6.オーガスタからの宿題
ランスがらみのアレンの思い出。の巻
俺の部屋に移動魔法で戻ってきたランスは、改めて今日きた用件を話し始めた。
「もうすぐオーガスタの誕生日だから、食事の約束をとりつけようと思って先週ウェルズ家に行ったんだ」
「家のほうに行ったのか。よくウェルズさんが入れてくれたな」
「俺はオーガスタの相手としては認められてないけど、アイルズバロウ家の跡取りなんだから断られるわけがない。」
傲慢な物言いだけど、確かにアイルズバロウ家の跡取りの訪問を断る家はあんまりないだろう。
これは俺の憶測だけど、ウェルズさんがランスのアタックにいい顔をしないのは、ランスの行状もあるけどオーガスタが店の跡取りだからじゃないかとも考えられる。
ランスはアイルズバロウ家の次期当主で、彼と結婚ということは当主夫人になるということだ。当然、ウェルズ商会の仕事だけに専念するのは難しくなる。
もっとも、ランスが先のことを全く考えていないということはないだろうから、やっぱり単にランスがウェルズさんに好かれてないだけかもしれないが。
「それで、オーガスタには会えたのか」
「いつものように少し話して、食事に誘ったら“ランスは10年前のことを覚えてるか”って聞かれたんだ。」
10年前というと、俺たちが15でオーガスタが14くらいか。ランスとはつるんでいたけど、オーガスタとは行動範囲が違っていたから、顔を合わせれば話す程度だった。
「ランスは、10年前にオーガスタと何かあったのか?」
「覚えてない。でも、オーガスタは“それを思い出してくれたら、食事につきあう”って言うんだ。」
「へえ~、じゃあ思い出さないとデートはなしか」
「そうなんだよ。1週間考えてるんだけど、全然思い出せない。」ランスがため息をついている。
困惑してるランスなんて、今まで見たことがあっただろうか。いやない。この男はいつだって涼しい顔して先輩からの嫌がらせだろうが、同級生からのやっかみだろうが“やられたことには10倍返し”で返り討ちにしてきた。そのランスが、好きな女性からの宿題に頭を抱えている。
俺は「記憶たどりの魔法でもかけたらどうだ」と提案した。
ところが、ランスは首を振った。
「いや、自力で思い出す。ところで10年前ってアレンはどれくらい覚えてる?」
「そうだなあ・・・・」
15歳だと、ちょうど王立大学の初級クラスにいた頃で・・・確かランスに嫌がらせを繰り返した無謀な上級生がいた。
無視をしていたが、あまりのしつこさにうんざりしたランスは、ある夜に寄宿舎の上級生の部屋に忍び込んで、寝てるそいつに変化の魔法をかけてウサギの耳としっぽをつけてしまった。
しかもそれが強力な魔法で、確か上級生は2週間くらいウサギの耳としっぽが生えたままだった。おかげでそいつは「ウサギ男」とあだ名がついて、大学を卒業するまで笑い者だったはず。
「“ウサギ男”のことなら今、思い出した」
「あ~、ウサギ男な。そんなのいたねえ」ランスも思い出したらしい。
「お前が魔法をかけてる間、俺が見張り役だった。ウサギ男、今は何をしてるんだろうか」
「親のコネで王宮に就職したぞ。たまに見かけるが、あっちは俺を見るとおびえて逃げる。」
そりゃそうだろうな。ランスにきっちり仕返しされたうえに笑い者になったままだったんだから。
他には・・・・うーん、俺はランスに巻き込まれていろいろ加担していたから・・・・やらかした騒動しか思い出せない。
「なんか、ランスに頼まれて騒動に加担したことばかり思い出すんだが」
「オーガスタがらみでなんかないのか」
オーガスタがらみ・・・・あ。そういえば、10年前ってウェルズ商会の創業200年記念パーティーに行った覚えがある。
「ランス。10年前、ウェルズ商会の創業200年の記念パーティーに招待されなかったか?」
「パーティー?」
「そうだ。次男の俺が招待されてたんだから、跡取りのお前は当然行ってたと思うけど。それくらいしかオーガスタがらみでの出来事なんてないぞ」
ランスは俺の言葉を聞くと、目を閉じ腕を組んで考え始めた。
俺は、考え込んでるランスをしりめにのんびり読書でもしようと机の上にある読みかけの本に手を伸ばした。
本を読み始めてしばらくたった頃、突然ランスが「あーっ!!」と叫んだ。
「いきなり叫ぶなよ。ランス」
「思い出した!!俺、思い出したよ。アレン!」
「そうか。それで・・・」いったいなんなんだ・・・と言いかけた俺の言葉をランスはさえぎった。
「悪い!アレン、説明はあとだ。じゃあな!」
そういうとランスは移動魔法であっという間に姿を消したのだった。
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来るときも騒がしく、立ち去るときも騒がしいランスです。