シオンとナギ 2
翌日俺はナギが吹っ飛ばしたと言う資産家のジジイの家を見に行ったが、広大な敷地内にあったであろう豪邸が跡形もなく消滅していた。
その日の午後どこから聞きつけたのか、ナギの母親が訪ねてきた。
ナギは眠っていたので、俺はナギの母親と近所の喫茶店に行き、コーヒーを頼み向かい合った。
無口な店主が趣味の音楽を大音量でかけているうえ、いつも閑散としていて人に聞かれたくない話をするのに都合が良かった。
「ナギ返しなさいよ。誘拐よ。魔法庁に駆け込んでやってもいいのよ」
「一般人のあんたが行ったところで追い返されるだけだ」
「どういうつもりよ。あんた」
「ジジイにいくらもらった?」
「は?あんたに関係ないでしょ」
「関係ある。いくらもらったんだ?」
女は指で三を示した。
「三億か?」
「まあそんなとこよ」
「じゃあ俺が倍出してやる」
「は?あんた何言ってんの?正気?」
「正気だ」
「あんたもロリコンなわけ?ホント男ってキモチワルイ」
「違う」
「まあでもお金出してくれるって言うんならいいわよ。あのジジイよりお金出せるならあんたでもいいわ」
「その代り条件がある」
「何よ?」
「ナギに二度と近づくな」
「そんなこと?いいわよ。頼まれたってあんな怖い子近づくもんですか」
「後は弁護士に任せる。誓約書も書いてもらうぞ」
「何でも書くわよ。お金貰えるんならね。あー。ホント痛い思いしてあの子生んどいて良かった。まさに金の生る木じゃないの。こんなにお金になるんならもう一人くらい産んでもいいわね」
「勝手にしろ。絶対に二度と会うなよ。一生だぞ」
「わかってるわよ。しかしロックウッドのお坊ちゃまがロリコンとは世も末だわ。あ、でもお家は継げないんですものね。あんただって偉そうにしてたって私達と何にも変わらないじゃないの。どこの馬の骨とも知れない女から生まれたくせに。どれだけ強くなって人より優れてたって、正当な後継者にはなれないんでしょ。生まれが悪いと。可哀想ね貴方」
「ナギの父親は誰だ?」
「安心しなさいよ。あんたとナギは兄妹じゃないわよ」
「そんな心配はしていない。あんなこと人間にできるわけがない」
「そうね、きっとあんたが思ってる通りだと思うわよ。でも私も誰かわかんない。私超美人だからどこにいっても男が放っておかないの。ひょっとしたらホントは唯の人間かも」
「バハムートか?」
「知らないわよ。私の前ではただの顔のいい男だったもの」
「バハムートなんだな?」
「さあ、どうかしら。もう帰ってもいい?」
「ああ」
「じゃあお金楽しみにしてるわね。あのジジイのことも何とかしてね」
「命に別状はなかったから大丈夫だ」
「あら、そうなの?家何にもなくなってたけど。しぶといわね。死ねばよかったのに、あの変態ジジイ」
「その変態に娘を売り飛ばしたんだろお前は」
「そしてそんな女からあんたは娘を買い取るんでしょ。あんたのやってることあのジジイと何にも変わんないわよ」
「そうだな」
「まあいいわよ。私はお金さえ貰えるなら何でもいい。じゃあ帰るわ。ナギのことせいぜい可愛がってあげてね」
この話で唯一つ良かったことはジジイが死ななかったことだった。
ナギの人生における罪悪感にあのジジイがなること、それは許しがたいことだった。