第3話「二人の仕事」
私が思いをぶつけ、しばらくしてから彼女は全てのことを話してくれた。
診断をしたのは仕事をしてもらうために使うサイトということ。つまり、中々仕事先が見つからない人が使い、その結果として出た仕事をするお助けサイトみたいなものだった。
次に私がその診断でした結果だが、仕事は死神。
死神の仕事と聞いた途端、漫画やアニメの世界だけの話だと思い信じられなかった。きっと私以外の人が聞いても信じられないだろう。
でも、彼女が真剣に話しているのを見て、信じてみようと思った。信じても、後で嘘だといわれ、傷つき後悔するかもしれない。
それでも、私は彼女のことを信じたい、信じられると思った。どうしてここまで、しかも、彼女のことを何一つ知らないのに信じられるのか、と誰か聞いてきても私は答えられないだろう。
自分でもどうしてか分からないけど、彼女のことを信じなきゃいけない気がしたから。
だから私は、全てを信じてみる。そう決心した。
彼女は死神といったが、私が想像している死神と違った。誰もが想像する死神といったら、生死を彷徨っている人の所に行き、その人の命を奪うことだろう。それか、死神が現れたら数日のうちに死んでしまうようなとても怖いものだ。
だけど、彼女の死神は、そういった恐ろしいことをするものではなかった。
生死を彷徨っている人を助けるもので、もしかしたら、死神というのは間違っているのかもしれない。正確にいえば死神でも天使でもない、命の恩人だ。
どうして死神が人を助けるのか、それは、まだ教えてもらっていない。
深夜0時過ぎ。
ある一軒の家の前に二人の影が立っていた。
周りには街灯もなく、夜中なので人の姿は見えない。
いるのは私と彼女だけ。
誰かに気づかれないように小さい声で、隣にいる人影に声をかける。
「本当にするの? 私、あなたみたいな能力も力もないよ」
「なくてもできることだから心配しないで」
私は不安で心が折れそうなのに、彼女は自信で満ち溢れていた。
私たちがすることは、この家の人を助けることだった。
この家には、四十代後半の男性が原因不明の病で寝たきりである。今は何とか医師たちのおかげで頑張っているのだとか。
私が知らないところで苦しんでいる人がたくさんいる。
彼女と知り合う前の私だったらこういう人たちを助けられなかっただろう。助ける前に、知らなかったはずだ。
でも今は彼女と出会い、こうして苦しんでいる人を知ることができた。
私が今できることは、ただ一つ。
苦しんでいる人を彼女と一緒に助けることだ。
「じゃあ、行くわよ」
「はい」
彼女の後を続き、家の玄関から入って行った。
深夜なので玄関は普通鍵が閉まっているが、彼女の力なのか、魔法のように手を触れただけで開いてしまった。
「暗い……よく見えない」
とても暗いためよく見えない。前を歩いている彼女すら見えないので、後を付けるのも大変だ。
しかも物音を立ててはいけないので、更に過酷である。
私は何とか彼女の後を歩いていたが、とっさに腕を伸ばして前を歩いている彼女の服を掴んでしまった。
「急にごめんね、その、暗くて見えないので」
暗いため彼女の顔を見ることはできない。
ただ分かるのは、彼女が前にいて服を掴んでいてもいいということだった。彼女は未だに自分の服から私の手を振りほどこうとしてこない。
「いいわよ、物音を立てられて気づかれるよりマシだから」
「ありがとう」
とりあえずお礼をいい、私たちは無事に目的の部屋に到着することができた。
部屋にはベッドの上に四十代後半の男性が寝ていた。
ここから見たら健康そうに見えるが、とても苦しい思いをしているのだ。
何とかして助けてあげたい、私はそれだけを願った。
「陽菜、こっちに来て」
彼女に呼ばれて、私はベッドの前に立つ。
これから何をするのだろう?
まだ彼女から聞かされていないため、分からない。
何をするのかドキドキしながら待っていると、突然、右手に温もりが感じられた。よく見ると、彼女が私の右手を握っているのだ。彼女の右手はとても柔らかく握っていると、温かい気持ちになれた。
「今からこの人を助けるわよ。私がするからあなたはただ手を握っていて」
「分かった」
手を握っていればいいということなので、言うとおりにした。
全てのことは彼女に任せて、私は終わるまでずっと綺麗な彼女の手を握り続ける。
その間、彼女は寝ている男性の胸に手を当て始めた。
すると、微かに男性の胸が光始め、とても綺麗に見えた。
まるで魔法を使ってるような。
感動して見ていると、彼女は男性の胸から手を離し、私の手も離した。
「これで病気はなくなったわ。彼は健康になれた」
本当に健康になれたのだろうか? でも、彼女がそういってるのだから、そうなのかもしれない。
「よかった。これがあなたの力?」
「ええ、苦しんでいる人を助けるのが死神の仕事。そして、この力でどんなものでも助けられるの」
すごい、といいたい所だったが、彼女が早くここから立ち去るようにいってきたので、感想もなしに立ち去ることにした。
帰る途中、彼女は家も帰る場所もないといってきた。
この深夜の中、彼女一人だけにするわけにはいかない。
まだ仕事について知りたいこともあるし、聞きたいことがたくさんある。
とりあえず、今日は彼女を家に泊めることにした。
明日から昨日とは違う毎日になりそうだ。