SS11 「ヒマワリみたいな女の子」
ヒマワリみたいな女の子だった。
彼女を見たのはレンタルビデオ屋のカウンター。
青いダウンジャケットが細い肩を覆い、蛍光灯の光がスポットライトのように切りそろえられた黒髪に当たる。上空何処かにある闇夜の雪雲からは綿埃のような雪片。
だが、彼女の横顔・・・・・・大きな瞳はヒマワリを連想させた。突き抜けるような青空の下一面に咲く大輪の花だ。
ホラー映画とAVのポスターが貼られたガラス越しなので何を言っているのかはわからなかったが、彼女は楽しげに店員に話し掛けていた。
あんな子と一緒に映画を見たら楽しいだろうな、僕は思った。
二人でソファーに座って画面を見つめるのだ。僕の部屋にはソファーがないが、彼女のためなら買おう。
部屋に帰っても借金取りしかいないけど、いつかお金を貯めて買おう。そう思った。
雪に積もる気配はなく、雪は泥だらけの氷水に変わった。この雪で雪だるまを作るのは難しい。でも、借金が転がって大きくなるのは簡単だ。元がほんの些細な金額でもたちまちのうちに大きくなる。自然に勝る脅威の事実だ。
連帯保証人になって、ほんの数ヶ月なのに僕の人生は大きく転げ落ちた。
・・・・・・おや、角の所に見えるのは借金取りのお兄さんじゃないか。
僕が駆け出した時、ビデオ屋の店員がにやけた表情で少女にDVDを紹介していた。
ドイツ映画で赤い髪の女がひたすら町を走る映画だ。
・・・・・・いい映画だけど、あの子には合わない気がするなあ。
夜道を走り、転げ、それでも走りつづけた。
男達に捕まったら、明日には臓器の半分がなくなっているだろう。
今は使われていないビルに逃げ込み、駆け上がる。借金取りのお兄さんは大声を上げながら追いかけてくる。ロッカーの影に隠れながら男達が諦めるのを待った。明日になれば、知り合いの弁護士によって僕の自己破産の手続きが行われるはずだが、相手は超法規的な手段に訴えたわけだ。
・・・・・・一体、どこから金を借りたらこんなことになるんだ?
僕は逃げた友人に心の中で呼びかけた。
・・・・・・まあ、元婚約者を友人と呼ぶのは妙な気はするが、昔はそうだったのだし。
ふと、僕はあのヒマワリみたいな女の子に電話がしたくなった。
あの子にピッタリの映画を思いついたのだ。
君にピッタリの映画なんだよ?