アダルバードの婚活-2
彼女に気づく。の巻
アダルバード視点です。
長文になります。
ご了承ください。
母上に結婚を決意した理由を話したら、扇子ではたかれた。やっぱり扉を存続させたいから、と言ったのはまずかったか。でも、両親のような結婚生活を送りたいというのも本当だ。
仕事場は男ばっかりだし、何人かつきあった女性はいたけど俺が趣味に没頭しがちなのでたいがいは振られて付き合いが終わった。
「・・・どっかに、俺が趣味に没頭してても怒らない女性はいないかねえ~・・・・」
「アダルバード様。なに一人でぶつぶつ言ってるんですか。不気味です」
「なにって・・・うわっ、ロアナ!」そこにいたのは、母の手伝いをしている王立図書館の司書、ロアナ。
「ロアナ、どうしてここに?図書館ではなかったのかい?」
「アンドレア様から資料をこちらに持ってくるように頼まれまして」
そういうと、ロアナはメガネをくいっとあげた。茶色の髪の毛とオリーブグリーンの瞳の持ち主であるロアナ。彼女は王立図書館の司書なんだけど、母上の趣味である“不思議な話の収集”を手伝うように館長から頼まれたそうだ。
年齢は確か、25歳。俺より10歳年下なんだけど、母上いわく「俺よりはるかに分別のある性格」をしているそうだ。
分別のあるロアナは、いつもきちんとしたスーツを着て髪をきっちりまとめた姿で母上のそばで資料をそろえたり、話を記録するのを手伝っている。俺とも面識があるので、こうやって屋敷内で会うと挨拶くらいはする。だけど、ロアナは俺の前で絶対に笑わないんだ。よく見ると、顔立ちがかわいらしい彼女は絶対笑うとかわいいと思うんだけどな。
いつもなら挨拶だけで通り過ぎるんだけど、今日はふと思いついた。ロアナなら独身女性の知り合いが多いんじゃないだろうか。
俺は思わずロアナの腕をつかんでしまった。
「何すんですか!」ロアナが焦る様をみてちょっと楽しくなってしまう俺。
「ロアナ、ちょっと相談があるんだけど」
「私はこれからアンドレア様に資料を届けなくてはいけないのですが」
「じゃあ、届けたあとは?」
「・・・・わかりました。腕を放していただけないでしょうか」ロアナがため息をついた。
「屋敷の庭園で待っているから」俺はそういうと、ひらひらとロアナに手をふって外に向かって歩いていった。
「アダルバード様。それで、相談ごととはなんでしょうか」庭園にきたロアナは不審げに俺を見た。
「ロアナ。少しは俺に笑いかけるとかそういうのはないのかい」
「笑いかける必要があるとは思えませんが」
「・・・・そうくるか」思わず苦笑いしてしまう。
「アダルバード様、私も暇ではないのです。」ロアナが俺のほうをじろりとみた。
「そうか・・・実はね、俺にきみの知り合いの独身女性を紹介してもらえないだろうか」
「はい?」俺の相談内容が予想外だったらしく、ロアナはあっけにとられた顔をした。
そこで、俺は結婚を考えているがなかなか出会いがなくて誰か紹介してもらえないだろうかということをざっと話した。
ロアナは話を聞き終わると「・・・・・そのような話はアンドレア様か、アイルズバロウ様に話すべきだと思います。私ではお役に立てません。失礼します」と一礼して、立ち去ろうとする。
「ちょっと待った。母上には実験ばかりしてる息子に紹介するような女性はいないと言われてね。ケネスに相談しようと思って出かけるところにきみに出くわしたんだよ。」思わず再度、ロアナの腕をつかむ。
「じゃあ、さっさと相談しに行ったほうがよろしいかと・・・腕を放してください。」
「ごめん。ロアナの周囲は独身女性が多いだろ?」
俺が腕を放すと、ロアナはちょっと後ろに後退した。そこまで警戒しなくても・・・ちょっと悲しい。
「そりゃまあ、そうですね。・・・ですが、アダルバード様。」
「なんだい?」
「アダルバード様が奥様に望まれる資質を聞かないと、該当する女性を紹介できません。教えていただいてもよろしいですか」
そういえば、俺はロアナに紹介してほしい女性のタイプとか全然言ってないことに今さら気づいた。
「えーと、俺やクロスビー家に対して媚びない人間がいいな。それと何か打ち込める趣味がある人。俺、研究に没頭しちゃうと周囲を気にしなくなるからさ、ずっと一緒にいてとか言う女性は苦手なの。」
「家柄や容姿も重要なのでは?クロスビー家の奥様になる方なんですから」
「クロスビー家はそんなもの気にする家じゃないよ。家柄や容姿なんて外面だし、そんなので人間の優劣なんて決められるものか。」
「そうでしょうか。」
「そうさ。ロアナは俺の父上の話を聞いたことはないのかい?」
「私は人のプライバシーに土足で入り込むようなことはしません」
「俺の父はね宰相府に勤める普通の役人だったんだけど、植物が好きでね。俺の祖父と世代と身分を超えた植物友達だったらしいんだ。それで、よく祖父のところに来ているときに母に見初められて結婚したらしいよ」
「そうなんですか。なんだかアンドレア様らしいですね。お二人の話をたまに私にもしてくれますが、とても懐かしげな優しい表情をしているんです。仲がよかったのですね」
「そうだね。父上の前では母上は当主の顔をしていなかったよ。俺も、妻になる人の前では素の自分でいたいな」
俺の話を聞いたロアナはちょっと考え込んでいた。俺はその間、ロアナを見てた。いつもまとめている茶色の髪の毛は下ろすとどれくらい長いんだろうとか、スーツ以外の服は持ってるのかなとか。
そういえば・・・ロアナって俺と何度か顔を合わせてるけど媚を売るような態度を見せたことないよな・・・どちらかというと半分バカにされてるような感じ。
それに、彼女と長く話をしたのは初めてだけど、身構える必要がなくて気楽だった。
だいたい俺、自分のこと「俺」って言うときって素だし。さらに言うなら、俺はロアナとの会話が楽しかった。これで笑ってくれたらもっといいのに。
これは・・・もしかして、すぐそばに解決策があるんじゃないか?
なんか、急に合点がいった。なんだ、こんな身近に自分の理想がいたじゃんか。
「ロアナ」俺は、いまだ考え込んでる彼女に声をかけた。
「はい?」ロアナは俺を見た。
「ロアナ、きみだよ。きみ、俺に媚びないし初めてまともな会話をしたけど楽しいし。ロアナ、俺と結婚を前提としたお付き合いをしない?」
俺の言葉を聞いたロアナの顔は、最初ひきつったかと思うと真っ赤になる。普段、取り澄ました表情しか見たことないから、新鮮だ。
「アダルバード様」
「ん?」
「・・・・冗談は性格だけにしていただけないでしょうか。失礼します」
「え」
ロアナは俺に冷たい視線を向けると、きびすを返して立ち去っていった。
えーっと、俺。何か怒らすこと言ったっけ・・・・でも、ロアナは確実に怒っている。
いやー、どうすりゃいいんだ!今度こそケネスに相談だ。
女性って実験より難しい・・・。
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アダルバード・・・バカな子です。