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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章 幕間

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変な夢(3)

すみません、多分今までで最長です。

気持ち二話分くらいで、読んでいただければ……

 ──────



 鳥須との約束は、十六時に生協の前に集合。

 結局、俺は鳥須の誘いに乗ることになった。

 理由としては彼女が美人だったから、とでも言えるかもしれない。



 本日の三限は線形代数Ⅱの講義だった。

 俺は基本的に講義の際には最前列、かなり前のほうに座ることが多い。俺の数少ない友人の中に、一緒に座る人間はさらに少なく、大抵は後ろの方に固まっている。

 そして鳥須も、どちらかといえば後ろの方に座る人間であった。

 常に彼女の周りには人が居るし、男女分け隔てのない関係を築いている。言ってはなんだが、一年一緒だった俺よりも、よほど学年に溶け込んで見えた。


 そんな彼女だが、講義が終わって教室を出るとき、ノートを軽く見直していた俺に声をかけてきたのだ。


「待ってるからね」

「…………」


 今日は三限で、必修の講義は全て終わりだ。

 時間は丁度午後二時半。一方的に約束された四時までは一時間半ほどあった。



 そうだ、断ろう。普通に考えて、断るに決まっている。

 俺は、ほとんど約束の時間まで図書館で考えた後、急病になったと伝えて帰ろうと決めた。そう決めたのだが、彼女の連絡先も知らないことを思い出した。

 そして止む無く、直接会ってその旨を伝えることにした。


 生協の前に着くと、そこには人だかりがあった。

 その中心に居る人物が鳥須であることはすぐに分かった。

 よくよく見てみると、その人だかりはどうやら男性が多いこと。それも、理系の学校ではあまり見ない、イケイケな人間が多いらしいことが分かった。

 俺はその時点で、関わるのをやめようかと真剣に考えたのだが、間が悪いことに鳥須に見つかってしまった。


「あ! 総! もー遅い!」


 鳥須はわざとらしい大声を上げながら、俺に手を振り、人の壁を掻き分けて小走りに近寄って来た。

 そして、俺の腕を掴もうとしたので、俺はそれを避けた。


「だから、触るなって言ってるだろ」

「……良いから……!」


 いかにも嫌そうに言ったのだが、鳥須は小声で俺を睨んだあと、強引に手を掴んだ。

 振り払おうと思えばできたとは思うが、鳥須のやりたいことも分からなくはないので、無言で従う。


「それじゃ、私これからデートだから、ごめんね」


 そして、集まっていた男達の不満の声を振り払うように、俺の手を引いて小走りに構内を抜け出した。

 そこからも彼女は背後を気にしつつ、小走りに近い早歩きで進む。

 駅前くらいまでほとんど無言で歩いたあと、彼女はようやく一息吐いた。


「はぁー。くっそう。ちょっとめかしこんでみたら、まさか学校の外からナンパされるとは思わなかったよ。あいつらしつこいし、待ち合わせだって言ってるのに付いてくるし。これだからチャラい男は嫌いなんだっての」

「そうか。大変だったな」


 鳥須がイライラした様子で吐き捨てていたので、俺は一応義理で同情を返す。

 だが、そんな俺の対応が気に入らなかったようで、鳥須は俺のことも睨んだ。


「ていうかさ。そういう夕霧君は、私の格好を見てなんとも思わないわけ?」


 俺は鳥須に言われて、ようやく彼女の服が少し変わっていることに気付いた。


「ん? え、うん、綺麗ですね」

「そのお世辞くさい褒め言葉はなんなの。もっと自分の言葉で、なんかないの?」


 自分の言葉で、か。

 具体的には、彼女はさっきまで動きやすそうな格好だったのに、今はやや機能性が悪そうな服を着ている。DEFとAGLが下がってそう。

 昔、オシャレは我慢だと誰かに教わった気がするから、その動きにくそうな服は我慢なのだろう。日常生活に戦闘は関係ないが。


「別に、俺とどうこうなるわけじゃないんだから、着飾らなくて良いんだけど」


 俺は率直に感想を述べた。

 鳥須は更に機嫌を悪くしたようだ。


「いや、別に私も君とどうこうなると思ってたわけじゃないけどさ。興味なさそうに言われるとむかつくよね。ちょっと、私のプライド的にむかつくよね」

「じゃあ、DEFとAGLが下がってそうだけど、INTは上がりそうで良いな。その服」

「その発言で、私のATKが上がりそうだけどね」


 どうやら、俺の感想は挑発と取られたようだ。


「……さっきは、男が寄って来て面倒とか言ってたぞ」

「それはそれ、これはこれ」


 理不尽だ。人に対しての優しさがない。

 だいたい、人に褒められたからなんだよ。そんなの面倒なだけだし、変なこと言ったら言われた方も嫌なだけだろ。今みたいに。

 だったら、別にそんなこと言わなくてもいいじゃないか。

 そこまで考えてから、俺は自分の用件をまだ伝えていないことに気がついた。


「そうだ鳥須。俺はやっぱり断ろうと思っ──」

「ん? なんて?」

「だから今日はもう帰りた──」

「ん? なんて?」

「……帰る──」

「ん? なんて?」


 鳥須は俺の言葉を遮り、ひたすらにそう問いかけ続けた。

 これはあれだろうか。はいを選ぶまでストーリーが進まない系のイベントか何かだろうか。

 いや、違うな。あの場面と決定的に違うことが一つだけある。

 時間経過と共に、鳥須が少しずつだけど、涙目になってきていることだ。


「……どこに行くんだよ」

「秘密さ! お姉さんに任せてよ」


 結局、無限ループに嵌るのも、強引に抜け出すのも気が引けて、俺は彼女の誘いに乗ることになった。

 正確には、周りの人間からの『あんな美人を泣かせて』みたいな声が辛かった。

 何が美人だよ。そんなの、ただ顔面のパラメータがちょっと高いだけだろうが。



 鳥須に連れてこられた場所は、俺には馴染みのない建物だった。

 俺達の通っている大学からは二駅ほど離れていて、駅に付いてからも結構歩いた。そして辿り着いたそこ。

 まず入り口から俺の知らない世界だった。


 入り口のところには、俺が普段買わないような、缶や瓶の発泡酒が並んでいて、手作り感のあるポップで値段が張り出されている。

 そこから少し目を逸らすと、レモンやライム、クランベリー、パイナップル、トマトなどのジュースが、無駄に何種類も並べられていた。

 そして入り口の向こう側、建物の中には、ここの比ではないほどの数の、液体の詰まった瓶が並んでいるのが見て取れた。


「……ここは、なんだ?」

「見て分かるでしょ? 酒屋さんですよ」

「……だから、なんでだよ」


 俺はなぜ連れてこられたのか、説明を求めるように鳥須を睨む。

 鳥須はふふ、と嬉しそうに笑みを浮かべただけで、さっさと店の中に入って行った。

 俺は、周りをキョロキョロと見回しながら、彼女の後に付いて行く。


「こんにちは店長」


 鳥須は店に入り、茶色い液体が入ったボトルを眺めていた男性に声をかけた。

 男性は振り向き、鳥須の姿を認めると柔らかい笑みを浮かべた。


「伊吹ちゃん、いらっしゃい。久しぶりだね」

「ご無沙汰してます。最近どうですか?」

「いやー、不況だね。若い客がどんどん減ってるのが分かるよ」

「ですかー。私は若くないですかー」

「そ、そんなんじゃないよ!」


 鳥須と男性は、そうやって気安い会話をしていた。

 その切れ間に、男性はようやく俺に気付いたようで、興味深そうな目を向けて来た。


「君は?」

「えっと、俺はそこの鳥須さんの──」


 鳥須さんの、なんだろうか。

 同級生? いや、大学ではそういう表記はどうか。

 友達? なわけないだろ。

 じゃあ、あれか。


「ただの知り合いです」

「おいおい。友達でしょう?」


 俺が論理的な結論を述べると、鳥須は鋭い突っ込みを入れてくる。

 鋭いというのは、言葉の勢いのことであって、上手いとか上手くないとかの話では決してない。


「まぁ、なんでも良いさ。伊吹ちゃんが人を連れてくるなんて初めてだしな。ゆっくりしていきなよ」

「はぁ」


 そのおじさんの訳知り顔に何か違和感を覚えた。だが、それを掘り返すほどの興味が俺には無かった。

 おじさんはそのまま、鳥須に目線で何かを言った後に、カウンターの奥へと引っ込んだ。


「で、俺をこんな所に連行してきたのは、なんでだ?」

「人聞き悪い言い方しないでよ。任意同行でしょ」

「それは強制って意味だって知ってたか?」


 俺の答えに鳥須はうむむ、と難しそうに唸ったあと、ぽんと手を叩いた。


「そうだね。捻くれ物の君には、王道から教えてあげよう」


 言ったあと、鳥須はスタスタと瓶が並んだ棚の一つに向かい、歩いて行く。

 そして、似たような瓶の中から一つを選ぶと、それを持って俺の前まで戻った。


「それは? ウィスキー?」


 ここが酒屋であり、茶色い液体だから、きっとウィスキーというやつだろう。

 そう思って聞いたが、鳥須は首を振った。


「そうだけど違います。これはウィスキーの中でもスコッチと呼ばれる種類のものです」


 俺は鳥須の言葉を聞いたあとに、瓶のラベルを見た。

 そこには、一番大きな文字でこう書かれていた。


『Dewar’s』


 その下に、黒字で小さく-TRUE SCOTCH-と書いてあるので、スコッチと呼ばれる種類というのは分かった。


「夕霧くん。今日は君に、お酒というものを教えてあげる」



 俺がラベルに目を取られていたところで、鳥須が言った。

 その表情は、どこか子供を見る親のようであり、おもちゃを見る子供のようでもあり。

 そして、あんなに友達が多い彼女だというのに。


 同好の士を求めている、孤独な少女のようでもあった。



 ──────



「夢ですか?」

「そう、寝てるときに見る夢」


 ちょっとした買い出しに向かう道すがら、俺はフィルに尋ねてみた。

 夜に見る夢を、良く覚えているほうか、と。


「うーん。僕も、あんまり覚えてないですね」

「そうか。いや、俺もそんなに覚えているほうじゃないんだけど。なんか最近は忘れてるって感覚が強いんだよ」

「あら、その歳でもうボケが始まったんですの? 大変なことですわね」


 俺をからかうように、一緒に来ていたサリーが笑った。


「サリー! なんてことを言うんだ!」

「良いってフィル」


 俺の代わりに声を荒げたフィルを宥めた。

 もちろん、サリーの生意気には違いないのだが、最近のこれは昔のとは違う。

 関係性がある程度固まっているからこその言葉。

 例えれば、かまって欲しくて子供が親に我がままを言うようなものだ。

 だから俺は、極めて冷静に反撃してやることにした。


「あーそうみたいだ。俺も最近ボケが進んできてな。フィルに出した課題は制限時間が三分って覚えてるんだけどなぁ。サリーの方はどうだったっけ?」

「……はい?」

「二分五十秒──いや三十秒だったかな」

「ちょ、ちょっとお待ちくださる!?」


 さりげなく課題のハードルを上げてやろうとすると、サリーは焦ったような声を上げた。

 ついでに二人は、着実に三分に近づいている。サリーのほうは、恐らくあと二、三回で目標に達するだろう。

 だからこそ、有効な攻撃方法なわけだが。


「どう思うサリー?」

「そ、総さんは決してボケるような歳ではないですから、すぐに思い出せると思いますわ!」

「…………そうか?」

「はい!!」


 サリーが背筋を伸ばして、青い顔で冷や汗をかくように俺をじっと見つめている。

 その、カチコチに固まった姿がおかしくて。俺は笑いを堪え切れなくなった。


「冗談だよ、三分だって。そんな固くなるなよ。可愛い顔が台無しだぞ」

「なっ、か、可愛いですって!?」


 俺が弁明すると、今度は少し顔を赤くした。

 そういや、普段は叱ってばかりだ。良い機会だからちょっとは褒めておくか。


「おう、可愛い可愛い。今日の洋服は青系で、銀髪にとても似合うな。スカートも普段と違って落ち着いて見えるし、今日はすごく大人っぽい。アクセントの髪飾りも、とっとも甘く妖しい感じがして、すごく綺麗だ」

「そ、そうでしょう! 今日は少し、大人のレディをイメージしてみましたの」


 見たまんま、率直に褒めてやると、サリーは嬉しそうに唇をにへらと開いた。

 しかしそのあと、何かに気付いたように、じとっとした目で俺を見た。


「……って。総さんは誰にでもそういうこと言いますわよね」

「まぁな。でも相手の見て欲しいところに気付く。そして自分の言葉で褒める。それって、相手も嬉しいし、こっちも喜んで貰えたら嬉しい。何も悪い事ないだろ?」

「……まぁ。そうですけれど」


 サリーは少しだけ複雑そう──嬉しいけど悔しそう──に頷いた。

 そこに、先程のやり取りをずっと見ていたフィルが混ざった。


「あの、総さん。でも、例えばですけれど。カップルがお客さんとして来て、その女性の方がお連れの男性に褒めて欲しそう──みたいな時ってありますよね。そうだとしたらどうですか?」


 ふむ。フィルは流石向上心があるな。その場合は、こちらの手腕も試される。


「それは男性が奥手そうだったら、こっちからさりげなく話を振って上げるな。女性の見て欲しそうな所を話題に出して『どう思います?』とか『綺麗ですよね?』とか、なるべく男性が意見しやすい流れに持って行ってあげることだ」

「……えっと、つまり、その女性はその男性に褒めて欲しいわけですよね」


 フィルの何かを求めるような視線に、俺は更に頷いた。


「そういうこと。こっちが出しゃばって、男性より言葉を重ねちゃいけないな。もちろん、その男性が他の女性のことを褒めたりしないようにも気を付ける。酔いが回ってたりすると、ついつい他の女性客まで話に混じっちゃったりするからな」

「ですよね。その女性は、男性が他の女性を褒めていたら嫌ですよね」


 フィルの鋭い突っ込みに、俺は少し嬉しくなって言った。


「そう、そうなんだよフィル。だからバーテンダーも、話の流れでいつでも褒めておけば良いってわけじゃない。特にフィルは、酔いが回るとちょっと言葉が多くなるから、そこに気をつけないとな。他の人が居ないときなんかには、こんなこと言うのは『あなた』だけですよ、みたいな特別感を演出してあげたり」

「…………わざとじゃ、ないんです。よね」

「……ん?」


 さっきまで鋭い視点で述べていたフィルが、最後に言葉を濁した。

 間違ったことは言っていないのだから、もっと嬉しそうにしたら良いのに。


「フィル。別にそういうわけじゃないわよ。変な気を使わなくてもいいから」

「……まぁ、サリーがそう言うなら。でも、その服、凄く似合ってるよ」

「お世辞でもありがとう」



 双子はお互いに、やや呆れつつも楽しそうな顔で言っていた。

 俺は、うむ、ととりあえず訳知り顔で頷いてみるのだった。


ここまで読んで下さってありがとうございます。

また少し遅くなってすみません。

最近、時間に間に合いませんね……


少し幕間で書きたいことが多くなってしまっていまして。

殆ど他の章と変わらない量になるかもしれません。


つまりストーリーが進まないのですが、離れ業でウィスキーが出てくるので、

熟成マニアの方々は、溜飲を下げていただければと思います。


※1219 表現を少し修正しました。

※1221 誤字修正しました。

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