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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第一章

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機人の集落

 家電。工業品。業務用ロボット。

 それらが無作為に並んだスクラップ広場。

 というのが、その場所の第一印象だった。


「えっと?」


 スイに案内された『機人』たちの集落入り口で、俺はその現場を二度見したあとに、目で訴えた。

 これ、場所間違ってね? と。

 その視線に、スイは真顔で返す。


「ここ」

「嘘だろ? どう見てもスクラップ置き場じゃないか」

「だから、そういう人種なの。『機人』って」


 俺はここにくる道すがら、少しだけ『機人』の説明を受けた。

『機人』はこの世界に存在する亜人種の一種。工作と機械をこよなく愛する人種らしい。

 その祖先はどこから来たのか定かではないが、一説によると俺と同じようにどこかの世界から召喚されてきたとか。

 そして彼らは、この魔法が広がった世界で、時には魔術を利用し、時にはまったく別の力を使って独自の『機械』という道具を作り上げるという。

 俺はその説明にふむふむと頷いたが、その後にスイが言った言葉はピンと来なかった。


『彼らは『作る』ことが好きなだけで『出来た物』には興味がないみたい』


 自分たちの作った物にべらぼうな値段を付けるのに、どういうことだと思った。

 その結果は、こういうことらしい。


「たぶん、作っているときが一番楽しくて、出来たものが売れるかは二の次。そんな感じ」

「それで、良く生きていけるな」

「たまに売れるだけで、年単位で暮らせるからね」


 そうなのか。

 本当にそんなものなのか?


「材料とかはどうしてるんだ?」

「材料なら、そこにいくらでもあるじゃない」


 スイはスクラップ置き場を指差す。


「捨てた物は好きに使っていいんだって。ただし『新しい機械』を作ることが条件で」

「じゃあ、このスクラップ置き場から『冷凍庫』を勝手に盗んだりとかは」

「できない。というかしないで」


 スイに嗜められ、俺はスクラップ置き場に向けていた視線を前に戻した。

 スイによると、盗難防止装置的な何かが付いていて、それは『機人』にしか解除できないのだという。

 どうやら、彼らはひどく狭いコミュニティの中で、生活を回しているようだった。


「それで、どうするの? 運良く商品になってれば良いけど」

「とにかく、行けるだけ行ってみよう」


 俺の想像していた家電量販店的な店はどこにもないそこへ、俺とスイは恐る恐る足を踏み入れることにした。



「店っていうか、そもそも人がいないな」


 集落に入って、まるで荒廃した未来のビル群みたいな町並みを歩く。ここだけ時代が千年くらい先を行っている気がする。

 道にはチラホラと見た事のある機械や、見た事もない機械が並んでいるだけだ。

 それで商売しようとする『機人』は見当たらない。

 野菜の無人販売所並みの気軽さで『遠心分離機』とか書かれた機械が置いてあったりするのだ。


「だから、彼らは出来たものをどうしようって気が無いの。気に入ったら金を払えってだけなの」

「また、えらく職人気質な連中だな」


 バーで働いているときも、無口で気難しいお客さんはいくらでもいた。だが、そういう人達もバーに求めるものがある。それを上手く見つけてあげられれば、距離は詰まる。

 だが、こうも突き放される感じだと『機人』達とどう接して良いのやら。


「とにかく、一人くらい捕まえて『冷凍庫』の話をできれば……」


 俺がボソリと、独り言のように漏らす。



「『冷凍庫』!? 『冷凍庫』って言った!?」



 その声は、突如俺の耳に飛び込んできた。

 俺とスイはびくりとその場に立ち止まり、声の方角を見る。

 その先に居たのは、ブリキのオモチャみたいなどでかいロボットだった。


「ねえそこのお兄さん! 『冷凍庫』が欲しいって言ったよね!」


 そのロボットから、歳若い少女の声が聞こえてくる。


「ねえねえ! 返事してよお兄さん」

「あ、ああ。君はロボットかな?」

「違うよー」


 思わずなんの捻りもない返事をすると、ロボットから呆れたような声がする。

 その直後、ロボットの頭部がガチャリと開いた。

 そして中から、声の印象に程近い、中学生くらいの少女が現れた。


 恐らく『機人』なのだろう。


 外見は人間とそう変わりはない。だが、目立つところで言えば、その肌にちらほら、幾何学的な模様が浮き出ていたりする。

『機人』という言葉から察するに、機械と人間の間の子といった印象を受けた。

 少女は軽い身のこなしでロボットから飛び降りる。俺の前まで小走りで寄ってくると、にへっとした笑みを浮かべて言った。


「こんにちは。私はイベリス。『機人』だよ」

「ああ。俺は総。多分人間だ」


 戸惑いながら返す。

 なんだか、先程まで持っていた『機人』の印象が大分変わった。

 俺の戸惑いをよそに、イベリスはグイグイと俺へと言葉を重ねてくる。


「ねえねえ。『冷凍庫』でしょ? 今良いよ。すごく良いよ。出来立てホヤホヤだよ?」

「あ、ああ」

「ね! 見るでしょ? 見るでしょ? よし、行こう!」


 少女は強引に俺の手を引く。

 その無邪気な笑顔と相まって、不思議と押し売りのような不快さは感じない。


「私まだ見習いだから、勉強中なんだけど。初めて『商品』作ったんだよ。ね、ね、どうですかお客さん!」

「いや、まだ買うって決めたわけじゃ」

「良いから良いから!」


 俺は戸惑いつつスイの方を向いた。


「まあ、良いと思う」


 スイもまた、少女の勢いに圧倒されながらも、付いて行くことに否定はしなかった。



 少女は俺の手を引いて、入り組んだ道をスイスイと進んで行く。

 大通りと違って、小路に入ると完品の機械はない。部品が多い印象だった。


「お兄さん、機械好き? なんか好きそう」

「まぁ、人並み程度には」

「うんうん。お姉さんは機械嫌い?」

「え? 別に、嫌いでは」

「良かった! ここの人って、機械嫌いな人ばっかりだもん」


 イベリスは、道案内をしながらその都度俺たちへと話しかける。

 その勢いは、酔った客でもなかなかお目にかかれない程だ。

 どうやら、少女はこれまであまり外の人間と接したことが無いようだ。

 普通の『機人』に比べても歳が若く、外の人間に対する『接し方』が完成していないのだろう。

 俺はなんとなく、気まずそうにしているスイを見ながら、そうあたりを付けた。



「着いたよ! 私ん家の工房!」



 少女の話を聞いていると、あっと言う間に目的地へ着いたらしかった。


「じゃあちょっと、師匠に話してくるから待っててね!」


 笑顔で言ったイベリスは、とててと小走りでその町工場みたいな建物へと入って行った。



「すごい勢いだったな。俺、ほとんど相槌しか打ってない気がする」

「私も。あんな人懐こい『機人』には初めて会った」



 少女が去ったあとに、俺とスイはぼそりと感想を言い合う。

 そして、二人してなんとなく、同じタイミングで苦笑いを浮かべた。

 その時、突然何か大きな物が崩れたような轟音が響いた。



「た、助けて! 誰か手を貸して!」



 続いた声は、先程まで俺たちを先導していたイベリスのものだ。


「スイ!」


 俺はスイに短く声をかける。

 彼女は無言で頷く。


 そして、俺たちはその町工場の中へと急いで駆け込んだ。





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※0805 表現を少し修正しました。

※1026 誤字修正しました。

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