14.アレンの虫対策
理子、飲み会に行く。の巻
「小池、本社へようこそ~!乾杯!」
工藤くんの音頭で歓迎会が始まった。
それにしても、今日の席の配列を考えたのは誰だ。どうして私の隣が主賓の小池くんなんだろう。会社でも隣同士なのに、なんで飲み会でも隣にいなきゃいけないんだ。
麻子も隣にいるけど、私たちで話そうとするとなぜか両隣の男がじゃまをする。「俺とも話そうよ~、小野塚さん」とすっかり出来上がったようなしゃべりかたの小池くん。
そういえば、さっきやたらとお酌されてたな。自分の限界くらい知っておいたほうがいいと思うぞ、小池。
「小池くん、もう酔っ払ったの?ウーロン茶に切り替えたら?」
「小野塚さんは、もうウーロン茶にしたの。もしかして弱い?」
「・・・・」私が「ザル」だと知っているのは、会社では麻子と課長の奥さんだけだ。飲めるとなると、いろいろ注がれて面倒くさいので会社の飲み会ではあんまり飲まない。
こういう気を遣う場所でお酒を飲むのは苦手だ。おじいちゃんから「外でどうでもいい人間に隙をみせるような酒の飲み方をするな」と懇々と諭されたし。
「小野塚さん?」
「あ、ごめん。そうねあんまり好きじゃないの」お酒は好きだけど、こういう場所では飲みません。
「あのさあ、小野塚さん」小池くんはさらに飲んだらしく、顔が真っ赤になっている。どうやら顔に出るタイプのようだ。
「はい?」
「おれさー、小野塚さんに忘れられてたのショックだったよ」
「あー、ごめんね?」
「そこで疑問形なのはなんで?」
「いやー、なんとなく」
「は~~。俺のこと、今度は覚えてくれる?」
「隣の席だもん。これで忘れたらいろいろ問題だよ」私はウーロン茶をおかわりする。
「そうじゃなくてさ~」
「あ、同じ部署だしね。一度同じ部署になった人は異動になっても覚えてるよ。」
「いや、そうじゃなくて・・・」と小池くんが言いつつ私の肩にさわろうとした、そのときだった。
パチッと音がして、小池くんが「いててて・・・」と手を振っている。
「どうしたの?」
「いや・・・静電気かな。なんかパチッてして手がしびれた」
「ふーん。乾燥してるのかしらね」
その後、小池くんは私の肩にさわることなく別のテーブルに呼ばれて席を離れた。
隣にいた麻子が「理子、小池に捕まってたけど大丈夫だった?」と心配そうに話しかける。
「私は大丈夫だよ。小池くん、そんなに私が忘れてたのがショックだったのか。悪いことしちゃったよ」
「・・・・んー、まあそうねえ。でも、気にすることないって」
「それもそうね」私はあっさりとうなずくと、こっちのテーブルに来た工藤くんや他の本社勤務の同期と楽しくおしゃべりをして残りの時間を過ごしたのだった。
歓迎会が終わり、二次会に行く人とそのまま帰る人に分かれる。もちろん私と麻子は「そのまま帰る」グループだ。主役の小池くんや言いだしっぺの工藤くんは二次会グループ。
麻子や帰るグループの人たちと一緒に駅まで向かおうとしたときに、「小野塚さん!」と私は声をかけられた。
振り向くと、小池くんがいる。ちょっと離れたところで二次会グループが立っているところをみると、どうやら待ってもらっているらしい。帰るグループの人たちは渋る麻子を連れて歩いていってしまった。残っているのは、私と小池くんだけだ。
「小野塚さん、帰るの?」
「うん。」
「二次会に行かない?」
「ごめんね。私、いつも二次会には行かないの」
「小野塚。二次会くらいいいだろう?」そう言って、小池くんが私の腕をつかんだときにこんどはバチバチバチッと先ほどより大きな音がした。
「いてっ!!」思わず小池くんが顔をゆがめたとき、私の横から「リコ」といつも私を甘やかす声がした。
「アレンさん!どうして?」
「迎えに来た。リコ、帰ろうか」アレンさんに優しく言われて、私はうなずく。
私たちの様子を半ば呆然と見ていた小池くんは我にかえったようで「小野塚、この人は?」とアレンさんを見た。
小池くんを待ってる工藤くんたちもアレンさんを興味深げに見てる。あーあ、もう隠しておけないや。来週は、質問責めを覚悟しなくちゃ。
「小池くん、この人は私の恋人なの。アレンさん、この人は同期の小池くんだよ」
「ああ。彼がコイケか」そういうと、アレンさんは小池くんを冷たい目でみた。
「ご、ごめん。小野塚。俺、恋人がいるなんて知らなくて!!じゃ、じゃあ。また会社で!!」
そういうと小池くんは、そそくさと工藤くんたちのほうへ走っていってしまった。
アレンさんと並んで夜の道を歩く。
「ねえ、アレンさん。虫ってもしかして小池くん?」
「ん?虫は虫だよ。そのネックレス、効果があったでしょ?」
私ごときにやきもきしなくていいのになあ・・・・とはいえ、アレンさんの心配性なところがなぜかうれしかった私だった。
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理子に下心のある人間(もっぱら男性ですね)が理子にふれると電流が流れるっていう魔法をアレンはかけたんです。