第二部 第22話―石門の迷宮 ― 守護者の咆哮
石像の巨人が一歩踏み出すたびに、迷宮全体が震えた。
砕けた床から青い火花が散り、空気は焼け焦げたような熱を帯びる。
胸部に埋め込まれた〈ルナの涙〉の欠片が脈動し、守護者の瞳がさらに輝きを増していった。
「……やっぱり簡単には通してくれねぇか。」
アルトは短剣を抜き、低く身を構える。
「その欠片を解放しない限り、倒すことはできないわ。」
ファントムが鋭く呟いた。
彼女の仮面に映る青炎は、まるで挑発するように揺らめいている。
守護者が腕を振り下ろした。
大気が悲鳴を上げ、石の拳が床を粉砕する。
二人は反射的に飛び退いたが、衝撃波に煽られて壁に叩きつけられる。
「ぐっ……!」
アルトが息を詰めた瞬間、守護者の掌から光の刃が放たれた。
「伏せて!」
ファントムがアルトを引き寄せ、仮面に隠された表情で必死に叫ぶ。
刃はすぐ背後を切り裂き、石壁を貫いて霧へと消えた。
――力では勝てない。
そう悟ったアルトは、ふと守護者の胸に輝く欠片を見上げる。
「……あれが心臓ってわけだな。」
「でも近づくのは無謀よ!」
「だったら、お前の幻影で隙を作れないか?」
アルトの声に、ファントムの目が見開かれる。
迷宮は心を映す牢獄。
ならば彼女自身の幻を、逆手に取ることができるかもしれない。
「やってみる価値はあるわね……。」
ファントムは仮面の奥で静かに瞳を閉じ、意識を集中させた。
すると霧の中から、かつての“彼女の幻影”が再び姿を現す。
純粋な少女の姿をした幻影は、守護者の前に立ち塞がった。
その瞬間、巨人の動きが一瞬だけ止まる。
「今だ――!」
アルトは迷わず疾駆した。
影のように駆け抜け、跳躍し、胸部の欠片めがけて短剣を突き立てる。
ガァァアアアッッッ!!
守護者の咆哮が迷宮を揺るがす。
だが刃は確かに欠片を貫き、青い光が爆ぜた。
巨人は一歩、二歩と後退し、全身に亀裂を走らせながら崩れ落ちる。
その胸から転がり出たのは、澄んだ蒼色に輝く〈ルナの涙〉の小片だった。
アルトはそれを拾い上げ、息を荒げながらファントムを振り返った。
「……取ったぞ。」
ファントムは短く頷き、幻影を消し去る。
「これで、核心へ進めるはず。」
崩壊する守護者の残骸の奥に、新たな石扉が開き始める。
青い光が差し込み、霧を切り裂いて道を示した。
「待っているのは……真実か、それとも別の罠か。」
ファントムの低い声に、アルトは小さく笑った。
「どっちだろうが、盗み出してみせるさ。」
二人は揺れる青光の先へと歩みを進めた。
その奥には、まだ知らぬ〈ルナの涙〉の核心が眠っている。




