7.いらん遭遇、救いの手
理子のプチ修羅場。の巻
麻子から教えてもらった話には困惑したけど、だからといってこっちから「人のこといろいろ聞かないでくれ」って言うのもなんか変なので、私は考えないようにした。
そうじゃなくても、なぜか午後は仕事が集中して気がついたら定時ということになっていた。
今日は金曜日だ。明日は休み、アレンさんは帰ってくるかなあ・・・・・。
会社を出て駅に向かう途中に「理子」と声をかけられた。
この声・・・呼び捨てにするなと言ったはずなのに。覚えてないのかこいつは。
私が振り向くと、そこには元彼・杉山先輩がいた。
「杉山先輩じゃないですか。このあたりに用事でもあるんですか?」
先輩の会社は確か2駅先だ。
「出張帰りで直帰なんだ。理子も仕事帰りだろ?」
「そうなんですか。私も仕事を終えて帰るところです。失礼します」私はお辞儀をして彼に背を向けた。
「ほんとに、別れ際に言ったとおり他人扱いなんだな」先輩が後ろでぼやく。
当たり前だ。ばかもの。
「ちょっと待ってよ、理子。俺とお茶でも飲んでいかないか?」
後ろから腕をつかまれて私は立ち止まる。げげ~、こんな人通りの多い駅前で何するんだ。
私はしぶしぶ先輩のほうを向いて「腕を放していただけないでしょうか」と伝えた。
こっちが振り向いたのがよかったのか、あっさりと先輩は腕を放す。
「お茶は飲みません。それでは失礼します」私は再度先輩にお辞儀をして立ち去ろうとした。
ところが、先輩は私と歩調を同じにして並んできた。
「あら、先輩はこちらの路線を使用していたんですか」
「違うよ。俺は反対方向」
「じゃあ、どうしてでしょう」
「理子、俺たちやり直せないか。あれからあの子と付き合ったけど・・・なんか違うんだ。いつの間にかケンカばかりになって結局別れた。」
「それは残念でしたね。でも私には何の関係もありませんから。あ、それとやり直す気はありません」
「どうして。あれから誰とも付き合ってないんだろ?」
それは先輩と別れたのがショックだったからじゃない。恋愛が常に必要な人もいるだろうが、私はそんなに恋愛至上主義じゃないのだ。
「それは・・・」と私が言いかけたときに、目の前から「それは、今は僕と付き合ってるからだよね。リコ」と3週間ぶりに聞く声がした。
私の前にはアレンさんがにっこり笑って立っていた。
「アレンさん!どうしたの??」
「出張が思いのほか伸びちゃって、リコに悪かったなあと思って。今日はイツキに美味しいお店を教えてもらったから夕食に誘おうと思って会社の前で待ってようと思ってたんだ」
私は、ここで会ったことに感謝した。困っている場所で会ったことも感謝したいけど、会社の前で待たれた日には、来週私は大変な質問責めにあってしまうところだった。
「お兄ちゃんにお店を教えてもらったの?それって、居酒屋でしょう」
「当たり。リコがこの店の豆腐ピザと鶏肉のテリヤキを激愛してるからってさ。予約もしてくれたんだ。今からどうかな」
この救いの手に乗らないわけがないだろう。私は「行く!!」と即答した。
「ちょっと待て!理子。俺と話をするのが先じゃないのか?」
「杉山先輩。私、さっきも言いましたけど先輩とよりを戻す気ないですから。他をあたってください」
「はあ?そいつ、誰だよ」
私が「この人は・・・」と言いかけたところで、アレンさんが私を止めた。そして先輩に対して冷たい目を向けたかと思うと「君に名乗るほどの者じゃない。未練がましい男は嫌われるよ?」そういうと、先輩の目をじっと見る。
「な・・・」と先輩が言いかけたとき、不思議なことがおこった。急に口が利けなくなったらしく何か言いかけても口が開かないようだ。そして、本人の意思とは無関係に体が動いてしまうらしく、反対方向へ歩いていく。
「そのまま、まっすぐ自宅へ帰るといい。」アレンさんの声に先輩の体は遠ざかっていった。
「アレンさんっ。今の・・・」何?といいかけた私をアレンさんは再びとめた。
「食事をしてから、ゆっくり話すから。俺もおなかぺこぺこなんだ。先に食べてしまわない?」
「う、うん。わかった」
いつのまにかアレンさんの一人称が「僕」から「俺」になっていた。
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すこしだけアレンさんの魔力の片鱗が。