私のギフト~魔物の解体やってます~
「おはようございます、マスター。」
「お!おはよう、マイカ。今日は早速ブタ型の魔物とトリ型の魔物が入荷してるぞ。
お願いしていいかー?」
「もちろんです!さくっと解体してきますね~」
私、マイカは冒険者ギルド魔物解体担当職員である。
魔の森から湧きだす数百種の魔物を特定し、解体するのが私の仕事。
今日はウシ型とトリ型だって。どんな子たちなんだろう…?
腰にそれと分からないように巻きつけられている愛刀にポンっと触れ、
気合をいれる。
神様、今日も私、頑張りますね!
この世界には、”神様からの贈り物”というとこで広く受け入れられているけど、
10歳頃になると枕元にプレゼントが届く不思議な現象がある。
ペンであったり、針であったり中身はいろいろで、
私の場合は解体用のナイフセットだった。
もちろんと言っていいか分からないが、
プレゼントは神様仕様で、説明がつかない現象も時々起こす。
私の愛刀も神様仕様で、切れ味は段違いだし、
この愛刀を使っているときは解体の感が普段より研ぎ澄まされる気がする。
元々、肉屋の娘として産まれ、小さい頃から肉の解体現場は見て育っていた。
だから、解体用ナイフセットは嬉しかった。
初めは実家で手伝いをしながら過ごしていたけれど、
冒険者ギルドの求人を見つけて応募、
無事に受かり今がある。
私的にここでの仕事は天職だ。
これもこの道具、ひいては神様のおかげ。
神様、ありがとう!
マスターに頼まれた2体の魔物。
ブタ型の方は、普通のブタより少し大きい通称デカブタと呼ばれる個体だった。
レア度は星1。素材としては普通のブタのように食用肉となる。
一方でトリ型の方はカザリドリと呼ばれる個体で羽が装飾品として根強い人気がある個体だった。レア度は星3。
まぁ、でもそこまで難易度の高い解体じゃない。
のんびりと解体を楽しめるレベルだ。
「んーー!解体おわり!」
解体終わりに素材を並べて観察するのが私の楽しみ。
本当に美しい。しかも今回はカザリドリの素材も並んでいる。
イチ乙女としてテンションが上がらないわけがない。
「マイカ!いるか!!」
「どうしたんですか、マスター。今、解体後のヒトトキを味わっているところです!」
「よし、手、あいてるな。実はウシシが大量に入荷したんだ。今すぐ解体してくれ!」
「…はぁ。わかりました。運んでください。」
ウシシはウシ型の魔物で”ウシシ、ウシシ”と鳴く個体だ。
冒険者の方々をものすごくイライラさせるらしい。
そして腐るのがものすごく早い個体としても有名だ。解体者さえもピリピリさせる。
それなのに、ものすごく美味しく、食べずにはいられない…そんな個体なのだ。
「マスター、大量とは聞きましたが、50体は聞いてないです!!」
解体部屋に運び込まれるウシシ。そこそこの広さがある解体部屋も10体が限度だろう。
それなのにまだ運びこもうとするから、職員に聞いたのだ。
そしたら「まだまだありますよ。」と。
ストッープ!!ストップ!!
「50体はさすがに私一人じゃ無理です。」
「でも、食べたいだろ。」
「食べたいですけど…。」
「…まぁ、難しそうなのは俺でも分かる。だから作戦も考えてある!
ウシシの内臓はマイカが取り出せ。それ以外は臨時で雇った冒険者が請け負おう!」
「”請け負おう”って、ウシシの美味しい肉ですよ!素人の冒険者に任せていいんですか!?」
「おぉぅ、そっちか。てっきり内臓ばっかりやらせるなってつっこまれると思ったわ…。」
ウシシは腐敗のスピードが早いことで有名ではある。
が、内臓系、特に胃と腸を破裂させずに取り出さないと肉がダメになるのだ。
その上、死ぬと急激に内臓系が腐り脆くなる特徴を持ち、解体も容易でない。
「できる限り頑張りますので、冒険者の監督はマスターがお願いしますね。」
「おう!任せとけ。」
ドタバタドタバタ
それから私は出来る限りのスピードで胃腸を取り出し続けた。
ドタバタドタバタ
そして、なんとか一体もダメにすることなく解体しきった。
「お疲れ様~」
「あ、マスター、疲れました…」
へとりと疲れ果てているとマスターが声をかけてくれる。
「それにしても素晴らしい技術だな、最後の方、ものすごいスピードで処理してたぞ。」
「それが仕事ですしね…」
「…マイカ、お腹は大丈夫か?」
「え、ウシシ、くれるんですか?」
「いや、みんながマイカのことを”胃腸のお姉さん”と呼ぶもんだからつい…ふふッ」
「もう!珍しく褒めてもらえたと思ったのに!私の分のウシシ、マスターが買ってくださいねっ!」
それからしばらく”胃腸のお姉さん”と呼ばれていたことだけは解せなかった(陰でだが)。
私の胃腸は健康じゃい!!
そしてまた別の日。
いつものように平和な日常を始めようと思ったのに。
「おはようございます、マスター」
「マイカ!やっときたか!」
「まだ始業前です、マスター。また、ウシシの大量発生ですか…?」
「あー、その節はご苦労だった…。そして、おはよう。いや、ウシシより大物だぞ!
トリ種の中でも巨大な通称ワイバーンだ!」
「無理です!!私には無理です!!」
ワイバーンは大物だ。
解体への自信はそれなりにあるが、訳が違う。
「無理だとは言ったんだが、とりあえず見るだけ見てほしいと言われてな。
まだ、買い取ってはないぞ。あと、あれだ、あの、胃腸のお姉さんなら、という…」
「くっ…、その名前まだ残ってたか…!見るだけですよ、見るだけ!」
「物分かりがよくて助かるぞ。こっちだ!」
ギルドが所有する広場に行くと、そこには中型に分類されるワイバーンが横たわっていた。
ゾクッ…
解体したい…
身に着けているナイフに手をやると、
ワイバーンの解体方法、そしてワイバーンを解体する私が頭の中に流れてくる。
「できる。」
「マイカ?」
「マスター、私、これ解体できます。解体の許可を下さい。」
「…よし、頼んだ!!」
この時のことはよく覚えている。
手に握る愛刀に手順を教わりながら丁寧に丁寧に解体を進めていっていた。
頭を落とし、皮を剥いだ。
内臓を取り出しつつ、翼や足をもいでいった。
間違えないように。素材を傷つけないように。
ワイバーンはめったに出現しない魔物だ。
私も触るのは初めてで、以前、解体現場を見学させてもらったぐらい。
後であの時のことを思い出すと”なぜできたのか”不思議だけれど、
そのときは何も疑問に思わなかった。
身体は全てを知っているし、
頭でそれらを必死に吸収しているようだった。
「ふぅ。」
解体が終わり顔をあげると辺りは薄暗かった。
「…?」
「終わったのか?」
「あ、マスター、えぇ、終わりました。…たぶん?」
「たぶん、ってどういうことだ。」
「マスターもお分かりだと思うんですけど、私、よく分かってないんですよね。」
「まぁ、そうだろうな。でも、あれを見てみろ。マイカが解体したんだ。」
マスターが示す先には要冷蔵品以外のものが、
ブルーシートに並べられている。
どうやら私がワイバーンを解体しながら指示してたみたい。
美しい…
マスターが「解体終了ー!」と叫んでいる。
周りの人が拍手で応えている。
すごい、私、解体できたんだ…。
「マイカは神のギフトをもらったんだ。」
マスターが言う。
「どういう意味ですか?確かに私はこのナイフをギフトで頂きましたけど…?」
「もちろん、それもギフトだ。けれど、それはギフトを開花させるための”物”にすぎないのさ。
人間誰しも特別な物をもって生まれるって言うだろ?」
「うーん…?」
「はは、まだ分からなくていいよ。俺ぐらいの年になれば分かるさ。」
「一応、言っときますけど、私もうアラサーですよ。」
「まだ、20代の若い娘が何いってるんだか。おい、せっかくいい話してたんだけどな。」
「ありがとうございます。マスター。」
「これからも期待してるぞ、マイカ。」
「はい、頑張ります。」
ワイバーンを解体できる職員がいることが噂となり、
大物の魔物や見たことない魔物わざわざが持ち込まれるようになるのはまた別のお話。
「マイカー、また変な魔物来たぞ!変なのは高く売れるからいいな!」
「いや、頑張るとはいいましたけど~!!」




