1.ある日の小野塚家
家族会議。の巻
うちの隣にある洋館にひとりで住んでいるグレアムさんは、父・哲男の友達だ。父が言うには互いの父親の代からの付き合いらしい。
だから、食事のときにはグレアムさんを呼びにいったり、互いの家を行き来するのは私・理子と兄の樹にとっては当たり前のことだ。
今、グレアムさんは故郷に帰っているので夕食は私、父、兄の3人だけだ。
「理子、明日の夕食から食事の席に一人メンバーが増えることになったから」
夕食を終え、お茶をいれたときに父がさらっと付け加える。
「へ~。誰が加わるの?」
「グレアムの仕事を引き継ぐために、彼の甥っ子が来ることになった。」
「そうなんだ~。どんな人なんだろうね。」
そんな私の様子を見て、父と兄はなぜか顔を見合わせて目配せをしている。
「なによ二人とも。何か言いたいことがあるならさっさと言ってくれる?」
「樹。お前のほうが説明は上手だよな」
「父さん以外の誰が理子に言うんだよ。」
「じいさんが生きてたらなあ~。」ため息をつく父と、うなずく兄。
「・・・・二人とも。なんなの?」
「理子」父が私を見る。
「なに?」
「・・・・その甥っ子は、お前の許婚だ」
「・・・・・・・はい?」
「じいさんたちの代にな“お互いの子孫で同年代の男女が生まれたら結婚させようぜ~”って取り決めをしたらしいんだな。」
「・・・・・・」
「理子、どうした?」
「許婚ってなに。しかも何そのノリの軽さ。しかも、二人が知っていて私だけが知らないってどういうことよ!!」お茶を飲み終わっていてよかった。飲んでたら間違いなく吹いていた。
「お前、彼氏がいただろ?あの浮気男。だから言えなかったんだよ」父があわてて付け加える。
「・・・・・それは、そうだけど。」
「理子、あのグレアムさんの甥だ。顔は間違いなくいいぞ。小さい頃にお前が好きだった童話の王子様みたいかもしれないし。」兄が父を援護。
確かにグレアムさんは男前だ。その甥ということは・・・美形の要素は高そうだ。
「に、人間は顔じゃないわよっ。私は自分の知らないところで勝手に許婚がいたことが嫌なの!!」私は自分のよこしまな考えを頭のすみに追いやって兄に反論する。
「おまえは可愛がってくれたじいさんの約束を、相手をみないうちに解消するのか?」父が祖父のことを持ち出す。
「おじいちゃんを出すのは卑怯だよ!」といいつつ、私は祖父を思い出す。
祖父・孝之助は亡くなるまでピシッとしていておしゃれで話のわかるお茶目な人だった。好奇心旺盛で、おじいちゃんならいきなり現れたグレアムさんの父親に臆することなく近寄っただろうなと想像もついた。グレアムさんが話す外国の話をそりゃあ楽しみにしていて、帰ってくるのを待ちわびていたっけ。
「とにかくだ。相手がまだどんなヤツかわからないし、グレアム同様うちでご飯を食べるんだから、人柄もおいおいと分かってくるだろう。嫌なやつなら口約束の許婚なんて解消すればいい。」
「・・・・ほんとに、解消していいの?」父に言われて、ちょっと考える。
「ああ。じいさんだって生きてれば、いくら友人の孫だからって嫌なやつに可愛い孫娘を押し付けるようなことはしないはずだ」私の様子を見て揺らいだのが分かったのか、さらに断固とした口調で付け加える父。
「・・・・わかったわよ。その人を見てから考えるわ」
私の一言であからさまにホッとした父だった。
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第二部スタートです。