第二部 第23話―核心の間 ―
石扉を抜けた先は、予想を超える静寂の空間だった。
天井は見えず、無数の光粒が星のように漂っている。
床は鏡のように滑らかで、歩くたびに青い波紋が広がった。
その中央に――蒼く脈動する巨大な結晶が浮かんでいた。
〈ルナの涙〉の本体。
アルトの手に収めた欠片が共鳴し、強く光を放つ。
「……これが、始まりであり終わり。」
ファントムが呟いた声は震えていた。
アルトは一歩前へ進む。
結晶に触れた瞬間、視界が弾け飛ぶ。
――光の奔流。
――声なき声。
目の前に広がったのは、太古の記憶だった。
大地を焦がす黒い炎。
空を覆う無数の艦影。
そして地上に降り立つ異星の使者と、人類の王。
「これは……契約の記録?」
アルトの声が、光の中に吸い込まれる。
『我らは、この星を守護する。』
『だがその代償に、人類は“鍵”を継承せよ。』
使者の声が響く。
彼の手には今と同じ蒼い結晶――〈ルナの涙〉。
『選ばれし者が現れるとき、扉は再び開かれる。』
『その時、人は……試されるのだ。』
場面が移り変わる。
かつての王は結晶を胸に抱き、血で刻まれた紋章を掲げる。
契約は永遠の誓いとなり、時代を超えて受け継がれた。
やがて光景は終わりを告げ、アルトは膝をついて荒い息を吐いた。
胸の奥で結晶が熱を帯びる。
「……つまり、俺は“選ばれた者”ってわけか。」
ファントムは沈黙していた。
しかし仮面の奥の瞳は、わずかに揺らいでいる。
「扉は開かれる。だが、その先にあるのは救済か、破滅か……。」
彼女は低く告げる。
そのとき、空間に再び震動が走った。
結晶の光が強まり、まるで意思を持つかのように揺らめく。
「――来るぞ。」
アルトが息を呑む。
影が現れた。
黒い霧のような存在が結晶を包み込み、空間を歪ませていく。
それは〈深淵の意志〉の断片――かつて封じられた災厄そのものだった。
「結晶が……呼び寄せてるの?」
ファントムの声が震える。
アルトは短剣を構え直し、前を見据えた。
「なら、守り抜くしかねぇだろ。」
――選ばれし者の使命が、いま試されようとしていた。




