第13話「第二の転校生」
「おはようございます。あ・な・た♪」
桜はざくろの耳元で囁いた。
まだ、みんなベッドや布団の上で寝ている。
だが、桜だけが起きて、ざくろの耳元で甘い声を囁いていた。
「ねぇ」
未だに起きないのをいいことに、頬をツンツンと軽く突く。
「んぅ~」
「ふふ、可愛い」
微笑み、ざくろをいじるのを楽しむ。
まるで酔ったみたいに、目がとろんとしていた。
「起きないと、こうしちゃうぞ」
また顔を近づけ、耳元付近で止まる。
そして。
「ふぅ~」
ざくろの耳に息を吹きかけた。
その瞬間、ざくろはものすごい速さで飛び起きた。
「ひゃっ!」
「やっと起きましたね。おはようございます」
何事もなかったかのように挨拶したが、ざくろは驚いていた。
パクパクと金魚のように口を動かし、何かを言おうとしている。
「あ、あ……」
何を言おうとしてるのか分からないので、桜はそのまま見つめ、様子を見る。
「はい、何でしょうか?」
「きゅ、急に何てことをするのよ!」
顔中を真っ赤に染めて、恥ずかしながら、毛布を頭まで被ってしまった。
その行動に桜は嬉しそうに微笑み、目の前の毛布を見つめるのであった。
朝の騒ぎから時間が経ち、ちょうど今、LHRを始めていた。
ざわざわと生徒たちは騒がしく、落ち着かないようだ。
それもそうであろう。
また転校生が陽菜のクラスに来るのだから。
「では、転校生を紹介します。さぁ、中に入って」
先生の一言で、更にクラス中は騒がしくなった。
だけど、私や、錐音、桜との温度差は違う。
「きゃー、可愛い」
「また転校生がうちのクラスに来るなんて。すごい」
生徒たちは転校生に釘付けだ。
「はいはい、皆さん落ち着いてください。じゃあ、自己紹介から」
「皆さん初めまして。このクラスに転校することになった、月森ざくろです。まだ分からないことばかりですが、みんなに迷惑をかけないよう頑張っていきたいと思います。よろしくお願いします」
その後、拍手が舞い上がった。
どうして、ざくろが学校に転校してきたのか。
それは、一時間前にさかのぼる。
ざくろが転校する前、みんなが起きた時に錐音から聞いた。
「ざくろ、私たちの学校に転校してきなさい」
「え。転校?」
「ええ。あなたは、私が何をしているのか知りたいのでしょ? だったら、転校して私のことを探るのが当たり前の考えだと思うの」
「それもそうね、今まで忘れていたわ」
無理もないだろう。
ざくろは桜のことはもちろん、今までの日常に楽しんでいたのだから、考える余裕がなかったのだ。
いや、あったが、やっと錐音に会えて他のことはどうでもよくなっていた。
そんなこんなで、ざくろも学校に転校してきた。
しかも、クラスは私と同じクラスだ。
これから賑やかになりそうな予感がしていた。