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前世のパパは同級生(虫が湧く。2)  作者: 青風ぱふぃん


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13/20

13. 前世はなくせない

 前世。

 私は山奥で生きていた。


 その山には山神様がいた。

 大きな大きな岩で……。

 私の親だった。


 山神様は数年に一度、冬の新月の夜に沢山の卵を産み、夏の満月の夜にその卵が一斉に孵化する。


 白い月の光の中、岩陰にみっちりと並ぶ、高さ五尺余り(150cm以上)の縦長の、数十もある白い卵。

 薄く透ける殻の内側で、蠢く人影。

 やがて、くちり、という湿った音とともに、その殻を破って、滑らかな白い腕が天を突くように伸びる。


 くちり。くちゃっ、くちり。

 何本も、何本も。


 月の光を映して白銀に輝きながら、ぬるりとした汁に濡れた白い裸体の女性が次々と姿を現す。


 私は山神様の岩の上で、その様を見下ろす。


「……姉様あねさま

 ひとりが私に笑いかけると、他の者たちも一斉に、姉様、姉様と私に笑いかける。


 同じ山神様から生まれた、私の可愛い妹たち。


 私がひとつ頷くと、妹たちはふらりと、四方八方に歩き出す。


 私は知っている。

 この大半は山に迷い、崖を滑落し、また獣に食われ、……まれに、出会でくわした人間に『化け物』として殺され。


 戻ってくるのは多くてひとりかふたりだ。


 だが、それによって山神様の力は満遍なく山に行き渡る。


 そして、上手く人の集落を見つけて戻って来る者がいれば、それは……。


 山神様の餌が手に入るということだ。


   *   *   *


姉様あねさま!」

 今生まれたばかりの妹は、ぴょん、と岩を飛び降り、私のもとに駆けてくる。


 私はその手を借りて、ふらふらしながらもなんとか立ち上がる。

 妹は、山の草木で染めた、落ち着いた黄色の小袖を着ている。妹と言いながら、私よりよほど背が高く、歳も上に見える。


「記憶が……戻ったのか……?」

 不空ふくうが弱ってなお、未だ拘束の解けない後見人が、呟くように言う。


「……そうだね。ボクが、人を喰らう、化け物だったって事をね」

「『ボク』……ですか」

 一反木綿が紐で括られたままぽつりと言う。前世で使っていた一人称だ。私はわざとそれを使って聞かせた。


「違うよ、おヒメちゃん!! おヒメちゃんは化け物じゃない、人間だよ!!」

 シキが慌てて言うが、私はフッと鼻で笑う。


「今はね。今はそうかもだけどさ」

「今も昔も人だってば!」


 シキが何を言っても私の心には響かない。


「思い出したかあやかし。自分がいかにたちの悪い人喰いの化け物だったかを」

 不空が嘲笑う。

 皮肉なことに、こっちの言葉のほうがすんなり耳に入ってくる。


 不空は黒服たちに引き摺られるようにして岩から引き離され、これも満身創痍の黒服たちと共に砂利にへたり込んだまま、こちらを睨んでいる。


「そのざまで粋がるじゃん」

 私はケラケラと嘲笑い返し、

「まあ……、そうだね。本当にねぇ」

 と、がりがりと頭を掻き、髮を後ろに掻き上げる。


「てもねえ、悪かったって思えないんだ。なんで山神様にヒトを喰わせちゃいけないの? 人間だって、ペットのトカゲにネズミをあげたりするじゃない。ネズミは良くて、なんでヒトはいけないの?」


「人間を喰われて、人間が怒らないと思っているのか君は」


「じゃあ、ネズミが怒って攻撃してきても、あんたは黙ってやられるままになるの?」


「屁理屈だな。私がネズミを食わせたわけではない」


「それを言うなら、ボクだってボクがヒトを殺して喰わせたわけじゃない。ボクにとって山神様は唯一の大事な親で、ボクはその親の獲物の群れを探しただけ。ヒトを襲って喰ってたのは山神様で、その山神様は……」

 怒りを抑えるために、私は、ふう、と一息、間を置いた。


「……お前たちが殺した。……ねえ、それ以上何が欲しいのさ」


   *   *   *


 激情の波が溢れて止まらず、爆発してしまいそうだ。

 叫び出しそうな衝動をひたすら抑え、私はただそこに立ち尽くす。


 その私の唇に、そっと指が添えられた。


「おヒメちゃん、おヒメちゃん、そんなに噛んだら唇が切れちゃうよ。もう良いから。もう大丈夫だからね、ボクが居るから、パパが居るからね」


 気がついたら、私はシキに抱きしめられていた。


 いつの間にかボロボロと泣いていたらしく、私の涙がシキの服を濡らしている。


「……離してよ」

 私は目元を拭いながらグイッとシキを押し返す。


「シキがパパだなんて実感ない。前世は山神様が、今世はおとうさんが親だもん」


「えっ! そこんとこの記憶戻ってないの?」


「戻ったよ! あんた前世も今世も私が散々大きくなってからヒョコッと現れて、ととさまだよーって、バカじゃないの!?」


「ヒィッ」

 シキが情けない悲鳴を上げる。


「事情が! 事情があるんだって!」

「事情なんて知らないよ!」

「ううー、それはそう! いや、ごめんってえ。これだけは信じて! 捨てたわけじゃない、片時も忘れたことはないんだよ!」


「……ふんっ」


 私は怒っているような照れくさいような複雑な気持ちでそっぽを向く。


 パチ、パチ、パチ。

 そこへ、ゆっくりと手を叩く音が響いた。


「……妖が人の真似をして親子ごっこかい、素晴らしいね」

 嫌味に笑いながら、不空が大げさに拍手をしてみせている。


「まあ、もし万が一、仮に人だとしたら尚更、人が人を化け物に喰わせるなんて、より一層非道だというだけなんだがね。人間はそんな事をしないものだよ」


 不空の言葉に、ん? とシキが首を傾げる。


「ボクが人として生まれて人の里で育ってた小さい頃には、狐憑きの家の子って言われて大人から死ぬほど暴行され続けてたんだけど、それは非道じゃないの?」


 そのシキの言葉を、不空はフッと鼻で笑う。

「そんなことは私の知るところではないね。お前は妖だ、だからだろう」


「見たいものしか見ないんだねえ」

 シキは肩を竦める。

「『人間は』みたいに主語をでかくするから、こんな人間も居るけど? みたいに反論してみたんだけど、自分の知らない事は全部例外扱いかぁ」


「子どもに暴力? なにそれ……」

 私が呆れて言うと、シキは、あはは、と笑い飛ばした。


「おヒメちゃんは記憶が戻っても感性がまだ微妙に現代人のままなんだねえ。圧政に喘ぐ昔の農村では、不満の捌け口が必要だったんだ。……ボクは死なないからね、都合が良かったんでしょ」


 シキは懐かしむような口調で、他人事のように言う。


「当時ボクの住んでたあたりは、どの村にもそういう家が一軒くらいはあったイメージだなぁ」


「死なない段階で妖だろう」

 不空が言う。


「そうそう! 村のみんなもそう言ってた!」

 ケラケラとシキは笑う。笑い話じゃない気がするけどなぁ。


「村で嫌なことがあるとねえ、肥溜めに漬けた草履を、ボクらの家の屋根に投げつけるんだ。意味が全然わかんないよね」


「いや本当に意味がわからない……」

「だよねえ?」

 私の呟きにシキが大げさに同意する。


「村の悪い事、厄や怨念なんかをうち一軒に集約させてるつもりなんだろうね。……そして、そんな扱いを受けている家なのに、供物を持って頭を下げに来る奴がたまにいるんだ、どうしてだと思う?」

「えっ?? わかんない」


「……憎い相手を呪殺するよう依頼に来るんだよ」

 ボクらは狐憑きだからね、祟るよ、とシキはにやりと笑った。


   *   *   *


 木の葉を鳴らして、お寺の境内に一陣の風が吹き抜ける。

 色とりどりの花が浮かんだ手水鉢が、水面を花ごとゆらりと揺らす。


 境内の池が、パチャン、と水音を立てた。


 シキの言葉にぽかんとした私は、その意味を把握してやっと声を上げる。

 

「怖い!」

 叫ぶとともに、数歩後ろに下がる。


「狐使いか」

 不空がふっと笑い、

「そういう家だからそういう扱いなんだろう」

 と吐き捨てる。


 そんな不空をシキは冷たい目で見つめ、

「………………はいはい、そうだね」

 と呆れたようにため息を吐く。


「まあ、病魔を祓ったり厄除けのまじないをしたりもしたからね、さげすまれつつおそれられるって言う謎の立ち位置だったね、面白いでしょ」


 いや面白くはない。

 そんなイジメみたいなことは良くない。


「ボクにしたみたいな強すぎる暴力は流石に珍しかったみたいだけどねえ、家が途絶えたら困るからさ。……崖から落ちたボクが棺桶の蓋を開けて出てきたのがマズかったんだろうね」

「はい!?」

 びっくりしすぎて声出た。え、一回死んだってこと!?


「アレはおもろかったですな」

 一反木綿が口を挟む。

「そこまではしんみりしたご葬儀やったのに、まわりの人らがひっくり返るわ逃げ出すわ大騒ぎで、シキはんご本人も、何が起こったか分からへんようでしたもんな。たまたま通りがかって見学できて、運が良かったですわ」


「腹立つなあ一反木綿。その後のボクがボコボコにされてんのも、助ける気もなく見てたんだろ?」


「あんなおもろいもん、中断させるわけな……、いやいや! 木綿ゆうはん、その目やめて! 人の営みにはなるべく干渉せぇへんようにするんは、世の大妖の基本方針でっせ!」

「ちょいちょい干渉してるくせに」

「気まぐれなのも大妖やで」

「都合のいい方針だなぁ」

 当時を恨む様子もなく、シキは笑う。


 そこへ、ふん、と不快げな声が差し込まれた。

 皆が目を向けた中、不空は続けて、

「うだうだと人を殺める言い訳をしているんじゃない。つまり、お前は人の腹を借りて生まれてきた、妖ということだろう」

 と吐き捨てる。


「……何を聞いてそうなるのさ」

「……頭が固うて困りますなぁ」

 シキと一反木綿がうんざりとした声を上げた。


「ろくに動けもしないくせにさ。もう一回、今度はちゃんと魂の殻を割ってやろうか」


 空気がピリッとしたその時。


 不意に、静かに俯いていた後見人が顔を上げた。


「……ニカ」

 苦いものを吐き出すように、後見人が誰かの名を呼ぶ。


「お前、思い出したのか?」


「あ……」

 少し躊躇ってから、私は小さくこくりと頷く。


「思い出したよ、虚空こくう


「ニカ……」


「あ、でも全部じゃないの。……ニカって誰?」


「………………はああぁぁあ!?」


 後見人……虚空が怒ったような大声を上げ、一反木綿が紐に括られたまま、のたうち回って大笑いをした。

 ここまでお読みいただいてありがとうございます!


 狐憑きの家の話は東北出身のばあちゃんの話を参考にアレンジしてます。


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 次もよろしくお願いします!

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