5.アレンさんのなぞ
断れない理子。の巻
グレアムさんが故郷に帰って、隣の洋館ではアレンさんが一人で暮らすようになった。
私は父に「理子、時々アレンの様子を見に行ってくれないか。グレアムが言うには、アレンさんは仕事に没頭すると食事をしなくなるそうなんだ。」と頼まれて、時折様子を見に行くことになってしまった。
私だって一応女なんだけどさー、どうも父は娘が男性の一人暮らしの家に行くってことの認識が甘くないか?許婚だからいいってことか?
今日は夕食時に来なかったアレンさんのために、夕食を届けることにした。
アレンさんの住んでいる家は、アレンさんの祖父アダルバードさんが建てたものでアイボリー色の外壁に淡い緑色の屋根という外見のとっても可愛い家だ。後に赤毛のアンを読んだ私はグリーン・ゲイブルズとグレアムさんの家が似ていることに気がついて、グレアムさんの家に行くたびに私の気分はアン・シャーリーだったのだ。
なんにしろ、この家は人が一人しか暮らしていないのがもったいないくらい大きい家だというのは間違いない。
私が、仮にアレンさんと結婚したら・・・この家の住人になるのかあ・・・・・って、先走りすぎだし!!
私は自分の妄想を頭から追い出してアレンさんの家のインターホンを押した。
「・・・・ふぁい」どうやらアレンさんは寝ていたらしく声がぼそぼそとしていた。
「アレンさん。理子です。父に言われて夕食を持ってきたんだけど・・・・」
「・・・・え?えええっ!ごめん!ちょ、ちょっとそこで待ってて!」
しばらくして出てきたアレンさんは髪の毛にはちょっと寝癖がつき、眠そうな顔をしていた。
「ごめんなさい、寝てたんだね。父から夕食を持っていくように頼まれたんだけど・・・・これ」
私がお弁当箱を渡そうとすると、アレンさんがなぜか不服そうな顔をした。
「どうしたの?アレンさん・・・・あ、もしかして食事を済ませた後だった?」
「いや・・・・昨日の昼にイツキが差し入れてくれたパンを食べたのが最後で・・・・リコ、お礼にお茶を入れるから家にどうぞ」
「え?いやいやお弁当届けに来ただけだから」
「リコ。僕は親しい人と話しながら食事をするのが好きなんだ。付き合ってくれないかな」
「え。アレンさん?」アレンさんは私の腕を強引につかんで家に向かう。
通されたのはダイニングキッチンでテーブルに向かい合って座る。
アレンさんは私にお茶を入れた後に、夕食をテーブルに広げた。
「アレンさん。貿易の仕事が相当忙しいんだね」
「え。・・・あ、ああ。まあね。伯父上はリコに貿易の仕事って言ってたんだね。」
「前にグレアムさんに聞いたら貿易の仕事って言ってたよ。え、違うの?」
「・・・・・・いや、確かにそうだよ。最近忙しくてね~。そうだ、今度一週間くらい出かけるから留守を頼んでいいかな」
何かをごまかすようなアレンさんの口調に、いささか引っかかりを覚えるものの、人にはいろいろ事情があるのだ。私は「わかった。父にも伝えておくね」というにとどめた。
アレンさんはなぜかホッとしたらしく、今度はいつもの口調にもどって私にお茶のおかわりをすすめてきた。
「そうだ。出張から帰ってきたら、リコに頼みたいことがあるんだ」
「なに?」
「僕も、このあたりに住むからには周囲のことを知っておきたいんだ。リコの都合がいい日に案内してくれないかな。」
「お兄ちゃんのほうがいいんじゃない?同じ歳だし」
「・・・・リコは鈍いのかな。」
「は?なんですって?」知り合って日の浅いアレンさんに鈍いと言われるすじあいはないっ。
「僕たち、許婚同士じゃないか。もう少し親交を深めたっていいと思うんだけどな」
ね?とアレンさんに微笑まれて、そこで気がついた。
もしかして、デートに誘われてるのかな。
そして、アレンさんに言われるとなぜか断れない・・・・。まるで、魔法をかけられたみたいに。
読了ありがとうございました。
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前回、グレアムさんがいないときには家に行かない、と言っていたのに
強引に連れこまれてしまった理子でした。