第8話「安心」
深夜、私は錐音の過去を聞いた。
葵さんのこと、元は死神だったこと、そして、手紙の真実のこと。
過去を話終わった錐音は、とても、切なそうな表情をしている。
恐らく、葵さんのことを思い出したのであろう。
「……そんなことがあったんだ…」
何て言えばいいか言葉が出てこない。
無理に明るくしたり同情するのもよくないと思った。
「……ええ…でも、もう過去のことよ。陽菜が気にすることはないわ」
「そうだけど……。錐音は葵さんのことがあって、今、いろんな人を助けてるんだよね」
そうじゃないと、今、錐音が他人を助けている理由がない。
「そうよ、あの時、葵を助けられたらどんなに良かったか。今思い出してみても、後悔してばかりだわ」
やっぱり。
錐音のことがよく分かった。
葵さんのことが忘れられず、過去のようにならないように今苦しんでる人たちを助けているんだ。
葵さんは錐音にとってものすごく大きい存在だったのだろう。
そんな中、私は錐音と一緒にいて許されるのだろうか。
葵さんのことは関係ないのに、私は、錐音の仕事を手伝っている。
本当なら一人で仕事をした方が、たくさんの人を助けられるのに、私は錐音のパートナーだ。
「ねぇ、錐音は私がいて邪魔じゃない? ほら、私がいると余計に時間がかかって、たくさんの人を助けられないでしょ。だから、私がいない方が錐音の為にいいかなって」
真面目な顔をしていたが、錐音は怖い表情をした。
そして、私の頬を軽くつねる。
「何を言ってるの。いつ私が陽菜のことを邪魔だって言ったかしら。私はあなたのパートナー、そう決まったんだから、誰か一人欠けてはダメなの。分かった?」
「わ、分かったから、は、はなひて」
頬をひねってるから上手く返事ができなかった。
私が理解したことを確認すると、錐音はひねっていた手を離した。
頬はひりひり軽く痛む。
「ふぅ、あまり余計なことは考えなくてもいいの。陽菜とはずっと一緒にいたいんだから」
「え、何か言った?」
「な、何でもないわよ。さぁ、明日も学校なんでしょ。早く寝ましょう」
「うん」
錐音が何を言ったか本当は聞こえていた。
本人は聞こえないように小さく言ったみたいだが、これが錐音の気持ちなんだ。
私は暖かい優しい気持ちに包まれて、安心することができた。
ニヤニヤと嬉しさでいっぱいになり、微笑みながら、ベッドに入る。
「えへへ」
すると、先に入っていた錐音が見て、少し引いた。
「何笑ってるのよ」
「何でもない」
「変なの、あまり変なこと考えてないで早く寝なさい。明日も早いんだから」
「そうだね」
二人一緒のベッドに入り、部屋の電気を消した。
今日までの間いろいろなことがあったけど、錐音となら頑張れる気がする。
私は隣で寝ているパートナーに背中を向け、目を閉じた。