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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第五章

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休みの日に困る人々


 ノイネが滞在する期間は、長くても三週間ほど。

 はっきりいつまでとは言わないが、そのくらいだとオヤジさんが言っていた。



 そして今日は、彼女がヴェルムット家に滞在しはじめて、二度目の定休日だ。彼女がこの家に充分に馴染んでからは、初めてと言えるかもしれない。

 定休日の生活リズムは、営業のある日とは微妙に変わる。具体的に言えば、朝食は一緒に食べるが、昼は一緒に取る必要がないので自由になる。

 家で食べたい人は集まって相談するし、外に一緒に食べに行っても良いわけだ。




「せっかくだから、街の案内でもしてあげる!」

「はぁ」


 ライの言葉に、言われたノイネが相槌のように言った。朝食を終え、これからの行動をどうするのか軽く報告しているときの一幕である。

 店の営業日でも午前中は比較的自由だが、午後の時間を考えるとやはり遊び歩くには向かない。予定の無いノイネはノイネで、一人で観光をしている様子はあまりない。

 それ故に、ライはノイネに向かってそんな提案をしたのだろう。


「案内を申し出てくれるのはありがたいですが──」

「じゃあ良いよね! ね、お姉ちゃんも一緒に行こ?」

「私も?」


 ノイネが言い終わるうちに、ライはスイに話を振っていた。

 もはや一方的に打ち解けてしまっているライと比べて、スイはノイネに対してまだ消極的である。

 それにしたってライは、最初の出会いが嘘のようにノイネに懐いている気がするが。

 ともかく、言葉を飛ばされたノイネが、やや強い口調で言った。


「ライ。私はこう見えても、あなたの祖母です。祖母と一緒に買い物をしたり、街を歩き回ったりは、具合が悪くはないですか」

「なんで?」

「なんでと言いましても」


 祖母と一緒に歩いても感性が合わなくてつまらないと思う。とかの、素直な言い訳はあるだろう。

 しかし、本当はそうじゃないと思う。

 そもそも、自分はそこまでしてもらえる存在だろうかという遠慮。ノイネの悩みは、そういうところに着地するように見えた。

 自分は、あなたたちを悩ませる問題を運んできた元凶なのに、そうまで親しくして貰う資格があるのだろうか。

 そんな遠慮は、この家に馴染めば馴染むほど、大きくなるはずだ。


「私に構うより、たまには姉妹二人で出掛けても」

「だから、お姉ちゃんも一緒が良いし、三人でも良いでしょ」

「それは、そうですが」


 ライはライで、何も考えていないで誘っているわけではないのだろう。

 彼女は彼女で、ノイネを知り、ノイネの事情というものを理解した。彼女が決して嫌がらせでスイを連れて行きたいと思っているわけではないと。

 自分や俺達の感情を基準にして反対していたライだが、その天秤に、ノイネの事情までも、既に乗っけてしまっているのだ。


 だからこそ、ライはもし何かが決まっても、後悔しないように行動している。

 意識的か無意識かは知らないが、スイやノイネに特に構って欲しそうにするのは、そのためだろう。いつかの別れを思い、必死に思い出を作っているのだ。

 もしかしたら、ノイネに亡き母親の姿を重ねているかもしれない。


「お姉ちゃんもさ」


 ノイネとの話が終わる前に、ライはスイへと再び話を振った。

 スイは、うむむと難しそうに唸る。


「……でも私、今日はちょっと調べたいことが」

「今日じゃなきゃ駄目? 駄目なの?」

「……分かった。付き合う」


 ノイネよりも先に、スイが押しに折れた。

 彼女は、妹の我がままをむしろ愛しむように、仕方ないと彼女の提案を受け入れる。

 となると、視線はノイネへと集中する。


「……しかし私は」


 ノイネは尚も逡巡するように目を伏せた。

 選択を押し付けているという、加害者意識のようなものは、もしかしたら俺が考えているよりも大きいのかもしれない。

 そんな彼女に挑発の言葉をかけたのは、腕を組んで無愛想な顔をしているオヤジさんであった。


「ライ、察してやれ。ノイネは、お前等みたいな若い娘とはしゃぐのがきついんだよ。もう年だからな」

「……フレン。今、なんと言いました」

「無理するな、お婆ちゃん」


 がたんとノイネが椅子から立ち上がった。孫娘へと向けるのとは全く違う、威圧感のある表情でオヤジさんを睨む。


「あなたに言われたくありませんよフレン。昔見た時はもう少し引き締まった体をしていたと思いますが、今のあなたはどうですか。お腹周りに油断が見えますね」

「……そういうあんたは、眉間の皺が少し深くなったんじゃねえか」

「見る影のなくなった、あなたほどではありません」


 一緒に暮らしていて、あと一つ気付くことといえばこれだ。

 オヤジさんとノイネは、根本的に仲が悪い。この二人はどうにもそりが合わないらしく、何かにつけて言い合っているイメージがある。

 ノイネが根本的に人間を好きではないことを置いておいても、相性が悪いのだろう。


「あーもー! 喧嘩しない! そうだ総! 総は一緒に行く!?」


 二人が言い争いを加熱させないうちに、ライは俺に話題を振ってきた。

 俺はそのボールをしっかりと受けつつも、難しい顔を返した。


「いや、今日はちょっとな。午前中は図書館で調べ物して、午後は、銃とかポーチの整備でイベリスのとこに顔出す約束なんだ」


 炭酸飲料なんかの関係を抜きにしても、俺はちょくちょくとイベリスの元に向かっている。銃とポーチ──特にポーチに関して、使用感などを良く尋ねられるのだ。

 ポンと腰を叩きながらライに向かって言った。しかし、言葉が返ってきたのは、ライからではなくノイネからだった。


「前から少し疑問に思っていたのですが。その『銃』という道具はなんなのですか?」


 ノイネの疑問に、俺は少し頭を悩ませつつ、言葉を選んだ。


「……俺専用の武器みたいなものです。イベリスっていう機人の子に作ってもらった」

「あの、ライと仲が良い、若い機人の子ですね」

「その子です。一応、俺と専属契約を結んでいるということで」


 俺が専属契約と口走ったあたりで、ノイネの視線が鋭くなった気がした。

 今ははっきりと、俺が睨まれているのだと分かる。オヤジさんが先程受けていたに類する威圧感がある。


「前々から少し思っていたのですが……夕霧さんは、交友関係が少しおかしくはないですか」

「はい?」


 交友関係が広いとか狭いとかは良く言われる言葉だが、おかしいとは如何に。


「種族を問わず、人種を問わず、年齢や性別を問わず。あなたは色々な人と関わり、親しい関係を築いていますね。不思議なことですが、悪いことではありません。しかし、あなたに好意を抱いている子も、それなりに存在するように見えます」


 その、問いつめるような目線にピンと来た。

 この、スイとの血の繋がりを確かに感じさせる疑いの目線。

 次に来る言葉はきっと……。


「あなたはひょっとして、女性ならとりあえず口説くような、軽薄な──」

「違います」


 すぱっと否定の言葉を返させてもらう。

 俺は相手を喜ばせたいという思いで言葉を選んでいるのであって、決してやましい気持ちで褒めているわけではないのだ。

 いや、その褒めることで相手と良好な関係を築き、あわよくばもう一杯、と思っているのはやましい考えと言えるかもしれない。

 が、とにかく、女の子にモテたいだとか、そんな気持ちでは決してないのだ。


 と、はっきりと否定した俺に対して、ノイネはなおも疑いを持ったままだ。


「しかし、先日買い出しの最中にあなたを見かけたときのことです。店の若い娘をその気にさせるような言葉を、これでもかと吐いていたではありませんか」

「えっ!?」


 その言葉に、俺は思わず変な声をあげてしまった。

 なんなんだ、いつの話をしているんだ?

 俺は焦りながら必死に最近の動きを考える。俺が答えを出すのを待ってくれるはずもない子が、ここには何人か居るわけだが。


「総。聞いてない。話が違うよね。気を付けるとか言ってたよね。え? 嘘なの?」

「総さん。最近あなたが買い出しにでかけた日、やけに『チャーム』のピクルスを大量に買ってきたときが……?」


 スイとサリーの二人を筆頭に、明らかに俺を悪者にする空気がその場に満ちた。

 そんな危機的状況にあって、サリーの言葉をヒントにようやくピースが嵌る。


「あ、あー! 思い出した違う! 話を聞いてくれ」


 俺はいったいどの場面を見られていたのかを思い出すことに成功した。

 と同時に、俺が潔白であることもはっきりと思い出した。



 その日、俺はカウンターでお客さんにお出しする『チャーム』と呼ばれるつまみのようなものを選んでいた。チャームの種類には特に決まりがあるわけでもなく、簡単な菓子やフルーツの盛り合わせ、乾きものに漬け物など多岐に渡る。

 そして、とある店の前を通ったときそこのピクルスに心奪われた。今日の買い出しはこれにしよう、と決めた。

 値段交渉の最中、冗談混じりで変な話になった。店の子に、ピクルスについての魅力を面白可笑しく語ったら、安くしてあげると言われたのだ。


 それはもう、女性を口説くがごとく、美辞麗句を並べまくった。


 確かにあの場面を見られたら、誤解されてもおかしくないかもしれない。

 店の子も結構楽しんでくれて、しっかりとまけてくれたので少し多めに買い、ホクホクしながら帰ったのだが。



「というわけで、俺が口説いていたのは店の子じゃなくて、ピクルスなんだ」


 真顔で力説してみせた俺。

 そもそも営業中でもないのに、女の子を口説くような面倒な真似をするか。

 仮に口説くとしても、『君の奥の奥まで味わい尽くしたい』とかシラフで言っている奴がいたら、まともな頭をしているとは思えない。

 どうだ、とちらりライを見てみると、彼女はうーんと唸ってから判決を下した。


「言ってることは真実だと思うけど、有罪」

「……なんで?」

「だって、ピクルスの魅力を語れじゃなくて、私の魅力を語れって店の子に言われても同じ事したでしょ」

「…………」


 否定できねえ。


「いやだって、仮に人を褒めるだけで安くなるなら褒めるでしょ?」


 俺はこの場で唯一味方してくれそうなフィルに、助けを求める視線を送った。

 彼は困ったように笑みを見せ、そして返した。


「時と場合によります」

「……その時ではなかった、と?」

「見られたら困るという時点で、既に……」



 ……俺は、何も犯罪をしているわけじゃないのに。世知辛い。

 それから、主にスイ、サリー、ライの三人にぼそぼそと小言を言われる居心地の悪い時間を過ごし、逃げるようにその日の予定を解消しに出掛けたのだった。


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