 選手交替するように俺が声をかけると、コルシカはにっこりと俺に顔を向けた。

 そんな受ける態勢の彼女に、俺ははっきりと言ってやった。


「ベルガモと同じくらい、コルシカもウチになくてはならない存在だ。ウチには君が必要なんだ」

「…………っ」


 俺が真顔で言葉を放つと、ベルガモを弄っていたコルシカもまた、俺達と同じように恥ずかしそうに視線を逸らした。

 コルシカが怯んだのを見て、ここぞとばかりに畳み掛ける。


「だから分かって欲しい。俺達は変な話をしてはいない。他ならない君には勘違いして欲しくないんだ」

「わ、分かってます、分かってますから!」


 そこで、コルシカは降参するように声を張った。


「……思ったより、恥ずかしいんですね」


 やっぱり、最初から分かっていて、からかっていたようであった。同じことをされて、同じ恥ずかしさを味わったら、もうからかえまい。

 よし、これで状況は解決だな。存在しなかった誤解は解けた。そわそわ仲間を増やしただけとも言えるが。

 どうだ、とベルガモに視線をやると、彼はくわっと目を見開いて俺に詰め寄ってきた。


「おぉい総! お前なにいきなり人の妹口説いてんだよ!?」

「はあっ!? 口説いてないだろ! お前に言った事と変わらんぞ!」

「変わらんけど変わるんだよ! 言葉の節々がなぁ!」



 理不尽じゃないか。そもそも、ベルガモが助けろと言うから助けただけなのに。





 それから、ベルガモの心配性が色々と炸裂して廊下は一時騒がしくなった。

 が、コルシカの『子供達との約束は良いんですか?』のひと言でひとまずは終幕したのであった。



ここまで読んでくださってありがとうございます。


相変わらず遅れて申し訳ありません。次回更新は月曜日の予定になります(予定は未定)


※1220 誤字修正しました。

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