シオンとナギ 4
俺はナギとの婚約と同時に彼女に魔法を教えるようになった。
ナギは膨大な魔力を内に秘めていたが、それをうまく使いこなすことができずにいて、魔法学校の成績は可もなく不可もなく平凡だった。
あのジジイの広大な邸宅を吹き飛ばしたのは恐らく自分の身を守るためだったのだろう、あれ以降彼女の非凡さが垣間見える出来事は一度もなかった。
それは恐らくナギにとって幸いだった。
勿論俺にとっても。
眠くなるような穏やかな時間だけが過ぎていき、俺はナギといる当初の目的が何だったのかさえ分からなくなりそうだった。
そんな時だった。
久しぶりにあの女、ナギの母親が俺の前に姿を現した。
「久しぶりね。七年ぶりかしら?大人になったわねぇ。いくつになったの?」
「二十四だ。何しに来た?」
「何って、ちょっと世間話しに来ただけですよ。シオンお坊ちゃま」
「金か?」
「察しがいいわね。お坊ちゃん。まあそうね」
俺は自宅にこの女を入れるのが嫌だったので、二人で七年前と同じ近所の喫茶店へ行き、店の一番奥で、コーヒーを頼み向かい合った。
相変わらず客はいなくて、音楽は大音量という素晴らしい店で、店主は七年前がまるで昨日のように変わりなかった。
「店内は暖かいわね。最近寒くて嫌になるわね。それにしても七年たってもこのお店あるのね。お客さん全然いないけど普段は流行ってるの?」
「知るか。いくらいるんだ?」
「五十億」
「それに見合う世間話なんだろうな」
「ねえ、私あんたの義理の母親になるのよ。おかあさまに、そんな口聞いていいわけ?」
「わかった。払わせていただく。これでいいか」
「そう素直ね。ありがとう」
「ナギのことか?」
「そりゃそうでしょ。あんたと私でナギ以外のこと何で話すのよ」
「さっさと言え」
「だから、そんな口聞いていいの?私がいなかったらナギはこの世に生まれていないのよ。もうちょっと私に感謝しなさいよ。欲しいんでしょ?バハムートが」
「ナギの父親は本当にバハムートなんだな?」
「知ってたくせに何よ。そのために婚約したんでしょ。離婚までして」
「離婚はナギとは関係ない。それだけを言いに来たのか?」
「まさか。それで五十億は高いでしょ。違うわよ。いいこと教えてあげようと思って」
「いいこと?」
「あんたが泣いて喜ぶような情報よ」
「泣いて喜ぶ?」
「バハムートを手に入れたいんでしょう?」
「ああ」
「あんた達魔法騎士は倒した悪魔を僕として使役できるんでしょう?」
「ああ」
「バハムートなんて最上級悪魔手に入れられたら貴方凄いわね。史上最高、それこそ嫡男を差し置いてロックウッドのお家継げるんじゃないの?」
「それはない。俺は国王陛下に謁見できない」
「そうね。そうだったわね。生まれが悪いと苦労するわね。お互い」
「そうだな」
「ねえ、ケーキ食べていい?お腹空いちゃって」
「好きにしろ。奴は今何処にいる?」
「さあ、知らない」
「小出しにして金をずっとせびり続ける気か?」
「本当に失礼ね。私あんたとそんなに年変わらないけど年上なのよ。敬いなさいよ。あんたがゲロ吐くほど欲しがってるバハムートの娘の母親なのよ」
「わかった、以後気を付ける」
「ガトーショコラとレアチーズケーキとアップルパイと、苺のショートケーキにしようっと」
「そんなに食べられるのか?」
「お腹空いてるって言ったでしょ」




