第4話「転校生」
狭い、それが第一の感想だった。
何やら右側に誰かがいるようで、とても狭く感じられた。
「う、うぅ」
私は右側に顔を向け薄っすらと目を開ける。
すると横にいたのは、あの少女だった。
綺麗な顔立ちをした少女がぐっすりと寝ている。
とても可愛らしく寝ているので、何だか、ほっぺをつねっていじわるしたい気持ちになった。
「……可愛いな」
ポツリ、独り言をつぶやく。
すると彼女は目を覚ました。
さっきの独り言を聞いていなかったか気になる。
「おはよう」
「あ、お、おはよう」
よかった、と安心の溜息をついた。
目を覚ますと彼女はベッドから離れ、昨日とは違った服に着替える。
女の子同士だけど、見てはいけないと思い私は反対側を向いた。
「昨日はごめんなさいね、急に陽菜の家に泊まることになって」
「あ、大丈夫だよ。あまり気にしないで」
そう伝えると彼女は、そう、と返事をした。
今日は月曜日、これから学校に行かないといけない。
まだ七月に入ったばかりなので、夏休みはもう少し待たないといけないのだ。
彼女が着替えてるので、私も学校の制服に着替える。
私が通っている高校は、新林高校。
ごく普通の共学で、大会などはまぁまぁといった成績だ。
その高校で私は平日授業を受けている。
「これからどこに行くの?」
「高校だよ、今日は月曜日だから」
制服に着替えてる私を見て、彼女は気になったようだ。
「高校? つまり、私の世界でいうと育成する場所っていうところね」
育成って、まぁ、こっちもそうかもしれないけど。
「そういうところかな」
思うけど、彼女のいた世界や学校はどんなのだろう?
やっぱり死神とかいっぱいいるのかな?
彼女を見ながら考えてると、そろそろ家を出発しないといけない時間になった。
「もうこんな時間。じゃあ、私は学校に行ってくるから、あなたは家でお留守番してて。詳しい話は帰ってから聞くから」
そう部屋を出ようとすると、彼女は止めた。
「待ちなさい。私は陽菜の死神パートナーとして決められたのよ。パートナーなんだから、ずっと傍にいないといけないわ」
「えっ、急にいわれても……」
ずっと傍に、ということは彼女も学校に連れて行くことになる。
私は構わないけど、彼女を学校に連れていって大丈夫なのだろうか。
だって彼女は死神なんだから、そのことがみんなにバレたらと思うと心配だ。
バレてもいいのなら、連れて行ってあげてもいいんだけど。
「私が学校に行って何かまずいことでもあるの? それか、陽菜が私の傍にいるのが嫌だとか?」
「違う、そうじゃなくて。あなたが学校に行って大丈夫なの? 死神の正体がバレたらとか」
「そういうことね、なら大丈夫よ。そうやってバレるということはないでしょ。死神といっても、私はあなたと同じ肉体を持ってる。それに、吸血鬼のように牙もないわ。どこから見ても普通の人と変わらない。そうでしょ?」
彼女のいうとおりなので反論できない。
「うん」
「なら、早く学校に行きましょう。遅れるんじゃなかったけ?」
「分かったよ。それで学校に来るなら転校の手続きとか取ったの?」
「ええ、もちろん。あなたが学校の話をし始めた時に、もう手続きは済ませたわ」
いつの間に! と突っ込みを入れたかったが、本当に遅刻しそうなので止めた。
新林高校。
高校の通学路を生徒が歩いている。普通と変わらないこの光景だが、私の周りはものすごく変わった。
その変わった原因が隣に歩いている彼女が来てからである。
今日は転校初日。
すごいことについさっき転校手続きを済ませ、しかも、私と同じ新林高校指定の制服を着ている。夏らしい薄いスカートで、襟元には真っ赤なリボン。
彼女はとても綺麗なので、私と歩いていて様々な人が見てくる。それほど綺麗ということなのだろう。男子の目線は彼女に釘付けだ。
「私、陽菜のクラスに転校するわね」
「え、でも、クラスとか先生が決めるんじゃ」
「もう決めちゃったから、変更できないわ」
ということは、自分でクラスを決めたのか。
何だか、彼女なら何でもできそうな気がする。
校門をくぐり校舎の中へと入った。
私は下ばき、彼女はスリッパへと履き替えると、廊下で立ち止まる。
「私はクラスで待ってるね。あなたは先生と一緒に来て」
「分かったわ。それじゃ」
廊下で彼女と別れた。
一人にして平気なのだろうか。
すごく不安で心配だが、ずっと彼女のことを気にしてるわけにはいかない。
たまには彼女のことを忘れて、自分のことを考えよう。
少し気にする重い足取りで、私は自分のクラスへ向かった。
クラスの中に入ると、お馴染みのクラスメイトが会話している。
この風景が現実なのだ。
みんなの笑い声を聞いてると死神とか嘘のような、夢に思えてきた。
そう、あれは幻だったんだ。
と、心の中に言い聞かせ、自分の椅子に座る。
すると、友達である、藤影葵と間宮すみれが寄ってきた。
「おはよう。今日はギリギリだったね。どうしたの?」
「ちょっと寝坊しただけかな。あはは」
「そうなんだ。陽菜が寝坊するなんて珍しい」
「そうだよね。疲れてたのかな」
やっぱりこの二人と話していると落ち着く。
いろいろな話題で話していると、ガラガラと教室のドアが開き、先生が入ってきた。
「あ、また休み時間ね」
「うん」
二人は自分の席に戻り、私は先生が話すのを待った。
そして、チャイムと同時に始まった。
「今日は連絡事項を話す前に転校生を紹介します。どうぞ、入ってきなさい」
転校生、という言葉に反応しみんなが騒ぎ出す。
本当に私のクラスに来たんだ。
あまり変なことを言わないでほしいと願いながら、彼女を見守った。
「初めまして、この学校に転校することになりました。浜川錐音といいます。よろしくお願いします」
名前、錐音っていうんだ。
私はこの時、彼女の名前を初めて知った。
今まで聞かなかったのが悪いが、とてもいい名前だ。
「錐音さんは、とても遠いところから来ました。皆さん優しくしてあげてくださいね。じゃあ、錐音さん席は」
先生は錐音の席をどこにしようか悩む。
すると先生の横を横切り、影が私の元へやってきた。
「私、陽菜の隣にするわ。よろしくね」
「え、あ」
私の隣といっても、隣には他の生徒が使っている。
もちろん、錐音が使えそうなスペースはないのだが。
私が困っていると、錐音は隣の子に席を退くように言い、その席に座ってしまった。
退いた生徒は困りながら、その場に立ち尽くす。そして、何分かして状況を理解し、他の空いてる席に移動した。
「ええと、それでは、連絡事項を話しますね。今日は……」
先生は何事もなかったかのように話を進める。
そんな中、クラスは冷たい空気が漂っていた。