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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第四章

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到着早々の予定外


『ホワイトオーク』は、エルブ・アブサント王国の北に本拠を構える、古い歴史を持つポーション屋である。

 伝統と実績に裏打ちされた安定感のあるポーションは、消費者の信頼も高い。

 その規模は、当然のごとく国で最大規模と称される『アウランティアカ』に並び、販売所や生産施設も多い。

 だが、先程も述べたように、その研究施設でもある本拠は北だ。

『ホワイトオーク』のトップ、アパラチアンの名目は店長であるが、実質的には研究所の『所長』という肩書きが強いらしい。


 その形態を聞いていると、ポーションの世界では『店長』という名目になっているだけで、『会長』だの『社長』だのと言った肩書きのほうが正しいのかもしれない。




 馬車に揺られること、数日。時刻は夕方の四時くらいだろか。

 途中で休憩と宿泊を挟み、俺達はついに『ホワイトオーク』の本拠地へと辿り着いた。

 馬車から降りると、出た街よりも空気が冷えている。雪は積もっていないようだが、本格的な冬になると、どうだろうか。

 腕をゴリゴリと動かすと、身体からはバキバキと音が鳴る。心地よいと評するには、些か疲れが強い。


「うーん。のびのびー」


 俺に続いて馬車から降りたイベリスも、俺と同じように身体をほぐしていた。

 だが、彼女は若さからか俺よりも大分疲労が少ないように見える。俺も二十代前半だから無理は利くつもりだが、少女の元気には敵わない。


「ふぅ。ようやく着いたのか」


 後からギヌラも降りてきたが、まあいいや。


「運んで頂いてありがとうございます」

「いえ、良いんですよ。仕事ですから」


 馬車の御者にも礼を述べると、彼は遠慮するように手を振った。

 彼とも数日の付き合いである。それなりに交わした会話は多いし、日常会話をする程度には仲良くもなった。


「ご家族と会うのも久しぶりでしょう。ごゆっくりどうぞ」

「はは。たまにこんな遠征がありますから。愛想尽かされないと良いんですけどね」

「よく聞く意見だと、ちゃんと愛情を伝えるのが長続きの秘訣らしいですよ」

「いやー、ユウギリさんみたいにそんな言葉ポンポンとは出ないですよ。なんでしたっけ? あの酒場で言ってたアレ」

「……あはは」


 たぶん褒められていると思うので、俺も愛想笑いを返した。

 道中というか、宿泊に寄った街の酒場で何があったかは割愛する。

 たいしたことはない。せいぜい、俺と御者の仲が深まり、財布が少し軽くなった程度だ。

 あとイベリスの目が厳しくなった程度だ。


「総さぁ。ううん、良いけど」


 俺達が和やかに談笑しているところに、イベリスがじとっとした目を向けている。

 まさか、夜になって寝静まったと思っていた彼女が起き出してくるとは思わなかったんだ。ギヌラは起きなかったし。

 というか俺は彼女達を口説く気なんて一切なかったし、ただ、その場の雰囲気を和やかにするために、言葉を選んでいただけというか……。

 と、ここでいつまでも思い出話をしているわけにはいかない。


「それじゃ、自分達はそろそろ」

「はい。帰りは私じゃないかもしれませんが、よろしければどうぞご贔屓に」


 御者はそう告げると、俺達を置いて街の中心部へと向かっていった。

 俺達は馬車に別れを告げ、運び込まれた屋敷らしき施設の入り口へと足を運ぶ。

 見た目は、少々病院チックな感じだろうか。『ホワイトオーク』の研究施設らしいので、イメージとしては大学の研究棟とかのが近いかもしれない。


「なにをもたもたしている。早く行くぞユウギリ」

「へいへい」


 荷物を片手に俺を急かすギヌラ。俺は手を上げて、彼に了承の意を伝えた。

 道中であったギヌラとのいざこざについても省略する。まぁ、せいぜいイベリスとこいつの仲が少し険悪になった程度だ。

 俺の方は、もともと良好でもなかったし、変わりない。そういうことにしておく。





「ようこそ。夕霧君、それとイベリス君。長旅で疲れただろう。歓迎しよう」

「お久しぶりですアパラチアンさん」

「はじめまして」


 五十くらいに見える、白い物が混じった黒髪の男性の歓待に、俺達は静かに応えた。

 俺、イベリスと続いて握手をして、彼はやや寝不足そうな目を細める。

 彼こそが、ホワイトオークの店長、アパラチアンその人だ。


 受付の人に用件を伝えると、俺達はすぐにアパラチアンの私室へと案内された。

 屋敷内の廊下は薄暗くて、俺の仲ではますます、病院とか研究棟のイメージが強くなる。

 彼の私室はポーション屋らしく棚に大量のボトルがあり、壁に賞状や勲章などがかけられていた。そのほかにも、色々と輝かしい来歴を表すような小物が多彩で、なるほどこれが歴史あるポーション屋の姿かと感心する。

 まぁ、アウランティアカでも似たような部屋は見たのだが。


「それとギヌラ君も、久しぶりだね」

「はい。本日はお招きいただき、感謝いたします」


 驚きかもしれないが、このまともな返答をしたのはギヌラである。

 最近気付いたことだが、彼は意外と外面は良い。というか、俺の関係者以外には礼儀正しいと言っても良い。

 ただ、ナチュラルに人を見下すところがあるので、自分より目下だと思っている人間には尊大だ。異様に高いプライドもそれを補っていることだろう。

 つまり、ある程度偉い人にはまともな対応も、実はできるのである。いつもやれ。


「ははは。堅苦しい挨拶はなくていい。君のことはヘリコニアに頼まれている」

「そうですか」


 アパラチアンの物言いに、ギヌラも少し得意気になった。

 そうだろうな。彼の頭の中では、未だにアウランティアカの代表として、ホワイトオークと意見交換に来たことになっているのだから。

 だが、彼のそんな幸せな時間もついに終わりを迎えるときがくる。


「奴からは『身分など忘れて雑用としてこき使ってくれ』と頼まれている。『泣き言を吐いたとしても絶対に遠慮するな』と、本人のたっての希望らしいね」

「…………はい?」

「ふふ。成果を出すまで単身武者修行に出る。そういった若い気概も、嫌いではないよ」

「……………………ありがとうございます?」


 あ、こいつ。まだ気付いてないのか。

 隣のイベリスは、すでに呆れを通り越して憐れみの目でギヌラを見ていた。

 まぁ、俺も頼まれていたことはあるし、適当に目だけはつけておくけど、最初に潰れられたらどうしようもないぞ。

 ギヌラまで最初の挨拶を済ませると、アパラチアンは俺達の顔と時計を見比べた。


「積もる話もあるだろうが、まずは疲れただろう。案内がそろそろ」


 アパラチアンが言葉にしたタイミングで、扉がノックされた。


「入れ」

「失礼します」


 許可を得て入ってきたのは、俺とそう変わらない年齢に見える青年だった。

 見た目の印象は生真面目。短いブラウンの髪の毛を整え、少しだけ固い表情。接客業をしている人間ではなく、研究職らしい人物に見えた。


「紹介しよう。君達の──特に夕霧君とギヌラ君の世話をする、アルバオだ」

「アルバオ・グレイスノアです。よろしくお願いします」


 アルバオと紹介された青年が頭を下げ、俺達もそれに倣う。

 三人ともに思い思いの挨拶を並べたあと、アルバオはあまり愛想のない顔で言う。


「では、お三方をまずはお部屋に案内します」


 言ってアルバオは俺達を先導するように部屋を出る。

 アパラチアンに軽い別れを告げてから、俺達はアルバオに続いた。


「お部屋なのですが、基本的に僕達の寝泊まりする部屋は寮になっていまして……外を少し歩きますがよろしいですか?」

「ええ、大丈夫ですよ。グレイスノアさん」

「アルバオで結構ですよ。僕自身下っ端で、そちらで呼ばれ慣れているので、呼び捨てで構いません」

「では、こちらも総で。こっちも下っ端ですんで、呼び捨てで大丈夫です」


 俺が改めて軽い挨拶を済ませると、イベリスもそれに乗っかって明るく挨拶する。


「それで私はイベリス! よろしくねアルバオ!」


 それでギヌラはどうかと言うと、


「…………あ」


 こういう時に少し迷うのだ。迷って機会を逸し、会話が次に移るタイミングくらいに、焦って尊大な物言いをする。

 それが、彼が初対面の人間とコミュニケーションするときの、失敗例の一つだ。

 ほっといても良いけど、ヘリコニアさんの頼みもあるし、仕方ないな。

 俺は軽くギヌラの肩を叩きつつ、彼の言葉を代わった。


「それで、こっちがギヌラです。雑用らしいんでこき使ってやってください」

「おいユウギリ! なんだその雑用というのは!?」


 人がせっかく親切で紹介したのに、まだそこを理解してないのか。

 だが、アルバオの方には当然話がいっているので、朗らかにこたえる。


「ギヌラさんも……いえ、あえてギヌラと呼びますか。ギヌラも大変ですね。頑張って下さい。うちの室長は……それは人使いが荒いですから」

「…………なぜ君は自然に僕を呼び捨てに?」

「あ、敬語もやめたほうが良いでしょうか?」

「是非に」

「ユウギリ!? 貴様ぁ!?」


 どうにも話が通じてないギヌラを置いて、俺はとりあえずギヌラの代わりに話を通してあげる。

 ここで押し問答をして時間を潰すよりも、俺が適当に話を進めてあげたほうが結局早く部屋に着く。そして疲れを取ったほうが、皆喜ぶだろう。

 だから、こんなところで立ち止まっている暇はない。


 いやほんと。これでようやくうざったい奴から解放されて、ゆっくりできるなんて思って無い。

 あーはやく個室に着かないかなぁ。


「そういや、間取りとかはどんな感じなんですか?」

「…………」


 俺がさりげない話のタネとしてアルバオに尋ねると、彼は少しだけギクリとした顔で押し黙った。

 何故だ? そんな言いにくい話題を振っただろうか。



「あの、大変言いにくいのですが」



 寮へと向かう道すがら、アルバオは言いにくそうに言う。

 というか。その言い出しに不安しか感じない。


「どうしたんですか?」

「実は、ご用意していた一人用の部屋が、先日不幸な事故で使えなくなりまして」

「……はい」

「イベリスさんのお部屋は用意できたのですが、総さんとギヌラの部屋になりますと」

「…………」


 なんとなく、どう繋がるのかが読めた気がする。

 読めた気がするけど、外れて欲しい。

 いや、外れよう。

 ちょっと宿暮らしになると出費がかさむなぁ。

 そんなに負担してもらっちゃうと申し訳ないなぁ。


「二人相部屋になってしまうんですが、よろし──」


「よろしくない!!」

「よろしくないぞ!?」


 寮に案内される道すがら、俺とギヌラは地面を踏みしめながら叫んだ。

 初めて、気があった瞬間と言っても過言ではないかもしれない。


「……総。なんだったら私の部屋に遊びに来ても良いからね」



 イベリスの同情するような声が、ほんと優しくて嫌だ。



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