9.アレンさんの話-1
理子、姿勢を正す。の巻
「ま、魔法?」
「そう魔法。」
私は思わずまじまじとアレンさんを見てしまった。もしかして、見た目は普通だが酔っているのだろうか。
「僕はビールはコップ1杯しか飲んでいないよ。あとはずっとウーロン茶」
「えーっと・・・・急にそういわれても。なんと答えたらいいのか」
魔法・・・あればいいなと思うけど、信じるかというとどうだろうか。困った、どう答えればいいの。
私をじっと見ていたアレンさんが、私の腕をひっぱる。
「うぇ?」
「・・・せめて“きゃっ”とか言ってほしかったな」
私は、アレンさんの腕の中にいた。
「リコ。さっきの件については明日話してあげるよ。だから、明日3時のお茶にでも家においで。さあ、家の中に入ったほうがいいよ。リコが家に入るまでここで見てるからね。」
耳元でアレンさんにささやかれて解放された私は、ぎくしゃくしながら家の中に入ったのだった。
父と兄が「理子~、帰ったのか?」と声をかけてきたのを適当に流し、私は自分の部屋に入ると急に力がぬけて座り込んでしまった。
家族じゃない男の人に抱きしめられるとか別に初めてじゃないんだけど・・・・どきどきさかげんが先輩のときより大きい。
「ひぇ~、なんなの。なんなのっ!あの人、なんなの??」
階下からは「理子~。お風呂入っちゃえよ~」という兄の声が聞こえてきた。
次の日、アレンさんに言われたとおり3時に隣の洋館に行く。
「来たね、リコ。さあどうぞ」いつもどおりのアレンさんだったので、私は自分だけがどきどきしてるのも悔しくて平静を装った。
「まずはお茶をどうぞ」そう言ってアレンさんが出してきたのは薄緑色のお茶だった。
「今日はハーブティにしてみたんだ。リコは平気?」
「すごくスッとする香りだね。ペパーミント?」一口飲むと、ミントの香りが広がる。
「おいしい!」
「よかった」思わず私が言った一言でアレンさんがうれしそうに笑う。
それを見た私は、なんだか急に恥ずかしくなって下を向いてしまった。・・・・私は初恋まっさかりの中学生かっ。
「リコ。いろいろ聞きたいことがありそうだね」
アレンさんが本題に入ったので、私も顔を上げた。
「あるわ。グレアムさんやアレンさんって本当はどんな仕事をしているの?この間アレンさんの仕事を貿易関係って言ったら、父も兄もすごく微妙な顔してた。そのあと二人で変な会話してたし。それに、杉山先輩になにをしたの?」
私は思わずたたみかけるように聞いてしまう。
「どこから話したらいいのかな。たぶん、最初から話したほうがいいと思う。あのね、僕はこの世界の人間じゃないんだ。」アレンさんは、信じられないことをあっさりと告げた。
「へ?この世界の人じゃないって??」私はあっけにとられてしまった。
「僕はね、異世界にあるブレドン王国からこの家にある“扉”を管理するために来ているんだ。」
「ブ、ブレドン王国??・・・そんな国名、あったっけ?」帰ったら地図帳を引っ張り出すか。
「この世界にはないよ。ただ僕が生まれた世界ではブレドン王国は世界の中心的役割を担っている国なんだ」私の思考を読んだようなアレンさんの答え。
私はアレンさんが冗談を言っているのではないかと思って、アレンさんをみた。でも、アレンさんはいたって真剣で冗談を言ってる口調ではない。
「あ、あの。本当に、異世界の人、なの?」
「そうだよ。そして、ブレドン王国のある世界とここの世界で決定的に違うのはこれ」そういうと、アレンさんはふいに手の平を私の目の前にだした。
思わず手をじっと見ていると、その手から光の玉を出した。アレンさんのてを離れた光の玉は七色に光を放ってふわふわと空中をさまよっている。
「え・・・え~~~~っ?!」
私が口をぱくぱくさせてると、アレンさんは「大丈夫。害はないし、すぐに消えるよ」とちょっと笑う。
「アレンさん。今のなに??」
「僕の生まれた世界は、科学の代わりに魔法が発達してるんだ」
私の目の前でふわふわと浮かぶ七色に光る玉は優しい光で、なんだか癒されてしまう。思わず見とれてしまった。
「これはほんのお遊び。僕の甥は3歳で魔法を習い始めたけど、魔力を持つ子供が最初に覚えるのが、光の玉を出すのと風を起こす魔法。見ててね」
そういうとアレンさんがまた私に手のひらを見せた。すると、エアコンもつけていないし、窓も閉まっているのに周囲に風が起こる。
「うわあ・・・アレンさんって、ほんとに魔法使い?」
「正確にいうなら、魔道士。王国の大学で魔道士としての勉強を修めたからね。説明に戻ってもいいかな」
「ハイ。お願いします」
私は姿勢を正した。
読了ありがとうございました。
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一話で収まりきらず、2話に分けることにしました。