表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章 幕間

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
146/505

(ギヌラと)コーヒー(2)


「いらっしゃいませ」


 店内に足を踏み込むと、落ち着いたあいさつが耳に入った。

 中の様子は、外観からのイメージと違わず、シックな様式だ。暖色の照明に照らされた店内。そしてカウンターと小さめのテーブル。

 カウンターの奥の棚は幾重にも区切られ、その区切りの中に更に小分けにされた豆の瓶が並んでいる。棚の下部にはコーヒー豆の名称、グラム辺りの値段などが基準として書かれている。


 日本での価格の相場を、俺は知らないので何とも言えないのだが。この街でのコーヒー豆は、百グラムで銅貨六枚から銀貨二枚弱──俺換算だと三千円から一万円くらいだ。

 ざっと見た限りでは、豆の種類は十数あり、名前は、残念ながら聞いた事がないものばかりである。


『ガトメラ』

『ベルメンテ』

『クリストメンテ』

『コスティカ』

『ハウィカウナ』

『メウカ』

『キルメンジャ』


 などなど、聞いたことがあるような無いような。

 そう。確かコーヒー豆の銘柄とは、品種のことではなく産地のことであった筈だ。

 となると、日本がジャポンであるように、似た味のコーヒー豆を生み出す産地は、似た名前の別の地名に置き換わっていてもおかしくない。

 

 そして何よりも特徴的なものと言えば、店の中にコーヒー特有の、香ばしく甘い香りが漂っていることだろうか。

 普段はコーヒーをほとんど飲まない俺でも、こう鼻からお腹の辺りまでをくすぐられるように感覚があった。

 と、ずっとぼんやりとしているわけにもいかない。俺はここになぜ来たのかを思い出して、店主に尋ねた。


「すみません。セージ・エゾエンシス氏の紹介で来た、夕霧というものなのですが」

「ああ。話は聞いていますよ」


 落ち着いた初老の男性が、穏やかな笑みを浮かべて頷いた。

 そのあと俺、フィル、サリーの順に目を移す。


「ふむ。なんでも、混ぜる為のコーヒーを探しているんですと?」

「はい。自分は『カクテル』という飲み物を作る仕事をしていまして、その際にお酒──いえ、ポーションと相性の良いコーヒーを探しているんです」

「ポーションとねぇ。なるほど、領主様が連れてくるお客さんなだけはありますな」


 そして、できるなら費用対効果の高いものがいい。

 と、いうところまではとりあえず口に出さず、俺は店主の言葉を待った。

 だが、頭髪に白いものが目立つ店主は、少し難しそうな表情で俺をじっと見つめていた。

 もしかして、何か失礼なことを言ってしまったのかもしれない。


「……すみません。混ぜるためのコーヒーなんて言い方は、コーヒー屋さんでは少し失礼でしたよね」

「いんえ。そりゃもちろん私なんかは、コーヒーはそのまま楽しむのが一番だと思いますがね。それを人に強要しようとは思いませんよ。お客さんも、そうでしょう?」

「それは、はい。お酒の飲み方も、やっぱり最後は個人の自由だとは思います」


 どうやら、この初老の店主が考えていることは別のことのようだ。

 俺は少しだけ無言で待ってみると、ようやく話したいことを決めた様子で、店主が口を開いた。


「私はあくまでコーヒー屋でしてね。お客さんの味の好みを聞いたら、どんな豆ってのをオススメはできるんですが。私はその『カクテル』とやらは知らない。だから、それに合う豆がどんな豆だとは、言えませんでね」

「あ、それは確かにそうですよね」


 店主の悩みは、ごくあたり前のものだ。

 例えば、お酒でだってそうである。

 いきなり『甘いのください』とか言われたとしても、その『甘いの』にはいくつもの種類がある。

 クリーム系なのか、フルーツ系なのか、それともシロップ系なのか、ウィスキーの中で甘めのものだったりするのか。

 そして、その疑問を詰めるために、バーテンダーは質問をするわけなのだ。

 というわけで、俺は店主の質問を静かに待ってみることに。


「しかし、聞いた所お客さん本人は、あんまりコーヒーを嗜まないんですってねぇ」

「ええ、恥ずかしながら」

「ならば、どう致しましょうかね」


 俺は苦笑いを浮かべつつ、俺がどれだけ難しい注文を相手にしているのかと思う。

 この場合で言えば先程の『甘めウィスキー』の、更に上みたいなものだ。

『甘めのウィスキーが飲みたいのですが、水に合うのはどの銘柄ですか』と聞いた感じだろう。


 水に合わないウィスキーを探すほうが難しいし、究極はその人の好みを聞いてみる以外はない。

 例えば俺なら、普段はどんな銘柄を飲むのか聞く。それすら無いのであれば、軽く王道を数本紹介してみて、口に合ったのはどの銘柄なのかを尋ねてみる。

 ん? では、店主がしたいのも、そういうことなのではないだろうか。


「ほほ。お分かりですかな? 私がまず例を出しましょう。あなたが飲み比べて、味を見てみてくだされ」


 俺の理解に合わせるように、店主はひょうひょうとした笑みを浮かべていた。




「うっぷ」

「少し飲み過ぎましたかな?」

「いえいえ。大変堪能させていただきました」


 言いつつ、俺はややもたれはじめているお腹を意識せずにはいられない。

 目の前の小さなテーブルには、試飲させてもらった二桁を越えるカップが並んでいる。


「どうでしたかな。種類をしぼって、浅煎り、中煎り、深煎りと試してみましたが」


 店主の嬉しそうな笑みに、俺は記憶を反芻させながら、一つのカップを指した。


「そうですね。個人的にはこの『メウカ』ってのが、気に入りました。香りが華やかで、コクも深い気がして」

「ほほう。この『メウカ』産の豆は、そこそこの値段で飲みやすく、大衆受けもするものでしてね。なかなか、センスの良い舌をお持ちですね」


 店主の嬉しそうな笑みに、俺は親近感を覚える。

 恐らくだが、この人もきっと俺と同じだ。誰かに、自分の好きな飲み物を飲んでもらって、その感想を聞くのが楽しいのだ。

 そうでなければ、領主様の言づてがあったからといって、こうまで至れり尽くせりの準備をしていてはくれないだろう。


 例えば店主は数種類の豆で、それぞれ火の入れ方を変えたものを用意してくれていた。

 浅煎りや深煎りなどは、コーヒー豆にどの程度に火を入れるからしい。浅いほど、酸味が残り、深いほど苦みとコクが増す。

 同じ豆であっても、火を入れる時間でその味は面白いほどに変わるのだ。

 しかし、当然それらを準備するのは相応の手間がかかる。

 店主は連絡を受けて、わざわざ試飲のために、その豆を用意してくれていたのだ。


「では、ご購入はこちらの『メウカ』に致しますか?」


 店主はにこにこと、気持ちの良い笑みを浮かべてくる。そうまで嬉しそうな表情をされると、こちらのほうまで嬉しくなるというものだ。

 だからこそ、少し言いにくいこともあるのだが。


「総さん。言いたいことがあるんでしたら、はっきりと言った方がいいですよ」

「え、ん……」


 そんな俺の思いを、補足するように拾い上げたのはフィルだった。


「ふむ、言いたいことですか」

「あ、いえ。もちろんその『メウカ』に文句を言いたいわけではないのですが……」

「……何かが足りない、と?」


 フィルに続いて、店主の方もまた俺の言葉を引き継ぐように言った。

 俺は少しだけ苦笑いを浮かべてしまうが、そこに続く。


「ええ、その、はい。確かに美味しいのですが……なんといいますか、やはりこれは、その豆の味を楽しむものと言いますか。カクテルの割り材として使うには、個性の主張がどれも強すぎる気がするんです」


 コーヒーに詳しくない俺が言うのもなんだが。どの豆も、そうなのだ。

 豆の個性や味の違いなどは、確かに飲み比べてみれば分かる。だが、どれもその一種類で完成していて、主役なのである。

 脇役を探しているわけではない。

 しかし、舞台に立つ他の役者と共に盛り上がるような、そんな存在がどうしても見つけられないのだ。


「では、混ぜればよいでしょう」


 と、俺が難しく考えているところで、店主がふわりと言った。


「はい?」

「ですから。あなたが思う味になる豆の組合せを、考えれば良いのですよ」


 豆を混ぜる。

 味を混ぜる。

 そうか。そうなのだ。

 ブレンデットウィスキーの考え方だ。


「……確かに。その通りですね。いや、自分は何を悩んでいたのか」


 先程、コーヒーをウィスキーに例えておきながら、なぜその考えに至らなかったのか。

 通常、ウィスキーというものは、蒸留所ごとに名前を与えられていることが多い。

 コーヒー豆が産地で分けられるのと、似たようなものかもしれない。


 グレンフィディック蒸留所で作られるものは『グレンフィディック』。

 ラフロイグ蒸留所なら『ラフロイグ』。

 白州蒸留所であれば『白州』といった具合だ。


 しかし、それら蒸留所の名前を冠しない『ブレンデッドウィスキー』という種類のウィスキーがある。

『グレーンウィスキー』や『モルト』といった詳しい説明は割愛するが、要するに複数のウィスキーを混ぜ合わせて一つのウィスキーを作るのだ。


 その存在は俺の頭の中に存在しているというのに、なぜコーヒーでそれを行ってはいけない、などと考えていたのだろうか。


「しかし、そういった組合せを考えるのは、大変じゃありませんか?」

「もちろん大変ですよ」


 店主は、あっさりと断言した。

 そりゃそうだ。世界的に考えても、製品として流通しているブレンデッドウィスキーがどれほど存在するというのか。

 まだ俺の得意分野であるウィスキーですら、そうなのだ。

 頭の中に味のイメージが固まっていないコーヒーでは、いったいどれほど苦労することになるというのか。

 少し光明が見えた矢先に、またすぐに奈落の底へと落ちた気分だ。


 そんな俺に、さも当たり前のように、店主が言った。


「ですが、お客様のお連れ様は、既に答えが見えているようですよ」


「え?」


 俺は、店主の言葉に驚いて、思わずその二人を見る。



 二人と目が会うと、

 フィルは、やや焦ったように視線を彷徨わせ。

 サリーはふふ、と少しだけ、大人っぽく笑ってみせた。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

だいぶ遅くなって申し訳ありません。

タイトルはミスではありません。ギヌラ君、ごめんなさい。


また、少しお話したいことがございます。


今回の話を書くにあたり、コーヒーについて色々調べてみたのですが、知ったかぶりで描写してしまうには、あまりにも深いと感じました。

調べれば調べるほど、作中の主人公のように、自分の中でのコーヒーがウィスキーの存在と重なりまして、

自分がもし、それほどウィスキーに詳しくない人に、さも知ったようにウィスキーについて書かれていたら、やはりいい気分はしないと思ったのです。

(自分もまだまだ勉強不足で、ウィスキーに詳しいと自惚れるつもりはありませんが……)


そのため、コーヒーに関しては簡単な説明に留めるとともに、理解するにあたってウィスキーをなぞるような描写を選ばせていただきました。

また、飲み比べてみるなどの取材をする時間、資金ともに足り無かった為に、味や香りの描写もほとんど省かせていただくことにしました。

もし楽しみにしていた方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。

作者の力不足です。


しかし、それだけでは話が進まないので、次話ではややご都合主義的に話を進ませていただくことに致します。

分からない故に的外れなことを書くかもしれませんので、気になった点などはご指摘いただけると幸いです。


長々と言い訳を連ねて申し訳ありませんでした。

それと、今後の予定など、少しお話したいこともございますので、この後書く予定の活動報告にも目を通していただけますと幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ