表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/3

第一話:転生と破産と、紅茶の値段~"損失回避"~(後編)

王都へ戻る馬車の中、リィナは何度も俺を見た。

疑うように、苛立つように、そして――ほんの少しだけ、期待するように。



王都セランティア。レヴィン商会の本店跡は、閑散としていた。


かつては各地から商人が訪れた栄華の象徴も、今では傷んだ看板と積まれた未売の紅茶樽があるばかり。


「……この在庫、もうどこにも置いてもらえないのよ」

「そうだろうな。高級品って評判だったぶん、“売れ残った”と知れた時点で印象は最悪だ」


「じゃあ、どうするつもり? 値段を下げて安売りでもする? それで赤字を減らす?」


「――逆だよ」


俺はにやりと笑い、指を一本立てた。


「値段は上げる。そして、“もうすぐなくなる”と騒ぐ」


「……は?」


「この紅茶を買わないと損をする。――そう思わせれば、誰だって財布を開く。

なぜなら、人は“得をすること”より“損を避けること”に本能的に反応するんだ。これを『損失回避』って言う」


俺は、店先に看板を出した。



【告知】


王都セランティア・レヴィン商会、最終販売。

『幻のブレンド紅茶・父娘の遺作』――残り27樽。


※この在庫を売り切った後、レシピは封印予定。二度と手に入りません。


「最後の一杯を、今あなたに。」



さらに裏工作で、城下の喫茶店に“古参客”を装った男たちを送り込む。


「おい、聞いたか? あのレヴィン商会の紅茶がもう出回らなくなるってよ」

「何だって!? 一度飲みたかったのに……! どこにある? どこで買える!?」


市場心理を操作するのは、まさにマーケティング戦の初歩中の初歩。

だが、この世界には“心”を操る商法が体系化されていないらしい。つまり――やりたい放題だ。



「きゃあっ、押さないでください!」

「俺に三樽売ってくれ!」

「あと何樽残ってる!? 早くしろ、今すぐ金を出す!」


開店直後、店の前には長蛇の列。買い占め騒動寸前。

「最後の機会」「買えなければ損」という言葉が、群衆の焦りをあおっていた。


「な、なにこれ……? 何が起きてるの……!?」


困惑するリィナの横で、俺は帳簿を確認する。


「――完売、だな。たった一日で」



「嘘……たった一日で、こんなに……」


リィナは震える手で、受け取った金貨を見つめていた。


「在庫が“売れ残ってた”から、みんな見向きもしなかった。

でも“もう手に入らなくなる”ってわかった途端に、命がけで奪い合う。

……人間の心理って、そういうものなんだよ」


俺はそう言って、馬鹿みたいに笑った。


「蓮……本当に、あなたが……やったの?」


「俺はただ、君の“誇り”を伝えただけだよ」


沈んでいた眼差しに、少しだけ光が戻る。

その横顔に、俺は静かに言葉を投げた。


「次は、君の商会を立て直す番だ。俺の力を使って」


リィナは唇をかみしめた後、ふっと笑った。


「……なんだか、騎士様みたいね。私を救ってくれるなんて」


「違うさ。俺は――」



「騎士じゃない。コンサルタントだ」



こうして、落ちぶれた商会と、異世界転生したコンサルタントの、再起の物語が始まった。


次なる一手は――

価格を操作する心理魔法、“アンカリング”の発動だ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。第1話では「損失回避」という行動経済学の理論を取り上げました。人は利益を得ることよりも、損失を避けることに強く反応する傾向があります。この心理を利用して、主人公は紅茶の在庫を効果的に販売しました。次回は「アンカリング」という概念を用いて、さらなる商会の再建に挑みます。引き続きお楽しみください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なんか、毎回このノリはキツいですね。 同人誌のノリか知りませんけど、 個人的にはウケなかったです。 わざとかもしれませんけど、 ところで、芸能界やアイドル、風俗業界をどう思いますか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ