第5話「二人目」
時刻は午後一時過ぎ、まだ昼休みなので廊下にはまばらに生徒がいた。
お昼は既に食べ終わったので心配する必要はない。
他に心配することといったら、教室のみんなのことと、無事に午後の授業が始まるまでに戻れるかということだけだ。
錐音のことだから、授業なんて気にしてないように思う。
私はまた前を先頭にして歩く錐音の後ろ姿を見つめた。
「これからどこにいくの?」
「仕事に関わるところよ」
相変わらず何も教えてくれないんだな。
そういえば、仕事とか、高校生はできないんじゃないの。
バイトならいいけど、仕事は確かダメだったはず。
「ちょっと待って。仕事とかまだ高校生だからしちゃいけないんだけど」
そういうと、錐音は少し振り返って。
「今頃いうのね。大丈夫よ、私と同じように隠していればバレやしないわ」
「そういう問題じゃないんだけど」
錐音はいつも勝手だ。
「あーだこーだ、いってないで黙ってついてきなさい。話はそれからよ」
前を向き、錐音は歩き出した。
もう錐音に任せるしかない、そう思った。
教室から出て数十分後、ようやく錐音の足は止まった。
よく見るとここは、三年生のクラスの前だ。
三年生のクラスなんて一回も来たことがない。
それは当たり前か、私は二年生で、ここに来る用事がないから。
すごく緊張しているのが分かった。
「いた。今夜のターゲットはあの子よ」
教室のドア窓から、中の様子を窺う。
「あの子? あの子がどうかしたの?」
「名前は間宮すみれ。小さい頃から右足が麻痺して動けなくなってるの。今は松葉づえをついて学校に来ているわ」
窓辺で読書をしている彼女がいた。
机の横には松葉づえが立っており、右足はそっと床に置いてある。
「何とかして動かしてあげられないのかな。小さい頃だなんて、まさか一度も走ったことないんじゃ」
「動かしてあげられるわ。その仕事をするのが私たちでしょ。さぁ、教室に戻るわよ」
そうだ、それが私たちの仕事だ。
思いっきり嬉しい声で返事をした。
「うん!」
私たちは三年生の教室を後にし、自分たちの教室へと戻った。