意外な才能
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「お前さ、実際どう思ってるわけ?」
「どうって、何の話?」
放課後、誘われて立ち寄ったゲームセンター。
格ゲーをやっている最中、隣の筐体で僕と対戦していた坂本くんは急に声をかけてきた。
「昼休みに話した件」
「あぁ、高瀬さんやあ……熱莉さんのこと?」
今日の昼休みは坂本くんと久瀬さんと一緒に中庭にいて、そこで話題にあがったのが2人のことだった。
ちなみに久瀬さんはここにはいない。今日はバイトがあるらしい。
さらにちなみに、今日は安奈は外食するらしく夕飯は必要ないってメッセージが来ていた。
だから夕飯の支度は今日はいらない。僕もこのまま食べて帰るから。
「昼休みにも言ったけど、2人とも僕には高嶺の花だよ。可愛いとは思ってるけど」
「だからそうじゃなくてさぁ……。お前、ホントに分かってないの?」
「そうじゃないって、そういう話じゃなかった……っけ!」
「そういう話もあったけど、このっ……!」
話に気を取られたのか、珍しいタイミングでのコマンドミス!
見逃すわけもなく、僕は一気に畳みかける。
「はいっ……おっけい!」
「だぁッ! ……ちっくしょー」
画面に表示される『You Win』の文字。
「自分から番外戦術を仕掛けておいて、会話に気を取られるなんてね」
「いやだって、お前なぁ」
坂本くんはどこか呆れた様子でため息をつく。
昼休みもそうだったけど、僕はおかしなことは何も言ってないはずなんだけどな。
「あれっ? 隠くんだ!」
「えっ?」
最近特に聞くようになった声。
噂をすれば、というやつだろうか。
「やっほー、ホームルームぶりだね」
「高瀬さん。……と、熱莉さんも」
「ん」
振り返った先では、高瀬さんが笑顔で手を振っている。
その隣では、安奈がスマホ片手にちらりと目線を向けてきた。
「あれ、坂本くんも一緒だ。2人仲いいもんねー」
「あ、どもっす」
微笑みかけられた坂本くんはデレデレしながらぺこぺこと会釈している。
話聞かれてなさそうでかったね、本当に。気まずいから。
「ね、2人はゲームうまいの?」
「うーん、別に普通くらいかな?」
「うまい人はマジで次元が違うんすよ、こういうゲームは特に」
「へー……」
高瀬さんは頷いた後、筐体をしげしげと眺める。
この格ゲーはアニメ調のキャラクターが特徴となっているものだ。
画面に映るキャラクターたちを少しの間眺めた後、高瀬さんは安奈に振り返る。
「ねぇ安奈、やってみようよ!」
「は? やんないけど」
「えー? いいじゃん、私が100円出すからさー」
「なに急に、今まで全然興味なさそうだったじゃん」
驚いたような嫌がっているような、微妙な表情を浮かべる安奈。
一方の高瀬さんはというと、ウキウキで椅子に腰かけていた。
「ほらほら、やろうよ!」
「はぁー……わかった、わかったから……」
深いため息の後、安奈は観念したようで隣の筐体の前に腰かける。
急展開に驚いているのは安奈だけじゃなくて、僕も坂本くんもだ。
行動力の塊……。
なんて思っていると、高瀬さんが体をそらすようにして僕を見る。
「ねぇ隠くん、これどう動かすの?」
「あ、うん。じゃあ最初はトレモ……トレーニングモードでやろっか」
「あ、じゃあ熱莉さんは俺が──」
「別にいい。ここに書いてあるし」
「あ、はい……」
それぞれなんとなく操作方法を理解したところで、店内対戦モードへ。
「手加減しないからねー、安奈」
「はいはい、好きにして」
なんて話している間に、ゲームは始まる。
2人ともぎこちない動きだけど、序盤は高瀬さん有利に進む。
「やっ、えいっ!」
「はっ!? なにこの技……っ!」
高瀬さんが選んだのはいわゆる初心者向けの動かしやすいキャラ。
ヨーヨーを主軸に戦うスタイルで、攻撃のリーチが恐ろしく長い。
一方の安奈が選んだのはゴリゴリの近接特化キャラだ。
間合いに入ってしまえば圧倒的な火力ですべてを破壊できる代わりに、中距離で機能する技はなにもない。
つまりどうなるかというと。
「いえーい、私の勝ちー!」
「ずるでしょそのヨーヨー……! これ、本当に格闘ゲームなわけ?」
「えっと、格ゲーって武器使うキャラ結構いるんすよ……」
鋭く睨みつけてくる安奈に、坂本くんがビビりながらもなだめる。
格ゲーって言葉だけ聞くと素手の格闘を思い浮かべるのかもしれないけど、有名な格ゲーにも腕が伸びたり炎吐いたりするやついるから。
「2先……2本先取だからまだあるよ」
「わかってるから」
余計なことは言うなと言わんばかりの塩対応。
僕は慣れてるからいいけど。
「ふっふっふー。安奈、私に近づけないんじゃない?」
ラウンド2開始早々、高瀬さんは自信満々だ。
安奈の方は、攻めあぐねている……いや、上手くガードしながら距離を詰めてる?
「いい気になる、なっ!」
「えっ、わわっ!?」
「うまい!」
間合いに入った瞬間、まるで爆発したように安奈のキャラが動き出した!
高瀬さんのキャラはリーチが長い攻撃をするけど、代わりに後隙……いわゆる技後硬直が長い。
その隙を逃さず踏み込んで──ひたすらガチャガチャ動かしてるけど、この距離で初心者対決なら……。
「はい、私の勝ちー。誰が近づけないって?」
「うっ、うー……なんか一気にやられちゃったー……」
がっくしとうなだれる高瀬さんに対し、安奈はいつも通り──に見えて、ちょっとだけ表情が緩んでいる。
「っ……なに?」
「あ、いや。なんでも」
目ざとく僕の視線に気づいて、安奈は睨みつけてくる。
それはそうと。
「ほら、ラスト始まるよ」
ラウンド3で決着だ。
2人がまた画面に向き合うのを見てから、坂本くんに声をかける。
「なんか意外と動かせてるね、2人とも」
「だなー。アケコンの操作って難しいんだけどな……」
意外な才能なのかもしれない。
今度安奈にアケコン貸して家で格ゲーやらせてみようかな……。
これまでゲームもアニメもほとんど触れてこなかった安奈ですが、意外にも格ゲーの才能があるようで。
彼女は手先が器用というか、編み物やパッチワークが好きというのが第6話にて語られていました。
それ自体は才能とは違うものですけど、やっぱり手先が器用な人はなにをやらせても卒なくこなすイメージがあります。




