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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章 幕間

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変な夢(10)

「それで、鳥須さんとはどうなん?」


 俺の家で、友達数人と飲んでいるとき。

 友人の一人、青木が唐突に訪ねてきた。その言葉の直後に、同じくこたつを囲んでいる櫟井、梅原も俺の顔を覗き込むようにしてくる。

 俺は少しだけうんざりしつつ、質問の意図を訪ね返す。


「どうって?」

「だから、二人が仲良くなってもう結構経つだろ? 進展的なやつとかさ」

「だから、まだ付き合ってないって」

「なんでだよ!」


 俺がただの事実を述べるが、青木はその答えに盛大に噛み付いてくる。


「なんでも何も、付き合うってお互い言って無いんだから、付き合ってないだろ」

「そういう事実確認の話をしてるんじゃないんだよ! お前はあれか? 婚約者が出来たけどまだ結婚してないから家族じゃない、みたいなこと言い出すあれか? 浮気は許されますってか?」


 その強引に過ぎる気がする方向転換に俺は少し首を傾げるが、他の二人は同意するようにうんうんと頷いていた。

 俺はその喩えと現状の違いを指摘しようと口を開く。


「そりゃ、婚約はもっと強制的な何かがあるけど、ただの男女交際だったら」

「待て夕霧。俺達が説明してやる」


 青木は手で俺を制するようにしたあと、他の二人に目配せをする。

 そして、まず櫟井が、自分たちが今つまんでいる料理が乗っている皿を指差す。


「この、男の一人暮らしにしてはオシャンティなお皿は、自分で買ったの?」

「いや、伊吹が買って置いてった。つうかオシャンティとかなんだよ」

「そこは今重要じゃない。次な」


 俺の返事も聞かず、すかさず梅原が続ける。


「じゃあ、その男の一人暮らしにしては、ファンシーすぎるぬいぐるみは?」

「伊吹の私物だ。俺は持って帰れって言ったんだけどな」

「でも、しぶしぶ置いてるわけね」


 そもそも俺の部屋は狭いのに、なんで他人の私物を置かないといけないのか。

 と思っているところで、最後に青木が訪ねる。


「それでだ。俺達が食ってる料理の食材とか、いま飲んでる酒とかを買って来たのは誰だって?」

「伊吹だな。良いだろう白州。あ、でも一杯だけだぞ?」


 今日はせっかくだから皆で一杯ずつ飲むことにしたが、個人的にはもっとゆっくりじっくりと味わいたいのだ。

 と、俺がこの先の飲酒計画に思いを馳せているところで、三人が同時に言った。


『それで付き合ってないとか、頭おかしいんじゃないのか!?』


 三人の声が綺麗に重なって、思いのほか大きな声になった。

 アパートのお隣さんから苦情が来ないかと少し心配しつつ、俺は小声で返す。


「いやでも、両方まだ何も言ってないんだから、付き合ってはいないだろ」

「……………………」


 俺の返答に眉間を歪ませた三人が、それぞれ俺を無視して話し始める。


「ほんと、鳥須さんって素敵だよな」

「うん、才色兼備、眉目秀麗、どんな褒め言葉も当てはまるね」

「街に出掛けると当たり前みたいにナンパされるし、スカウトもされるとか聞くぞ」

「しかもコミュ力もマックス。俺達みたいなのにも優しくしてくれるし」

「それでいて、ちょっと体が弱いってのもポイント高いよ。こう、ふとした弱点みたいな感じで」

「それに何よりスタイル抜群だしな、ぶっちゃけ鳥須さんと知り合って、自分が付き合う妄想したことないやつ居ないだろ」


 口々に伊吹を褒め称える友人達に、俺は少し待ったをかけたくなった。


「いやいや。そんな褒めるとこばっかりじゃないだろ。まず厚かましいし、恩着せがましい上に鬱陶しい。やめろって止めても聞くことないし、人が嫌がるようなことを進んでする。からかって揚げ足取るのが趣味だし、悪口だって平気で言うぞ。あげくの果てには、いつも酔いつぶれてだらしない寝顔晒してるし」


 俺から見た伊吹の姿を説明すると、青木達はやや白けた目で俺を睨む。


「……それは、お前の前での話だろ?」

「……え、違うのか?」


 俺が尋ね返すと、彼らははぁ、とため息混じりにまた話しはじめた。


「ほんと、普通はそういう、自分だけに見せる姿とかにも、ときめくもんだよな」

「ほんとだよ。しかも、趣味がお酒で色々教えてくれるお姉さんとか、最高だよ」

「彼女の唯一の欠点は、男の趣味が悪いことだよな」


 言いながら、チラチラを俺の方を見てくる連中が、やたらと気になった。

 こんなときは、一度酒を飲むに限る。

 俺は【ハイボール】にした白州を一口含む。

 相変わらずの爽やかな旨みが、体中のモヤモヤを洗い流してくれるようだ。

 と、その俺の行動が気に入らないかのように、青木が尋ねてくる。


「逆に聞きたいんだけどよ。鳥須さんが例えば、知らない男と歩いていたらどうする?」


 青木の質問に、俺は少しその姿を想像してみる。


「……まぁ、別に。気になりはするけど、あいつに限って」

「あいつに限ってなんだよ?」

「変な男にひっかかることなんてないだろうし、大丈夫だ」


 俺の答えに、三人は何か言いたげな目をしていた。

 ……何となくだけど、その姿を想像した結果。せっかくの【ハイボール】が少しだけ不味くなった気がした。が、それは伏せておこう。


「まぁ良いけどさ。お前らの問題だし。でも、ちゃんとしといた方が良いと思うけど」


 それ以上何か言う気を無くしたのか、青木達は頷きあってグラスを手に取った。

 その決着の付け方に、少しだけ俺はもの申す。


「だから、ちゃんとする為に、機会を窺ってるんだろ」

「その機会どうのって、なんだよ」

「だから、しっかりとした機会を作って、そのタイミングで言うべきことを──」

「タイミングなんて、思ったその時以外ないじゃん」


 青木の言葉が、少しだけ俺の心を揺さぶった気がした。

 青木は俺の方を見もせずに、淡々と言いたいことを言う。


「お前さぁ。いくら好き同士だとしても、ちゃんと付けなきゃいけないけじめとかあるって。そんでこの状態は、そのけじめが無いのにズルズル行ってるだけだって」

「…………分かってるよ」

「分かってないから、うだうだやってるんだろ」


 うだうだやっているつもりなんてない。

 ただ、俺の気持ちをはっきりさせないままに、答えを出したくないだけなのに。


「つうか、お前は今のままが楽で良いのかもしれないけど、鳥須さんからしたら、辛いだけじゃん」

「……伊吹が?」

「何の根拠も無しに、いつまでも信じて待てると思うかって話」


 先日、この白州を持って来たときの彼女に言った言葉を、思い出した。

 俺はあの時、待ってろと言ったんだ。

 それが、彼女の心にどう受け取られるかも、考えないで。


「あの人、ああ見えて結構家庭とか複雑な感じだしさ。なんでプログラムなんて勉強してるのかとか、夕霧ですら知らないだろ?」

「……まぁ」


 言われてみれば、俺は彼女がこの大学を選んだ理由なんて知らない。

 そもそも、彼女の家庭のことも、聞かれたくなさそうだったから聞いてない。

 もしかしたら、伊吹はそんな質問ですらも、待っているのかもしれないのに。


「客観的に見てさ。俺ってどう見えてるの?」


 俺は唐突に、今の自分が彼女に対してどう映っているのかが気になった。

 そんな言葉に、青木はやっぱり目も合わせずに言った。


「据え膳食わないへたれ」

「……うっせ」


 俺は、何も言い返せる気がしなくて、ぼそりとそれだけを返した。

 散々俺に言いたいことを言った青木は、そのまま同情的な視線を送ったあと、テーブルの上に意識を戻した。

 その状態で、フォローするように梅原が言う。


「まぁでも夕霧も、考えてるんだろ? 青木の言うこともあんまり気にすんなって。こいつこんなこと言ってるけど、この前好きな子に告白できないまま、彼氏できちゃって凹んでたんだから」

「ウメハラぁ!」


 焦ったように叫んだ青木に、今度は俺が白けた目を送る番だった。


「自分で出来ないことで、人を散々責めたのかよ」

「お前は成功が分かってるのにしないから、へたれだっつっただけだろバーカ!」


 少し威勢良く青木が返して来た。

 結局、なんだかんだここに集まっているのは、俺の友人なのだ。

 大なり小なり、俺と気が合うからここに居る。ということは、恋愛に関して百戦錬磨の人間なんていないということだ。



「……分かったよ、今度の旅行のとき、少しくらい、踏み込んでみる」



 俺は静かにだけ、その覚悟を決めて言った。

 そんな俺の言葉に、三人はそれぞれ目を丸くしていた。


「なんだよ。俺が言うのはおかしいってのか」

「え、いや、そうじゃなくて、旅行?」


 三人の反応に俺は思い返す。

 あれ。白州蒸留所の話をしてはいなかったか。


「その、この白州の蒸留所にな」

「二人きりで?」

「二人きりで」

「それで付き合ってないっておかしくねぇ!?」


 いきなりの大声に、ビックリする。

 だが、俺がその苦情を寄せる前に、俺以上にびっくりしたらしい青木が捲し立てる。


「え、なに? 進展なんてありません、って言っておきながら、そんな大それたことを計画していたのかよ」

「計画ってか、考えたのは伊吹で、俺は強制参加だけど」

「…………お前ってやつは」


 青木を含めた三人は、俺の姿勢に再び落胆した様子だった。

 そのまま何も言わず、テーブルの上のものをひたすらに片付けに入っていた。




 話題は変わり、新作のゲームについて話をしていたとき。

 作ってあった炒め物の類が消えた。


「あ、ちょっと摘むもの買ってくるわ」

「ん? なんで? また作るけど」


 冷蔵庫にはまだ食材が残っているので言ったが、青木は酔い覚ましだと言って聞かずに、近所のコンビニへと向かった。

 そしてすぐに戻ってくると、俺に袋を差し出した。


「これ、俺からプレゼント」


 言われて袋を受け取ると、そこには……


「ほら、やっぱり旅行だし、あった方が良いだろ、財布に忍ばせとけって」

「日帰りだからいらねーよ! いや、泊まりでもまだいらねーけどな」


 明言を避けたいところではあるが。

 あえて言うとゴムの袋が入っていたのだった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

遅くなったことに関しては謝罪しかありません。



色々と物議をかもしつつ進んで来た幕間の夢ですが、そろそろ終わりが近づいています。


※0216 誤字修正しました。

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