第二部 第21話 ―石門の迷宮 ― 試練の幻影
石門をくぐった瞬間、空気は一変した。
冷たい霧が足元から立ち上り、道は無限に続く回廊へと姿を変える。
壁一面には古代文字が浮かび上がり、淡い青白い光で二人を照らしていた。
「……ここは?」
アルトが目を細める。
ファントムはしばし周囲を観察し、低く答えた。
「迷宮だ。〈ルナの涙〉を守るために築かれた、“心を試す牢獄”。」
その言葉の直後、回廊の壁が揺らめき、光が像を結んだ。
――アルトの前に立っていたのは、彼の師であるかつてのファントム。
亡き姿の幻影だった。
「アルト……なぜ私を裏切った?」
声はかすれ、しかし確かに心を抉る。
アルトは一歩後ずさった。
「これは……幻だ。」
だが幻影は追いすがる。
「お前が盗んだのは宝ではない。希望だ。仲間たちの命を……。」
アルトの胸に押し込めていた罪の記憶が蘇る。
拳を握りしめ、幻に刃を向ける。
「俺は――もう過去には縛られねぇ!」
剣が振り抜かれた瞬間、幻影は霧となって消えた。
一方、別の通路に立たされたファントムの前にも、幻が現れていた。
それは幼き日の彼女自身。
無垢な瞳でこちらを見上げ、問いかける。
「どうして仮面をつけ続けるの? 本当の自分を隠したまま、何を守れるの?」
ファントムの手が震えた。
長きにわたり背負い続けた孤独と、己の素顔に宿る血の秘密。
それを突きつけられ、彼女は唇を噛む。
しかし次の瞬間、アルトの声がどこからともなく響いた。
「幻は幻だ! 本当の道は、俺たち自身が決める!」
その言葉に背を押され、ファントムは幻影を切り裂いた。
霧が晴れ、二人は再び合流する。
「……お前の声が聞こえた。」
「勝手に届いたんだろ。」
互いに視線を逸らしながらも、確かに絆は深まっていた。
だが安堵も束の間、迷宮の奥で轟音が鳴り響く。
霧が裂け、巨大な石像の守護者が立ち上がった。
両の瞳には青い炎が宿り、その胸部には〈ルナの涙〉の欠片が埋め込まれている。
「次は……力の試練ってわけか。」
アルトが苦笑し、剣を構える。
「ええ、でも今回は二人で突破する。」
ファントムが仮面越しに微笑むと、二人は同時に守護者へと跳び込んだ。
迷宮は、ついに真の試練を解き放ったのだった――。




