再会。
目が覚めたのは、お昼近くになってからだった。
目の端に涙のあとがあった。
泣きながら寝てしまったようだ。
看護婦さんが開けてくれたのか、窓から心地よく風が吹いている。
サイドテーブルの上には、昨日お母さんが置いていった箱があった。
そっと開いてみた。
昨日の女の子は、いなかった。
私は昨日、いらないと叫んで床に叩きつけてしまったのだ。
きっと、どこかに行ってしまったんだろう。
からっぽの箱を見つめながら、また涙を流す私をいつの間にかきつねが見ていた。
「ゆうさん、泣かないでください。」
きつねがそう言ってくれたけど、涙はポロポロとこぼれた。
悔しかった。あの子を食べてやれなかった。
私の為に生まれてきた、あの少女を。
「なんで私にだけ見えるのよ…。私だって……私だって、手作りのもの食べたいのに…!」
「食べられますよ。」
少年の声だった。
声のした方へ顔を向けると、誰もいないと思っていた病室に見知らぬ男の子が立っていた。
焦げ茶の髪はすこし癖毛で、背は小学校低学年といったところだ。
髪と同じ色の大きな目で、少年は私を見つめている。
「君は…だれ?」
私は少年に声をかけた。
少年はゆっくりと私に歩み寄ってきた。
風が少年の髪を揺らす。
私の側へ立った少年は、もう一度その大きな目で私を除きこんだ。
私はその目を見つめ返し、そして突然その少年が何者なのか分かった。
「くまさん…?」
私の口からこぼれ出た問いかけに、少年はふわりと笑った。
「覚えていてくれたんですね。」
少年は嬉しそうにそう言うと、ベッドの脇に腰かけた。
私はまじまじとその少年、くまさんを見た。
髪の色も目の色も、おばあちゃんからもらった、くまのぬいぐるみと同じ色だ。
「あの、どうしてここに…?」
たしか、ぬいぐるみは、私がいらないと言った後、おばあちゃんの元に置いてあったはずだ。
おばあちゃんが亡くなった後どうなったかは、私は知らなかった。
「ここへは、先程あなたのお母さんが連れてきてくれました。千代の死後、君のお母さんがボクを引き取ってくれました。」
くまさんはそう言った。
千代。くまさんはおばあちゃんを名前で呼ぶんだな。
「君は…ゆうは、ボクたちを感じとれるんですね。」
少年はゆっくりと、確かめるように私にそう言った。
私は頷く。
「きっとね、おばあちゃんにひどいことしたから、バチが当たったの。」
私が目を伏せてそう言うと、くまさんはゆっくり首を横にふった。
「それは違いますよ、ゆう。」
私は顔をあげて、くまさんの目を見た。
ただの慰めを言っているのかと思ったが、茶色く大きな目は真剣だった。
なんと答えて良いか分からず、私が戸惑っていると、くまさんは一度目を伏せて、優しい目をした。
「少し昔のお話、聞いてくれますか。」