第二部 第28話― 囚われた記憶
目を開けると、そこは見覚えのない石造りの回廊だった。
青白い光が壁を脈動し、床には古代文字のような紋様が浮かんでいる。
アルトは身を起こし、あたりを見回した。
「……セシリア! ファントム!」
返事はなかった。だが、回廊の先から低く響く声がした。
――お前はまだ、選べていない。
その声に導かれるように進むと、やがて広間に出た。
そこではファントムが膝をつき、目を覆うように俯いていた。
彼女の背後には、白衣の男たちが並んでいる。
「……見せられているのか」
アルトは呟いた。
白衣の男の一人が口を開く。
「対象F‐07、実験は失敗だ。だが“異質な共鳴”がある。次の段階へ進め」
ファントムの肩が震えた。
幼い頃の彼女が、拘束具に縛られ、冷たい実験台に横たわっている。
淡い青い結晶――ルナの涙の欠片が胸に押し当てられ、光が走った。
「やめろ……! あれ以上は……!」
ファントムは幻影に叫んだ。だが声は届かない。
アルトは歩み寄り、彼女の肩に手を置いた。
「これはお前の記憶……だけど、幻だ。飲み込まれるな」
ファントムの瞳がかすかに揺れ、アルトを見た。
「アルト……私は、あのとき、仲間を……」
広間の幻影が揺らぐ。
失敗した実験の犠牲者たち、倒れていく幼き子供たちの姿が現れた。
その中心に、ひときわ強い青光を放つ結晶が浮かんでいる。
「……模造品じゃない、本物の欠片……!」
アルトは息を呑んだ。
すると、幻影の奥から声が響いた。
「ファントム、戻れ。我らと共に使命を果たせ。お前は“器”なのだから」
闇の中から、仮面をつけた影――《ヴェイル》が現れた。
その手には、また別のルナの涙の欠片が握られていた。
ファントムは唇を噛み、アルトの手を振りほどく。
「私が……“器”だというのなら……」
次の瞬間、彼女の身体から青い光が奔った。
「私自身で決める……! この力を、誰にも利用させない!」
その宣言とともに、幻影が砕け散り、広間が激しい光に包まれていく。
――やがて現れるのは、真実か、それともさらなる罠か。
物語は、さらに深くルナの涙の核心へ迫っていく。




