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頼りになる友達

本作品はカクヨムにも投稿しています。

 ──ケーキで安奈を釣る数時間前。


 放課後、僕はケーキを買いにくだんのカフェへ行くため、駅前まで足を延ばしていた。

 人でごった返すってほどでもないけど、夕方だからかそこそこ人が多い。


 そんな中を歩きながら、僕はあることについて悩んでいた。

 ケーキで安奈は釣れるとして、なにを見せるか、だ。

 

 最近話題のアニメは「興味ない」と一蹴されてしまったけど、見てさえくれればハマってくれる──っていうのは、少しばかり楽観的だろうか。


 今の世の中、SNSや動画投稿サイトでアニメのCMなんていくらでも流れてくる。

 それを全く見たことが無いなんてことはないだろうし、見たことがあるからこそ「興味ない」って判断したはずだ。


 ケーキで釣って見せたところで、「やっぱり趣味に合わなかった」ってバッサリ切り捨てられたらチャンスが無駄になってしまう。


「うーん……」

「あれっ……? 隠先輩じゃないですか!」

「ん?」


 突然声をかけられて振り返ると、同じ高校の女子生徒が立っている。

 亜麻色のショートボブに翡翠色の瞳の、小柄な女の子だ。


「先輩って電車通学じゃないですよね? 買い物ですか?」

「久瀬さん。うん、まぁね」


 振り返った先で可愛らしく首を傾げているのは、1年生の久瀬くぜ美黎みくろさん。

 僕と同じ趣味を持つ──つまるところのオタク仲間というやつで、数少ない異性の友達だ。


「そこのカフェにケーキを買いに」

「ケーキ? 誰かの誕生日とかですか? ……ハッ、もしかして先輩の!?」

「違う違う。ちょっと頼み事を人にするんだけど、そのお礼」


 これからあのケーキで人を釣る、とはさすがに言えない。

 適当に誤魔化すことにした。


「なぁーんだ、そうだったんですね」


 久瀬さんはなぜかホッとした様子だ。


「久瀬さんは電車通学だっけ」

「です。ちょっと本屋に寄り道してたところなんです」

「新刊の発売日とか?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど。ちょっと気になってるシリーズがあって、1巻だけ買ってみようかなーって」


 久瀬さんは僕と同じようなオタクだけど、知っている作品数は彼女の方が多い。

 僕も久瀬さんから勧められて好きになったアニメやラノベがあるくらいだ。


「……そうだ。久瀬さんに聞きたいことがあるんだけど」

「なんですか?」


 久瀬さんなら僕の悩みを解決してくれるかもしれない。


「普段アニメとか見てない人におすすめの作品、久瀬さんだったらなにを挙げる?」

「アニメとか見てない人ですか?」


 きょとんとした様子で久瀬さんは目を瞬かせる。


「そうですねぇー……。その人、アニメだけじゃなくて漫画とかゲームとかもあんまり興味ない人ですか?」

「そうだね。最近話題の作品結構勧めてみたんだけど、あんまりリアクションよくなくて」

「少年漫画系のやつですか?」

「そう。世代問わず人気だから、よさそうだなーって思ったんだけどね」

「ならー……んー」


 さすがにすぐには出てこないよね、って言おうとしたところで久瀬さんはスマホの画面を向けてきた。


「この作品、知ってますか?」

「知ってる……けど」

「なんでこれ? って感じですね」


 図星を突かれ、僕は素直に頷いた。


「ふっふっふ……分かってませんね、隠先輩は」

「というと?」

「それは──」


 久瀬さんは自信満々に、その作品を選んだ理由を語ってくれた。


「──なるほど。その考えは僕にはなかったよ!」


 さすがいろんな作品に精通しているだけのことはある。

 素直に感心していると、久瀬さんは嬉しそうに微笑んだ。


「お役に立てたならよかったです!」

「うん、ありがとう久瀬さん。さっそく試してみるよ」

「はい! 頑張ってください! ……って、やばっ、そろそろ電車来ちゃう!」

「あっ、ごめんね引き留めちゃって」

「いえ! 先輩とお話できて嬉しかったです! また学校で!」

「うん、またね」


 僕は駅に向かう久瀬さんに手を振って別れ、ケーキを買って帰路に就く。

 策はあるし、見せるアニメも決まった。

 あとは、安奈が気に入ってくれることを祈るだけ……!

 

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