悪くないじゃん
本作品はカクヨムにも投稿しています。
「はい、チョコケーキ」
「マジじゃん……。アンタ、わざわざこのためだけに買って来たの?」
アニメを見てもらう対価のチョコケーキを渡すと、安奈は呆れたように言う。
「それもあるけど、食べたそうにしてたでしょ?」
「それは……まぁ、もうこの際否定しないけど」
安奈は言うと、お皿を受け取ってソファに戻る。
僕は2人分のコーヒー──ペットボトルだけど──を用意して、イチゴのケーキを持って隣に座った。
冷蔵庫にはもう1つケーキがあるけど、これはお母さんの分。
こっちは普通にあとでお小遣いとして請求しよう。
さすがにケーキ3つはお財布に響いたから。
「美味しそう……」
安奈はケーキの写真を撮りながら微笑を浮かべている。
相変わらず甘い物には弱くて助かった。
「今準備するから、食べてていいよ」
「ん。いただきます」
安奈はフォークで先の方をすくい、口に運ぶ。
「……!」
美味しい? なんて横顔を見れば聞くまでもなかった。
僕は安堵しながら、テレビにサブスクの画面を映す。
「じゃあ流し始めるよ」
「はいはい。ケーキの分くらいは、ちゃんと見てあげる」
さっそく久瀬さんに勧めてもらった作品を選んで、1話を再生開始。
するとすぐ、安奈は意外そうに目を見開いた。
「なにこれ。3D?」
「そう。3DCGのアニメ」
「日本のアニメなの?」
「そうだよ」
「ふーん……」
自分で言うのもなんだけど、もっとオタクっぽい作品を見せられると思ってたんだろう。
安奈は肩透かしでもくらったように、ちょっとだけ気の抜けた表情でテレビを眺めている。
久瀬さんに勧めてもらったのは、去年の冬アニメとして放送されていた作品だ。
特徴はさっきも話題に挙がった通り3DCGなことと、もう1つ。
「……え? 終わり?」
唐突に流れ始めたスタッフロールに、安奈はまたしても目を見開いた。
「このアニメ、1話5分のショートアニメなんだ。全12話だけど、サクッと見れるよ」
自動で2話が流れ始めて、僕らは再びテレビに目をやる。
「──ふっ、ふふっ」
「おっ」
「あっ……」
こらえきれない、って感じの笑い声につい反応してしまう。
安奈が恥ずかしそうに睨んでくるから、僕は気付かなかったフリをしてケーキを口に運んだ。
「あっ、美味しい」
「……ふんっ」
許してもらえたようで、安奈はまたテレビを見る。
そんなこんなしている内にあっという間に2話も終わって、3話、4話と進んで行く。
「──どうだった?」
全話見終えたタイミングで、僕は安奈に問い掛けた。
視聴中の様子から、なんとなく答えは分かってるけど。
安奈は目をそらして黙り込むと、微笑して口を開いた。
「……まぁ、悪くなかった」
「よかった。そう言ってもらえて」
はっきりと口にしてもらえて僕も一安心というか、嬉しかった。
「嘘、訂正」
「え?」
「ちゃんと面白かった。テンポよかったし、短いのに伏線とかもあったし」
「安奈……!」
珍しく素直な感想に、思わず笑みがこぼれてしまう。
そんな僕を見て、安奈はビシッと指をさしてきた。
「ケーキの分くらいはちゃんと見るって言ったでしょ。それだけ」
訂正。やっぱり素直じゃないかも。
けど安奈らしいや。
「ケーキも食べ終わったし、アニメも見終わったし、私今日はもう帰るから」
「あ、うん。ありがとう、付き合ってくれて」
安奈はお皿を流しに置くと、すぐ帰って行った。
1人残ったリビングで、僕は久瀬さんに感謝のメッセージを送る。
「……思ったより反応よかったな」
正直、もっと淡白な反応になるかもと覚悟してたところはある。
けど意外にも笑ってくれたし、面白かったと言ってくれた。
「……前日譚があるって言ったら見てくれるかな」
ケーキで釣ったとはいえ、感触としてはかなりよかった。
この調子で作品を勧めてハマってもらえれば、「オタクに優しいギャル」という空想の存在を現実のものにすることができる……かもしれない。
「今度はなにがいっかな~……久瀬さんにもまた聞いてみよ」
「オタクに優しいギャル育成計画」前進!
ということで、見事チョコケーキに釣られた安奈ちゃんでしたが、久瀬さんのおすすめが上手くハマったようですね。
実際、まったく知らないし興味のない作品を勧められても「あとで見とくよ」ってなっちゃいがちだと自分は思います。
ただ「1話5分だから!」とかサクッと見られる理由を教えてもらえれば「まぁそれなら隙間時間で……」と見るハードルが下がりますよね。




