第1章 女
ホットパンツの女
第1章
●女
その女に初めて会ったのは猛暑が続く夏真っ盛りの朝だった。
私はその頃大阪市内のタクシー会社に勤めていてその朝は、通し勤務が終わり帰宅の途についていた。私は団地へ続く新しい専用道を通らず道幅の狭い旧道を通っていた。古びた家並み、砂埃舞う野原、畑や石碑を見ながら走るのが好きだった。
その旧道の上をその専用道が跨いでいる。
その橋桁の下の野原の片隅に古びた一軒家が建っている。
その玄関口にそれも又古びたカンバンが立っている。
私はそのカンバンからミサと言うスナックがそこにあるいう事を前々から知っていた。
私は酒を飲まないし、カラオケもやらないのでそういう店とは無縁だった。
私は寂しげなその店の前を通ろうとしていた。
その時、入り口が開き女が一人出てきた。
赤いホットパンツ姿で手には洗濯物らしい物を持っていた。
三十台半ばだろうが化粧していないのか老けて見えた。
いや、老けているというより今までの人生の重荷一切合切を今受け止めて、疲れているかのように見えた。
女は野原にポツンと立っている物干し竿に近づき洗濯物を掛けだした。
背中をこちらに向け洗濯物を物憂げに掛けている。
背中が極端に開いたTシャツから赤黒く焼けた肌が見えていた。
その背中から肩にかけての肌が洗濯物を掛けるたびに妙に艶めかしく動く。
私は欲情を感じた。
なぜだか分からぬが私はこの女に欲情を感じていた。
久しぶりに欲情を感じていた。
中年の、それも疲れが滲み出て老けてさえいる女になぜ欲情を感じるのか私にも分からぬ。私は苦笑いするしかなかった。
女は黙々と洗濯物を掛けていた。
私の年代物の車はその前を通りすぎていった。
私は通り過ぎるとバックミラーを見た。
女は相変わらず物憂げにその仕事を続けていた。
女に欲情を感じ抱きたいと思うのは久しぶりだ。
今日はあの女を肴にこの疲れた体を休めよう。
私はもう一度バックミラーを見た。
もう、遠く離れその体も顔もよく見えなかった。
私は通り過ぎた時の残像を深く記憶に留めた。