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カースト上位のダウナーギャル

本作品はカクヨムにも投稿しています。

「ふあ、あ……」


 よく晴れた春の朝、教室の机で僕──なばり千尋ちひろは眠気をこらえながら目を擦っていた。

 すると、クラスメイトの1人が寄って来る。


「よっす、隠。眠そうじゃん」

「おはよ、坂本くん」


 黒髪眼鏡で同じ趣味を持つクラスメイト、坂本さかもとだ。


「昨日遅くまで配信見ててさ」

「ロキちゃん?」

「そう」

「俺も見たてわ。新衣装の告知びっくりしたわー」


 ロキちゃんというのは最近ハマっているVtuberで、金髪褐色肌のギャルの女の子だ。

 よく笑うリアクションの良い女の子で、見ていて楽しい気分になれる配信者だ。

 

 そして同じ趣味というのはいわゆるオタク趣味で、僕も坂本くんもVtuberやアニメや漫画、ゲームが好きだ。

 まぁいわゆる陰キャに分類される身ではある。


「新衣装のシルエット、制服っぽいとか言われてるけどどう思う?」

「それ新衣装告知のたびに毎回言われてるやつでしょ?」

「そうだけどさ、制服よくね? オタクに優しいギャルのクラスメイトとか最高じゃん」

「たしかにね」

「現実にはいないけど」

「そうだねー」

「はー……現実にもいたらいいのになぁ、オタクに優しいギャル」

「分かる。けどギャル自体ほとんど見かけない存在だからね。希少な存在同士を掛け合わせたような存在が、そうそういるわけないんだ」

「まぁな? このクラスだってギャルっぽいやつはー……」


 坂本くんはそこまで言うと、声をひそめて教室の一角をちらりと見る。


「熱莉くらいだろ」

「あ……熱莉さんが?」


 僕も声をひそめながら、坂本くんの目線を追った。


 ──長く伸ばした金髪に、大きな琥珀色の瞳。

 スカートの裾は短めで、すらっと細く長い脚が惜しげもなく晒されている。


 そんな派手な容姿を持つのが、クラスメイトの熱莉ほとぼり安奈あんなだ。

 たしかに彼女は金髪美少女という点においては、ステレオタイプなギャルの要素を一部持っている。

 とはいえ。


「ギャルってタイプじゃないんじゃない?」


 言いながら、僕は彼女と周囲を取り巻くクラスメイトたちの会話に耳をすませる。


「熱莉ー、今日カラオケいかね? 小堀こぼりがクーポン持ってんだってさ」

「あー……ごめん、パス。私まだ明日までの数学の課題終わってないんだよね」

「はぁー? そんなの授業中にパパっとやっちまえよー」

「いや、アンタ前に内職バレて怒られたばっかじゃん」


 声色は低めというか、淡々としている。

 さらに琥珀色の瞳は気だるげに細められていて、どっちかっていうと──。


「ダウナー系じゃ?」

「ばっか、そこだよ。ダウナーギャルだよダウナーギャル」

「……ダウナーギャルってギャルなの? そもそもギャルの定義ってなに?」

「考えるな隠。感じろ。時代は多様性だ。明るくて溌剌としてないギャルがいたっていいじゃないか。一人称がウチじゃない、ノリが軽くないギャルがいたっていいじゃないか」

「キミがなんでもいいだけでしょ、それ」

「バレたか」


 開き直る坂本くんに呆れながら、僕はもう一度彼女に目を向ける。

 いわゆる陽キャグループの中にいて、その容姿から男女問わず人気──というか、目立つ存在。


 たしかにそんな存在がオタクに優しかったり、自分自身もオタク趣味を持ってたり。

 そういうギャップがウケてるのが、オタクに優しいギャルというものだけど。


「……まぁ、そんな存在が都合よくいるわけないんだよね」


 なんて呟くと、ちょうど予鈴のチャイムが鳴った。

 そうしてHR,1時間目、2時間目と退屈な学校生活は進んで行く。

 特に大きな出来事もなく時間は流れていき、あっという間に──。





 ──放課後、買い物をして帰ると時間はもう17時をすぎていた。


 なばりは仕事の都合で両親が家を空けがちだ。

 だから家事はほとんど僕がやっている。


「ただいまー」


 シーンとした玄関を通り、リビングの扉を開ける。

 すると。


「おかえり」


 そんな言葉を投げてきた人物は、リビングのソファに寝ころびながらスマホをいじっている。

長い金髪に、気だるげに細められた琥珀色の瞳。

 短めのスカートから伸びる細い足。

クラス内カースト上位の存在──熱莉安奈がそこにはいた。


「な……!? なんで熱莉さんがここに!?」















──みたいな展開にはならない。


「ただいま、安奈」

「今日の夜ご飯、なに?」

「グラタン。食べたいって言ってたでしょ?」

「……そんなこと言った覚えないけど」


 露骨に目をそらす安奈に、僕は思わず苦笑する。


「……なに?」

「別に。変わらないな、って思っただけ」

「幼馴染面うざっ……キモいんだけど」

「昔はあーちゃん、ちーちゃんって呼び合った仲なのになぁ」

「きっも。それ絶対学校で言わないでよ、キモいから」

「言わない言わない。……言ったら僕の身が危うくなるよ」

 

 そう。僕らはいわゆる幼馴染であり、お隣さんでもある。

 僕の両親が家を空けがちなように、安奈の両親も仕事の関係でほとんど家にいない。

 

 昔はまだ僕の両親が今より家にいる時間が長かったのと、両親同士の付き合いが長いということもあって安奈はよく隠家に来ていた。


 だから安奈はほとんど毎晩、隠家で夕飯を食べていく。

 そんな関係が、今でも続いていた。

 高校ではそのことは内緒にしてるし、知ってる人はほとんどいないけど。


「そういえば、数学の課題終わらせたの?」

「……まだだけど」

「それを理由にカラオケ断ったんでしょ? とっととやっちゃいなよ」

「は? 盗み聞き? キモ」

「せっかく気遣ってあげたのに……」


 盗み聞きのようなことをしてたのは事実だから、そこは否定しない。


「別に、あんなのすぐ終わるから食べた後でいいの」

「なんだ、じゃあカラオケ行けばよかったのに」

「理由が欲しかっただけ。私、別にそこまでカラオケ好きなわけじゃないし」

「嘘だぁ。友達とよく行ってるでしょ」

「……今日は小堀が来るから断っただけ。アイツ、目線がキモイんだよね。足ジロジロ見てんのバレバレなんだって」


 言いながら、安奈は寝転がったまま足をふらふら揺らす。

 ……その短いスカートで生足晒してるのが悪いんじゃないか?


「……なに、その目」

「いや別に」


 首を振って、僕は買ってきたものを冷蔵庫に入れて2階の自室に引っ込むことにした。

 少しして夕飯を作り始めようと降りてくると、まだ安奈はソファで寝ころんでいる。


 僕が料理を始めてもそれは変わらず、手伝ってくれるということもない。

 慣れてるし、期待もしてないから僕もなにも言わないけど。


 しばらくして料理が揃うと、やっと安奈は起き出した。


「さ、食べよ」

「ありがと。いただきます」

「いただきます」


 まだ熱いグラタンをスプーンで取って口に運ぶ。

 うん。久しぶりに作ったけど上手くできたと思う。


「……」


 対面の安奈はいつも通り無言だけど、パクパク食べ進めてるから大丈夫だろう。


「そうだ。千尋、数学の課題終わってる?」

「ん? 終わってるけど」

「食べ終わったら見せて」

「……すぐ終わるってそういうこと?」


 クラスメイトに「内職バレて怒られたじゃん」みたいなこと言ってたけど、自分でやってた分その人の方がまだマシだよ。


「いいけどさ。間違ってても文句言わないでよ?」

「言わないよ。さすがに」


 呆れたように言うと、安奈はグラタンを食べるのを再開する。

 僕もそうすると、ふと脳裏に坂本くんの言葉がよぎった。



──オタクに優しいギャルのクラスメイトって最高じゃん?

──現実には絶対いないけど。



 ……たしかにオタクに優しいギャルはいない。

 日本のどこかには一定数いるのかもしれないけど、少なくとも僕の身近にはいない。

 けど、僕の目の前にギャルはいる。


 Vtuberのロキちゃんみたいに、明るくてリアクションが良くてオタクに優しいわけじゃないけど。

 いつも気だるげで誰に対しても淡々と応じるけど、クラス内カースト上位で僕みたいなオタクとは全然違う立ち位置にいるダウナーギャルが。


 オタクに優しいギャルはいない。

 けど、オタクに優しいギャルは──作れるんじゃないか?

 たとえそれが明るくてパリピで「ウェーイ」とか言うステレオタイプのギャルじゃなくても、オタクに優しいダウナーギャルは「オタクに優しいギャル」なんじゃないか?


 そこまで考えて、僕の頭に1つの言葉が浮かんで来た。

 「オタクに優しいギャル育成計画」──目の前のダウナーギャルをオタクにすれば、もしかしてオタクに優しいギャルを現実の存在にすることができるんじゃ──!?


「ねぇ……いきなりニヤニヤしだしてなに? キモいんだけど」


 ──ダメだ、オタクにどうこう以前に素が優しくない。


 どうやら計画は前途多難らしい……。

こちらでは初めまして、天音兎です!

あらすじ等にも記載がある通り、この作品は現在「カクヨム」にて既に投稿済みの作品になります。

まとめて執筆済みの話を投稿した後は、カクヨムとの同時投稿になりますので、今度もぜひよろしくお願いします!

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