俺と魔法と聖剣と 1話
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1話 振り下ろされたヤイバ
12月23日。2日前に過ぎたこの日はとある青年、宿木結城の生誕17年を祝う日だった。といっても結希には実感の湧く日ではなかった。捨て子である彼にとって誕生日に無関心になるのは仕方のない話だったのかもしれない。15年前の12月に彼は孤児院の前に捨てられていた。寒空の下に寝かされていた当時2歳の彼はそのけたたましい泣き声で辺りの住民を叩き起こしたと今でも院長から笑い話にされるほどだ。……閑話休題。
「あー疲れた。さすがにバイト詰め込み過ぎたな」
今、結希は孤児院を出てアパートで一人で生活している。別に追い出されたわけではない(重要)。気のいい院長であちこちから子供が集まってくるので部屋が足りなくなってしまったからだ。というわけで年長者の彼は孤児院を出て、院長に少しではあるが仕送りしてもらいながらバイトをしながら細々と生活している。だが、アパートの家賃などは彼が捨てられていた時になぜか一緒に置かれていたいくつかの指輪などの一部を売ったお金で捻出したものだ。中々の大金になり、売ったときはひっくり返りそうになっていた。それでも彼がバイトをしているのはさっき言った通り人が増えた孤児院の資金の足しになれば、少しでも恩を返せれば。そして今では家族とすら思っている孤児院のこども達のために。そう思ってクリスマスの日にまでバイトを入れていたと言うわけだ。決して独り身の言い訳などではない(特に重要)。そんな彼の横を一組のカップルが楽しそうに通り過ぎていく。
「…………」
結希の目から今日一日精一杯働いた結希の心の汗が流れてくる。別に友達がいないわけでもなければクリスマスパーティーに誘われなかった訳でもない。同じ孤児院出身の幼馴染に異様に強く誘われてはいたがただ行かなかっただけだ。
「はあ……。何やってるんだか、さっさと帰ろう」
心なし歩調を速めて家への道を帰り始めた。
それからしばらくして、結希の住むアパートに帰る際に必ず通る公園に差しかかった。11時を回ったこの時間帯では人気は欠けらもない。この公園はそれなりに大きく春は桜吹雪が舞い、秋は紅葉が人々を魅了する町の人に人気の公園だ。舗装された道を通りながら夕飯のメニューをタヌキかキツネのどっちにしようか迷っていると公園の中央にある開けたスペースに出ていた。そこで彼は足を止めてしまった。普段なら直ぐに通り抜けてしまうこの場所には普段と違う場所、普段と違う人がそこにいた。肩まで伸びた、月光に輝く金髪に白魚のような指先をしたスレンダーな美少女が椅子に座り、両の碧眼でこちらを見ていた。思わず足を止めて立ち尽くしていた彼
に彼女はすっと立ち上がり近づいてくると一言。
「やっと見つけたわ。間に合ってよかった」
「は、はい? あんた何を言って……」
気付いたら目の前に歩み寄ってきていて驚きつつも、近くで見ると本当に綺麗だなとかいいにおいがするけどこれ何の匂いだろとかドキドキしている彼に次の衝撃が襲ってきた。
「っ! 来たわね。ちょっと、えっと……宿木結希だったっけ? 落ちてくるから気を付けなさいよ」
「おいおい、どこで俺の名前聞いたんだよ。大体落ちてくるって何が?」
次々と理解できないことを言われ割と頭が混乱し出した彼はそんなことを尋ねていると頭上から甲高い飛行機のエンジンのような音が聞こえだした。彼女は答えを溜めながら笑顔で一言。
「何って……『聖剣』よ?」
言い終わると同時、広場の中央に空から光る何かが爆音をのせて地面に激突……落下してきた。
「うわっっっ!!」
一瞬で視界を土煙が塞ぎ、結希の耳を爆音が支配した。土煙は数十秒過ぎるころには消え始め、その奥に隠していた『もの』を俺たちの前にさらけ出す。それは剣だった。西洋剣というのだろうか、結希は昔に孤児院のテレビで見たクレイモアという剣の事を思い出していた。少しだけ太い刀身に何かの文字のような細工が彫られており、剣をより美しく際立たせていた。結希は先程からのあまりに現実離れした出来事の連続に思考がストップしてしまっている。そんな俺に隣の少女は笑いを堪えているかのように手で口を覆い隠して肩を震わせていた。
「……え? そ、空から剣が……落ちてきた?」
「や、やっと戻ってきた? そんなことよりあれさっさと抜いてくれない? さっきの音で人が集まってくる前に」
そんな事をのたまう少女に結希はしばらくの間あーだこーだと抵抗や質問をするも上手く丸め込まれてしまい、落下物(謎の剣)を待っていくために事故現場に歩を進めていた。剣の目の前に来ても彼は今だに抵抗を試みていた。
「にしてもこんな重そうなのどうやって抜けって言うんだよ。なあ、話なら聞くからさ早くいかねえ?」
「ここまで来て何ビビッてるのよ……あ! 私知ってるわ、こういうのを『ヘタレ』って言うのね」
少し演技がかった風にぽつりと漏らされた言葉に彼はぴくっと反応した。男には言われて我慢ならない言葉がある。それを目の前で言われてスゴスゴ逃げ下がるような男なんかではないと考えるのが彼(馬鹿)だった。さっきまでの弱気な顔は鳴りを潜め、無駄に真剣な顔で地面を刀身で縫い付ける剣と向かい合った。そして、ゆっくりと両手で柄をギュッと握り占めて、腰を深く落とし、一気に……引き抜いた。
「あ、言い忘れてたけどそれそんなに重くないはずだからそんなに力まなくても「ドシャッッッッ‼」大……丈夫よ?」
剣が見た目とは裏腹に想像以上に軽かったせいで剣を後ろに思いっきり振りかぶってしまった結希。盛大に背中を打ち付けて、仰向けの体勢になるになって悲鳴にならない悲鳴を上げている。少しして激痛に顔をしかめつつも目を開くと真上から少女の手遅れなアドバイスが聞こえてきていた。
「ちょっと宿木結希大丈夫なの? おーい、固まっちゃって一体どうし……た……の……」
今の彼の視界にはこちらをのぞき込む少女の金色の髪にオレンジ色の膝丈スカートと普段は垣間見ることのできない神秘の聖域(この情景は彼の心の内に秘めておこう)に、顔をトマトもびっくりなほどに真っ赤に染めている端正な顔立ちと振り上げられるすらっとしたハイヒールを履いている足。
「し……」
「し?」
「死になさい!!!!」
「げぶしっっっっ!?」
この日宿木結希はハイヒールとは最強の刺突武器であることを身をもって体験した。