王子軍の行軍
戦場は片付いた。
瓦礫と煙の匂いがまだ漂う中、俺たちは帰還のための行軍を始めた。
傷だらけの仲間たちが列をなすが、王子だけは悠然と先頭を歩く。
「足を引っ張るなよ。俺の後ろを歩けるだけでも光栄だと思え」
オレンが苦笑しながら、声を潜めてチェリオに囁く。
「……あの調子だ。まるで自分ひとりで勝ったみたいに言いやがる」
チェリオは肩をすくめ、こっそりグラパをつついた。
「でも、実際そうなんだろ? あの人がいなきゃ、俺たち全員……」
グラパは黙ってうなずく。大柄な体を揺らしながら、王子の背中を見つめていた。
その時、前方から風を裂くような気配が迫った。
荒野の向こうに、黒い影が立ちはだかる。
鎧をまとった敵兵の残党――いや、ただの敗残兵ではない。
その中心に立つのは、漆黒の仮面をかぶった巨漢だった。
カイが思わず息を呑む。
「……まだ生き残りがいたのか」
王子は一瞥しただけで、薄く笑った。
「ほう。ようやく退屈しのぎが現れたな」
仲間たちが慌てて身構える中、王子は一歩前に出た。
その足音に、砂塵が小さく震える。
「お前らは下がっていろ。これは俺がやる」
誰も逆らえなかった。
次の瞬間、王子と仮面の巨漢の間で――
再び、戦場を揺るがす衝突が始まろうとしていた。