第二部 第29話―ヴェイルの仮面
光が収束すると、広間の中心に二つの影が対峙していた。
ひとりは青白い輝きを纏ったファントム。
もうひとりは、黒い仮面の奥から光の欠片を掲げるヴェイルだった。
「……やはり目覚めたか、器よ。」
ヴェイルの声は冷ややかで、しかしどこか哀しみを帯びていた。
ファントムは青い結晶を握りしめ、声を張り上げた。
「私は“器”じゃない! 過去を奪われ、使命を押し付けられる存在でもない!」
ヴェイルはゆっくりと仮面を外し始めた。
現れたのは、歳月に刻まれた傷だらけの顔――かつて財団の研究主任であり、ルナの涙の秘密を追った人物、ドレイヴンだった。
アルトの目が細められる。
「お前……死んだと聞かされていた。」
「死んだも同然だ。財団に裏切られ、我が身も仲間も実験の犠牲となった。」
ドレイヴンは苦笑した。
「だがな……私は知ったのだ。“ルナの涙”がただの結晶ではなく、契約そのものを繋ぐ“心臓”だということを。」
ファントムの青光が揺れる。
「契約……?」
ドレイヴンは頷く。
「太古、人類は異星の民と契約を交わした。『涙』を持つ者は、その秩序を継承し続ける――だが人はそれを忘れ、力だけを求めた。」
アルトは短く息を吐き、ヴェイルを睨む。
「だからお前はその契約を取り戻すつもりか? そのためにファントムを“器”にしようとしている?」
「違う!」
ドレイヴンは声を荒げた。
「私は彼女を解放したい。だが、そのためには“選ばれし者”が結晶を解読し、記録を開かなければならない。」
沈黙。
青光に包まれた広間で、三人の視線が交錯する。
ファントムは震える手を胸に当て、低く呟いた。
「……なら、選ばれるのは私ではなく、アルトだ。」
アルトの瞳が驚きに揺れる。
「俺……?」
「盗む者の目を持つあなただからこそ、真実を“盗み出す”ことができる。」
ファントムはそう言って微笑んだ。
その瞬間、ルナの涙の二つの欠片が共鳴し合い、広間全体が青と黒の光に包まれた。
ドレイヴンの声が響く。
「選べ、アルト! お前が開くのだ――封じられた“契約の記録”を!」
アルトは欠片に手を伸ばした。
その先に待つのは、人類の真実か、それともさらなる闇か。




