2.めげない親友
タイミングの悪いランス。の巻
今日から家庭教師をすることになった甥っ子のデルレイは、見事なくらい外見が兄にそっくりで、眼の色だけが義姉ゆずりのコバルトブルーだ。二人が並んで座っていると未来と過去が同居しているみたいで、結構面白い。
性格のほうはちょっと人見知りのところはあるが、活発な子だと思う。これからいろいろな局面にぶつかって、どう成長していくのか興味がある。
昼寝中のデルレイが起きてくるまで部屋でのんびりしていると、ランスが顔を見せた。
「アレン、クロスビー様から聞いたぞ~、デルレイの先生やるんだって?」
「・・・相変わらず早耳だな。ランス、お前王宮で仕事のはずじゃないのか」
「ん?今は自主休憩中だ。デルレイはいないのか?」
「昼寝中だ」自主休憩って・・・お前、そりゃサボリというんだ。
「そうか。寝る子は育つって言うからな。」そういうと、ランスは手近にあった椅子に座った。
兄は職場ではランスの上司だ。そのためランスは兄を「クロスビー様」と呼んでいる。
俺の幼なじみで親友のランス・アイルズバロウは昔から家同士の交流があるため小さい頃から仲がいい。ランスは切れ者で腹黒いところもあるが友情に篤い男で、魔力も代々治療術士の家柄であるアイルズバロウ家次期当主だけあって相当なものだ。
しかし、当時学校で起こる騒動の9割の黒幕はランスだ、と言われていて、その全てに俺も絡んでいると思われていた。まあ、それはあながち間違っていないから否定はしない。
家柄から、将来は王宮付の治療術士になると思われていたランスだったが、彼は魔道士となって俺以外の周囲の人間を驚かせた。
見た目も悪くないランスは家名と本人の優秀さもあって非常に女性に人気があって、本人もそれを認識して華やかかつ適当に遊んでいた。
そんな男が1年前、本気の恋に落ちた。相手は俺やランスの幼なじみ、オーガスタ・ウェルズ。王都でも老舗かつ有数の服飾店であるウェルズ商会の長女で、看板娘のオーガスタは快活なしっかり者だ。顔かたちも、美人の類だと思う。ただし、俺は一度も異性として見たことはない。
オーガスタのほうも俺のことを異性として意識したことはないはずだ。それはランスに対しても同様だと思われる。
自分の恋心を自覚したランスは今までアプローチを重ねてきたが、オーガスタは本気にしていない。ついでに言うと父親のウェルズさんはランスが姿をみせるたびに眉間にシワをよせている。
つまり、ランスの恋は前途多難・見込み薄というやつだ。相手にされなくても諦めないランスもすごいけど。
ランスが来たので、ついでに現在のオーガスタとの進行状況を聞いてみる。
「兄がランスはまだオーガスタからいい返事がもらえないのか、って言ってたぞ。」
「クロスビー家でも話題になってるのかよ~。俺は妻にするならオーガスタしかいないと決めてるのに、全然本気にしてくれないんだ」
「今まで女性扱いをしなかったくせに、そういうことを言われてもオーガスタが信じると思うか?それに俺がウェルズさんの立場だったらお前の過去の行状からみて娘の相手には躊躇するね」
「アレン~、親友だろ?もう少し励ましてくれてもいいだろうが。」
「・・・・わかったよ。今度オーガスタが家に来ることがあったら、それなりにフォローしておいてやる」
「ありがとう!!やっぱりお前は親友だよ!!」
まあ、幼なじみを一人の女性として意識してアタックし始めるのはよくある話。ランスの場合は、遊び人という評判が定着したあとだけにタイミングが悪かっただけだ。それにランスは昔から本気で望んだものは必ず手に入れてきた。
時計が昼2の時を告げる頃、ドアがノックされると同時に部屋のドアからデルレイの相棒のクマが顔をだした。どうやらデルレイが起きたようである。
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私の作品を読んでいただいている方にはおなじみの(そりゃそうだ)、あの方の若い頃です。
性格は昔から変わらないようです。