第二部 第35話 星の残響
虚空を駆け抜けたアルトは、青い光の渦に包まれながら漂っていた。
そこは時間も空間も意味を失った、無数の「未来」が交差する狭間だった。
耳に響いたのは、低く脈動するような鼓動。
――ルナの涙が彼に問いかけていた。
『お前は何を望む? 奪うのか、守るのか。
未来を“盗む”とは、どういうことだ。』
アルトはふっと笑みを漏らした。
「俺は盗賊だ。正義の味方でも王でもない。ただ……
仲間の涙と笑顔を、誰にも奪わせないようにする。
それが俺にとっての“未来を盗む”ってことさ。」
青い光が共鳴するように脈打ち、虚空の影が次々と崩れていく。
そのとき、彼の目の前に幻影が浮かび上がった。
――セシリアが微笑んでいる。
――ファントムが背を向けながらも、わずかに手を差し伸べている。
――そして、幼い日の自分自身が、星空の下で願いを呟いていた。
「……誰かの未来を、守りたい。」
その瞬間、虚空が砕け散り、アルトは眩い光に包まれて現実へと引き戻された。
*
目を開けると、そこは砂漠の夜明けだった。
セシリアが駆け寄ってきて、その胸に飛び込む。
「アルトっ! 本当に帰ってきたのね……!」
彼女の声が震えていた。
アルトは笑って彼女の肩に手を置く。
「ああ。ただいま。ちょっと未来から、星の欠片を盗んできた。」
彼の手の中には、砕け散ったルナの涙の一部が輝いていた。
その光は夜明けの空に反射し、まるで星の残響のように広がっていく。
ファントムが腕を組んで言った。
「……どうやら、次の物語が始まりそうだな。」
アルトは小さく頷く。
「まだ終わりじゃない。俺たちの未来は、これからだ。」
そして、砂漠に昇る太陽が、彼らの影を長く伸ばしていった。




