第2話「同じ気持ち」
さっきまで明るかったのに今ではもう夜になろうとしていた。
それくらいの時間になるまで、私は、彼女と会話しようと必死だったらしい。
気が付いたら夜、しかも、街の中を歩いている。
彼女は家を出てから一言も喋らず、ただひたすらどこかに向かってるようだ。
「あ、あの……」
目の前を歩いてる彼女に声をかける。
だが、さっきと同じ反応してくれない。
一体彼女は何者なのだろうか? どこに向かっているのだろう? どうして私の家の住所を知っていた?
考えれば考えるほど、謎が深まっていくばかりだ。
考えても答えは出ない、やっぱり、本人に聞かないと。
そう思い声をかけようとすると、彼女は突然立ち止まった。
「ここは」
二人の目線の先にあるのは、大通りから少し外れた所にあるごく普通の民家だった。
少し歩けばまた大通りに出る道で、私と彼女はある民家の前に立っている。
ここは知り合いの家なのだろうか、彼女は微動だにもせず家を見つめて動こうとしない。
「ここ知り合いの家?」
そう話しかけると、彼女の口が動いた。
「全然。話したことも会ったこともない他人の家よ」
他人の家。
でも何か目的があるからここに来たに違いない。
そうじゃないと誰も家に来ないはず。
「あなた、ここに何の用が……しかも、私まで連れ出して」
「仕事の為かしら」
「仕事?」
そういえばさっきも言ってた。
「仕事って一体何の? 私をここまで連れてきたんだから、最後まで教えてくれないと分からない」
「……いいわ、教えてあげましょう。その代わりに、あなたは人を一人でもいいから救いたいと思ったことはある?」
人を救う。
それはつまり、どんなことでもいいのだろうか。
例えば、木の上に登り降りれなくなった人を助けたい、たくさんの荷物を抱えたお年寄りを手伝って助けてあげる、道に迷った人を助けてあげるなど、助けたり救うのはいろいろある。
もちろん、私だって一人ではない、たくさんの人を救いたいと思ったことはあるが、
救いたいと思っても、そう思った通りに体が動かないのがほとんだった。
いつも見てみぬ振りをして通り過ぎてしまう。
心の中では助けないとと思うけど、どれも上手くいかずに終わる。
いつか一人でもいいから助けられる日は来るのだろうかと待っていたが、何か変えられるものがあるのだろうか。
私は迷わずに今までの思いを話した。
「一人じゃない、もっとたくさんの人を救いたいと思ったことがあります」
彼女の目は真剣に私を見つめていた。
私も負けないくらい強い気持ちで、彼女の前に立っている。
すると彼女は、少し微笑み、今までにない優しい気持ちで答えた。
「そう、その気持ちがあるなら十分よ。あなたならきっと出来るはず」
その後、少しでも彼女に近づけたのかなと心の中で思った。