アダルバードの婚活-1
母は密かに安堵する。の巻
長文になります。
ご了承ください。
「奥様!!とうとうアダルバード様が結婚を考え始めました!!」
屋敷に立ち寄った私に、我が家に長年仕えてくれている執事のウィリアムがそりゃあもう嬉しそうに報告してきた。
奥様こと私、アンドレア・クロスビーは息子のアダルバードが成人するとさっさと当主の座と屋敷を息子に譲り、別邸に移住して以前からの趣味である「不思議な話の収集」に時間を費やすことにした。
しかし、これで趣味に没頭できるわ~と思っていた私は甘かった。あのボンクラ息子・・・アダルバードが全然結婚に興味を示さないのだ。
まあ、私も今は亡き夫と運命の出会いをするまでは結婚の「け」の字も歯牙にかけてなかったので人のことは言えないんだけど・・・・。
もしかして、息子は女性に興味がないのではとちょっと心配していたのだ。(まあ、それならそれで魔力の高い子を養子に迎えればいいか・・・と考えていたのは秘密である)
「ウィル、どうして急にアダルは結婚する気になったの?」
そういうと、ウィリアムはいささか躊躇しつつも私に話し始めた。
「アダルバード様がここ最近、錬金術にはまっているのは奥様もご存知ですよね」
「ええ。アダルのせいで“実験室”の壁と備品が何度か破損してるわよね。まあ、本人のお金で弁償させてるからいいけど」
「今回も・・・壁と備品を破損しまして」
「まあっ!また??」私の顔がちょっとひきつるのを見たウィリアムはちょっと顔を青くした。
「そ、それでですね。今回は破損だけではなかったようなのです。アダルバード様がいうには、なんでも異世界へつながったとか・・・・」
「はああ??異世界ですって?・・・ウィル。あの子、錬金術に凝りすぎて怪しい薬でも飲んだのかしら」
「いえいえ。それはまったくございません。その話以外はいつものアダルバード様です。
奥様もお分かりのとおり、アダルバード様は騒動を起こすのは好きですが、うそをつくのはお好きではありません。ですので、本当に異世界とやらにつながったのではないでしょうか。」
息子は確かに正直者だ。雲を作ったときも「母上。雲をつくって上空を飛んでたらえらい騒ぎになりまして。はっはっは」と事後報告。
望遠鏡つくって王宮スパイ騒動のときも「いやー、星が見たかったのですが、王宮をのぞいてしまいましたよ」とこれも事後報告だった・・・。そして、今回も事後報告・・・。
「その異世界とアダルが結婚を決意したのは何か関係があるの?」
「さあ。」とウィリアムも首をかしげている。
そこに、「ウィル。あとは私が自分の口で言うよ」とアダルバードが部屋に入ってきた。ウィルは息子と入れ違いに部屋を出ていった。
「あら、アダル。」
「お久しぶりですね、母上。ウィルから報告があったとおり、錬金術で異世界につながりまして。」
そう言うと息子は椅子にさっさと座って自分でお茶をいれている。
「・・・・結婚を決意したと聞いたけど?」
「ええ。今までご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」そう言ってにっこり笑う息子。
「異世界と結婚に何か関係でもあるのかしら」私が聞くと、息子はわが意を得たりといった感じで話し出した。
「母上。私は異世界にこれまで何度か仕事の合間をぬって行きましたが、あそこは実に興味深い。こちらとはまったく違う服装の人と同じような服装に人が混在して生活しているのです。
人々も用心深い性格ですが、一度仲良くなるととても親切で実にすがすがしい。私は一人の男と仲良くなりましてね、あちらに家を建ててつながった部分を扉として残したいと考えたのですよ。
ですが、私が死んだ後に扉が使われないのもつまらないじゃないですか。そこで、子孫を残そうと思いつきましてね。」
私は息子の話を聞いて目まいがしそうだ・・・このバカ息子・・・・扉のために結婚しようってのかい!!
「アダル・・・あなたまさか、扉の存続のために結婚して子供つくろうと思ってるんじゃないわよね?」
「へ?・・・・まあ、それもありますけど・・・いてっ!何するんですか母上!!」
私は思わず息子の頭を持っていた扇子ではたいてしまった。
「何するんですか、じゃない!!アダル・・・そんな理由で結婚なんて冗談ではありません!お相手の女性に失礼でしょうが!!」
すると息子は心外だという顔をした。
「いくら私だって、そんな人でなしな理由で結婚を決意したりしませんよ」
「いいえ。あなたならありえます」
「私はどれだけ信用ないんですか・・・。母上、私だってクロスビー家の当主です。自分が独身だと家が途絶えるのも分かってますよ。
実をいうと、むこうで知り合った男が許婚と仲良く将来の話などをしているのを見てうらやましくなったんです。
子供はともかく、父上と母上のような平等な関係で何でも言い合える相手がほしいと思ったんですよ」
「あ、あら・・・そうなの。まともな理由で安心したわ。はたいちゃって、ごめんなさいね」
「いいですよ。父上もよく“母上はそそっかしいからな”って言ってたじゃないですか」
「嫌なことをいうわね。それで、お見合いでもしようってことかしら。」
「そうですねえ・・・・私も実験と仕事で忙しいので・・・母上、誰か知り合いにいませんか。話を聞きに王国中まわってるじゃないですか。」
私は、実は前からアダルに絶対にお似合いだと思っている女性に心当たりはある。
でも、あの子が息子を気に入るとは限らないしねえ・・・。
「実験ばかりの息子に紹介するような女性はいませんよ。自分でなんとかしなさい」
「・・・・うーん・・・・だめですか・・・じゃあ、ケネスに相談してみようかな」息子は友人の名前を出すと、席をたって部屋を出て行った。
ケネス・アイルズバロウは息子の幼い頃からの親友で、これから連絡を取るつもりなんだろう。
最初の”偶然”の出会いだけでも画策してあげようかしら、とちらっと思ったけど、今年35歳の息子にそこまでするのもなんかヘンだし・・・ここは自力で出会いをつかみとってほしいものだ。
ま、息子に対して密かに持ってた疑惑が解消されたからよかったよかった。ああ、お茶が美味しいわ。
読了ありがとうございました。
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「魔道士~」に話だけ出ていたアンドレア視点で見た、息子アダルバードです。