アダルバードの婚活-3
彼女の困惑、彼の思惑。の巻
長文になります。
ご了承ください。
<ロアナ視点>
私は、クロスビー家から逃げるように図書館に戻ってきた。
「おかえりー、ロアナ・・・息切らしてどうしたの?」
同僚のロジーナが不思議そうに出迎えてくれた。
「な、なんでもない・・・あんまり抜けてると悪いから、ちょっと走っちゃって」
「んもー、ロアナってば。アンドレア様のご用件なんだから館長も文句言わないのを知ってるでしょうが。律儀なんだからっ」
「そ、そうかなあ~・・・」アンドレア様の用事より、その後が問題だったなんてとても言えない・・・。
私はなんとか平静になろうと深呼吸をくりかえして、気分を落ち着けた。
私がアンドレア様の手伝いをするようになったのは昨年からだ。アンドレア様は、屋敷の図書室に豊富な蔵書があるにも関わらず図書館によく顔を出していたので顔も知っていたし、本のことで話したこともあった。
だけど、ご子息のアダルバード様と言葉を交わすようになったのはアンドレア様の手伝いをするようになってからだ。言葉を交わすって言っても挨拶くらいだったのに。
-ロアナ、俺と結婚を前提としたお付き合いをしない?-
さっき言われたアダルバード様からの言葉がよみがえる。とっさのことに思わず「冗談は性格だけにしてくれ」みたいなことを言ってしまったけど、よくよく考えるとクロスビー家の当主にとんでもないことを言ってしまったわけで。
「ひえ~。どうしよう・・・・」
今度、お屋敷を訪ねることがあったら「冗談は性格だけ」発言は謝罪したほうがいいかもしれない・・・・私は本を整理しながらため息をついた。
<アダルバード視点>
次の日、アイルズバロウ家に顔を出すと折りよくケネスは家にいた。
「どうしたアダル。珍しいな」
「突然悪い。ちょっと相談事があってな。」
そこにケネスの愛妻・カルロッタが顔を出した。
「いらっしゃい。アダルバード」
「やあ、カルロッタ。突然にすまないね」
「いいわよ。それで、相談事ってなに??」
カルロッタは興味津々といった感じで俺たちを見た。どうやら話が聞こえてしまったらしい。
俺は、二人にロアナのことを話した。
「どうしたらいいんだろうか、ケネス」
「そ、そうだなあ・・・」
「・・・・アダルバード・・・」
いつもと違うカルロッタの声に、俺とケネスはカルロッタのほうを見た。
カルロッタは冷ややかな顔をして俺を見据えた。
「・・・・まずいぞ、アダル。カーラは怒ると怖いんだ。どうしてくれる。」
「そんなこと言われても」
「・・・・アダルバード・クロスビー。あなた、ロアナにそんな動機で交際申し込んだの?」
「え。だって、ロアナなら僕が妻にしたい女性のタイプに該当するのに気がついたから」
「あなた、ロアナの気持ち考えたことある?条件に該当するってだけで、ろくに話したこともない10歳も年上の男性に交際申し込まれても困惑するだけでしょうが!!」
「そういうもの、か?」
「これだから、由緒ある家のお坊ちゃんは困る。あのねえ、私たち庶民は人を好きになったら、たくさん話したり接したりして相手の人となりを知るように努力するの。
条件が合うから交際しようなんて、まるで政略結婚ね。あなたは、おとなしく社交界のお嬢様方と政略結婚したほうがいい」
カルロッタは一気にまくしたてると、話の終了を合図するように扇子をぴしゃりと閉じた。
そういえば、カルロッタは以前は花屋の元気な看板娘だった。それをケネスが見初めて渋る彼女を口説き落としたんだった。
結婚して、「由緒ある家」アイルズバロウ家の一員になったけど、彼女は独身の頃と全然変わらない気さくではきはきとした性格のままだ。
「政略結婚はクロスビー家の伝統に反する」
「知らないわよ、そんなの。あなた、恋愛結婚に向いてないんだから例外もあるんじゃないの?」
「じゃあ、どうすればいいんだ。」
「ケネス、親友でしょ。アドバイスしたら」
「えぇ?俺??カーラも考えてくれよ~」
「カルロッタ、頼む」
カルロッタはしばらく考えた後に「アダルバードはロアナのことが好きなの?交際っていうのは普通好きな人に申し込むものよ」と言った。
「え。えーっと、・・・・今まで考えたこともなかったんだけど」
俺の返答に、カルロッタは深くため息をついた。
「とりあえず、ロアナとよく話してみたら。挨拶以外の話をするの。自分の話だけじゃなくて、ロアナにもちゃんと話をしてもらうのよ。
なんで35の男にこんな初歩的なアドバイスしなくちゃいけないのかしら。まったく・・・」
「カーラ。恋愛面に関してはアダルは10代から停止してんだよ」
「ああ、なるほど。それなら納得」
「二人とも、さりげなくひどいことを言っていないか。・・・・カルロッタ。ロアナと話をするんだな?」
そうか。やっぱりいきなりの交際申し込みはよくなかったのか・・・今まで自分で交際申し込んだことないし、いつも突然言い寄られて交際してたから分からなかった・・・。
ロアナと挨拶以外の話をする・・・いつも取り澄ました表情のロアナの笑顔が見られるかもしれない。今度、彼女はいつ屋敷に来るのかな。理由をつけて母上に当分屋敷に滞在してもらおうか・・・・うん、それがいいな。
「ちょっと、ケネス。アダルバードが何か企んでる顔をしてるけど」
「ん?あれは考え事をしているだけだよ」
俺の様子を見て、アイルズバロウ夫妻がこそこそとこんな会話をしていることなど、俺は全然気がついていなかった。
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アダルバード「バカな子」脱却なるでしょうか。