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異世界転移バーテンダーの『カクテルポーション』  作者: score
第三章

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図書館での再会

 何事もなかった朝食を終え、今日は一日フリーの俺だ。

 だが、フリーと言っても予定がないわけではない。


 そこを思うと、日本に居たときに比べて大分アクティブになったものだ。

 あの頃は、家に閉じこもってただ練習をするだけで良かった。

 その練習の成果をぶつける機会も、設備も、頼まなくとも店には全て揃っていた。


 それがこの世界では、自分で集めなければ手に入ることもないのだ。


 道具が欲しければ、探す。

 情報が欲しければ、調べる。

 材料が欲しければ、作る。


 全てが、待っていても手に入らないものばかりだ。

 だけど、それを充実していると言っても、良いのかもしれない。


 やりたい事は目の前にあり、やるべき事が分かる。

 かつての、息詰まるような、何をしたら良いのか分からない泥沼の世界は、まだ遠い。


「…………」


 その先は、どうなんだろう。

 リキュールを手に入れて、この世界で欲しかった材料も大分揃ってきた。

 もちろん、まだまだやるべき事が無いわけではない。

 それでも、オヤジさんの言っていたその時は、思ったよりも近くまで来ているのかもしれない。


「……目標か」

「そんなことを調べに来たのお兄さん?」

「わっ?」


 急に声をかけられて、俺は大声を出しそうになり慌てて口を塞いだ。

 なぜかと言えば俺の今いる場所は、図書館の中だからだ。

 そこで考え事に耽っていると、唐突に声をかけられたのだった。


「えっと?」

「久しぶりだね。お兄さん」


 俺が声をかけてきた人物に視点を合わせると、その子供は親しげに挨拶をしてくる。

 色素の感じられない真っ白な髪の毛。真っ白な肌。そして赤い目。

 男かも女かも分からない中性的な顔立ち。


 以前、この図書館で本を紹介してくれた子供──名前は確か。


「……エル、で良いんだよな?」

「そうだよ。お兄さん。良く覚えてたね」

「これでも、記憶力には自信があるんだ」


 俺が胸を張ってみせると、エルは面白そうに、にんまりと唇を歪める。

 そのあと、先程の会話に戻すように、エルが質問を投げた。


「それで、お兄さんは『目標』を調べに来たの? 図書館に?」

「え? 違う違う、ほら、これだ」


 少しだけ距離の近いエルに慌てて弁解しつつ、俺は持って来ていた本を見せた。

 タイトルは『あくまの秘密』という、簡単な紹介本。

 その他にも、テーブルには『吸血鬼の謎』とか『優しい人種』とか、少しだけおどろおどろしい表紙の本が踊っていた。


「そっか、お兄さんは吸血鬼のことが知りたいんだね」

「ああ。でも、ここにある本じゃダメみたいだ」


 俺はエルに疲れた声を投げた。

 この前、魔草のことを調べたときもそうだったが、普通の本棚には、娯楽本とか入門書とかが多い。

 そして載っている内容も『吸血鬼は人間を食料とするらしい』とか『吸血行為で同種を増やすと言われている』とか、いわゆる噂レベルだ。

 スイが言っていたような、本当の生態に迫っているものが見当たらない。


「それはそうだよ。だって、それらはみんな、作家が想像で書いたものだもの。研究者とか冒険者が書いた本は、こっちだよ」


 俺の苦言に、エルはにっこりとした笑みを浮かべて俺を促した。

 俺は慌てて出していた本を棚にしまい、後ろに続く。

 いつか連れて行って貰った地下へのルートと、また違う道を通るエル。

 そんな子供の背中に、俺は疑問を投げかけていた。


「なぁエル」

「ん?」

「失礼なんだけど。君は、その、何者なんだ?」

「あはは、おかしな質問をするね、お兄さん」


 俺の声に、エルはおかしそうに笑って振り向いた。

 エルの赤い瞳が、まっすぐに俺を見つめた。


「まるで、僕が人間じゃないと思ってるみたいだ」

「……いや、流石にそこまでは」

「ふふ。でもそれも仕方ないよ。僕は人間とは呼べないから」

「え?」


 その唐突な宣言に、俺は目を丸くした。

 人間じゃない?

 だが、そんな俺の驚きを、エルは愉快そうに見てくる。


「そんなに驚くことかな? この国に、人間以外の種族なんていくらでもいるよ」

「え? あ、そういう意味か」


 俺の戸惑いに、エルは目論み通りといった嬉しそうな顔をする。

 どうにも、このエルという子供相手には、俺の思考が上手く働かない。

 相手の表情から、何を考えているかという予想が立てられないのだ。


 バーテンダーをやっていても、そういった傾向のある人物はいる。

 特に子供や、自分よりもかなり年上の人は、そうなることが多い。

 果たして、エルからはそのどちらとも言えない。無邪気かつ、底の深さを感じた。



「僕は、何者でもないよ。ただ、人より少し知識が好きなだけの人間──いや、人間じゃないけどね」



 エルは穏やかな表情で言ってみせた。

 だが、それが本心からの言葉なのかは、やっぱり分からずじまいだ。


「……本当か?」

「それが嘘だとして、お兄さんには何か問題があるのかな?」


 不躾な俺の質問に対する、エルの探るような瞳。

 俺を品定めするような視線。


 この視線は覚えている。

 年配のお客さんにされたことが、幾度もある。

 そのときの最適解は、

 嘘や誤魔化しで逃げることじゃなく、素直に本心を告げることだ。



「本当に知りたいのに嘘を吐かれたら、誰だって嫌な気持ちになるだろ」



 俺が真剣に答えてみせると、エルはきょとんとした顔を見せた。

 そしてその直後、堪え切れないといった様子で笑い出した。


「ふ、ふふ、そうだね。それはそうだ。誰だって嘘は嫌だよね」


 そのエルの衝動笑いが終わるのを、少し憮然と待つ。

 しばらくして、エルは笑いを抑え、俺に向き直った。


「笑ってごめんね。でも確かにその通りだ。嘘はいけない」

「ああ」

「お詫びに、一つだけ良い事を教えてあげる」


 お詫びにということは、嘘を吐いていたということか?

 俺がその答えに行き当たると同時、エルは静かな声で言ってみせた。


「お兄さんの所にいる二人の吸血鬼。あの二人は暢気な旅人なんかじゃないよ」

「……知っているのか? 二人のことを」

「…………」


 俺はその事実に驚きを隠せないが、エルは曖昧に笑っただけだった。

 その様子では、何か知ってはいるのかもしれない。

 だが、教えてくれる気は、無さそうに見えた。


「お話はここまで、行こうか」


 エルは話を打ち切ってしまうと、すたすたと俺に背中を見せて歩いていく。

 俺はモヤモヤとしたままだが、置いていかれないように急いでエルを追いかけた。



 すぐに、いつか見た『魔草』の書架とはまた違う、重々しい扉の前に着く。

 エルが扉を開けると、以前にも増して重々しい雰囲気の部屋が広がっていた。


「お兄さん。吸血鬼を知りたいのなら、それとかだね」

「これか?」


 エルが指した一冊に、俺は手を伸ばす。

 タイトルは『吸血鬼との生活記録』という。

 どうやら、吸血鬼の領内に入った冒険家が、その場で体験したことを赤裸々に綴った一冊のようだった。

 調査記録風にまとめられてもいるので、とても読みやすく調べやすそうだった。


「うん、良さそうだ。ありがとうエル」


 俺は本に下げていた視線を上げつつエルに感謝を述べるが。

 エルは再び、俺の前から姿を消していたのだった。


「……また、この手を使われたか。いや、この先会うこともあるだろうし、後々」


 エルの正体が、なんなのか。

 少しも核心に近づいた気はしないが、今は良い。



 俺はひとまず、親切な少年(少女?)に紹介された本を、読み進めることにした。


ここまで読んでくださってありがとうございます。


ちょっと試験的に、なんちゃって用語集(未完)を設置してみます。

『この用語、実は分からねえんだよ』とか、

『この説明抜けてるんじゃないの?』とか、

言って下されば、そのうち用語集に追加されると思いますので、

一ヶ月後くらいに反映されるかもくらいの気長さでお待ちいただければ幸いです。


※0930 誤字修正しました。

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