12. お守りネックレス
理子の同期。の巻
「リコ。これをあげるよ」アレンさんが見せたのは、空色の石を埋め込んだシンプルなネックレスだ。
「えっ。誕生日でもないのにプレゼントされる理由がないよ」私があわてて断る。
「いいから。これは俺からのお守りだと思って。リコが仕事をしている間って俺はそばにいられないから心配なんだよ」
「心配?どうして」心配されるような要素あるかなあ、私。
「リコは無自覚なんだなあ。さあ、後ろを向いて」
「えっ。いいよ、自分でつけるよ」
「何言ってるんだ。こういうのは恋人がつけてあげるものだと決まってるだろ?」
そういうと、アレンさんは私にネックレスをつけてくれた。
「・・・ありがと」ううう。アレンさんにうなじを見られるっていまだに慣れない。
「お風呂のときもつけてて大丈夫なやつだからね。絶対身に着けておいて。俺がいつも確認してあげようか」
「!!お風呂は一緒に入らないって約束したでしょう!!」
「・・・・やっぱりダメか。」アレンさんがちょっとしょんぼりしてるけど、私は無視をした。
更衣室で着替えていると、麻子がロッカールームに入ってきた。
「理子。そのネックレスきれいじゃない。」麻子は目ざとい。
「あ、これ?」
「・・・アレンさんにもらったの?」麻子は周囲に聞こえないようにささやく。
「う、うん。お守りだからいつも身に着けてって。」私に彼氏がいるのは会社では麻子しか知らないため、自然と二人で顔を合わせて小声になる。
「へ~。愛されてるじゃない。」
「麻子だって、同じじゃない。その指輪」私が言うと、麻子が珍しく顔を赤くした。麻子の左手薬指には指輪が光っている。
「そういえば、営業部に新しい人来るって聞いたわよ」
「うん。大阪支社の小池直己さんって人だよ。」
「大阪支社の小池直己って・・・・。理子、小池を覚えてないの?私らの同期だよ。」
「へー、そうなんだ。私たちの同期って人が多いじゃない。一緒に研修したりとかしてないと覚えないよ」
「・・・・理子。」なぜか、麻子はため息をついてなんともいえない顔をした。
「なによ~、朝からため息つかないでよ。」
「アレンさん、あんたにお守り持たせて正解だわ」
「へ?なんでよ」
「なんでもない。さ、そろそろ行こ」確かに、行かないといけない時間だ。
私が所属している営業部は男性ばっかりの部署で女性は私一人だ。私の前にいて仕事を教えてくれた先輩が「営業部の見た目にだまされて、希望者は後を立たないんだけど仕事がハードで途中離脱する子ばっかりなのよ~。その点小野塚ちゃんは根性はあるし仕事の覚えも早い。何より営業部の見た目にだまされてないのがいいわ」と私ごときがほめられてしまうくらい女性が続かない部署だ。
その先輩は営業部の男性と結婚されて、現在は総務に異動した。今でも時間が合えば一緒にご飯を食べたりしている。ちなみに結婚相手は営業課長だ。
「おはようございます」私は周囲の人や課長に挨拶をして自分の席についた。私の机の上にはいつのまにか大量の書類が乗っかっていて、私はそれをさっと見て今日のスケジュールをたてる。
朝礼が始まる時間になると、部長が一人の男の人を伴って現れた。背が高くてがっちりした体つき、きりっとしてるけど愛嬌のある顔をしている。麻子に覚えてないのかって言われたけど、こんな人、同期にいたっけ。
「大阪から異動してきた小池君だ。小池君、あいさつを」部長に言われて、小池君が前に進み出た。
「小池直己です。出身地はこちらのほうだったのですが、ずっと大阪支社に勤務していました。何かと迷惑をかけることもあると思いますが、よろしくお願いします」
その後は、通常の朝の打ち合わせに移り、私は誰もいない間に進められる仕事を始める。営業の人に提出してもらう書類を確認したり、電話などもかかってくるので結構朝は忙しいのだ。
パソコンのスイッチを入れて、仕事を始めていると「小野塚さん」私の席に課長が小池君と来た。
「小野塚さん、小池君とは同期なんだって?」課長から聞かれた。
「開発の望月さんにそう言われましたのですが、すみません覚えてないです」
課長は「まあ人数多いとそうかもな。あ、小池君の席は小野塚さんの隣だからね」と笑って私の席から離れた。席に座った小池君のほうは、なぜかがっかりした顔をしている。
「すいません、小池さん。」
「いえ。人数多いし、研修で同じグループになったことないですし。仕方ないですよ」
小池君は、苦笑いをした。
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新キャラが登場です。
顔を覚えられていない気の毒な男、小池直己です。